09:45 〜 10:00
[S01-02] 地震波速度変化の統計的特徴(3)
はじめに
地震波干渉法に基づき地震波速度変化のモニタリングを行い,地震や火山噴火に伴う異常を検出するには,平常時の振る舞いを理解し,その統計的な特徴を事前に調べておくことが重要である.中原(2017,2018,ともに地震学会)では,日本の複数の地域に対して求められた地震波速度変化の平常時の確率密度分布を調査した.しかしその際,地震波速度変化の平均値の時間変化は考慮していなかったため,年周変動などのゆっくりとした変化が確率密度分布に影響を及ぼす可能性が残った.そこで本研究では,観測された地震波速度変化のゆっくりと変化する成分を低次の自己回帰(AR)過程でモデル化し,観測値とその値との残差の確率密度分布を調べることにした.
データ
解析には,Wang et al. (2017 )により日本全国のHi-net観測点の連続データを用いて計算された地震波速度変化を使用した.0.15-0.9Hzの周波数帯における9成分の相互相関テンソルのラグタイム-60sから60sの部分を用いて各観測点での地震波速度が計算されている.各観測点から30㎞以内の観測点とのペアに対する相互相関テンソルが使われている.相互相関テンソル9成分のコーダ部分と複数の観測点ペアを用いることで,地震波速度変化の推定が安定化されている.Wang et al. (2017)では,近畿地方中部を境に北東側480点においては2008年から2012年にかけての期間が解析され,南西側214点では2011年から2012年にかけての期間が解析された.
AR過程による地震波速度変化のモデル化
中原(2014,地震学会)は,観測された地震波速度変化のスペクトル解析を最大エントロピー法(MEM)に基づき行ったが,本研究ではAR過程の次数を10以下に拘束してAR係数を推定した.その理由は,観測された地震波速度変化のゆっくりとした変化をモデル化したいためである.
確率密度分布
本研究では「平常時」の地震波速度変化の確率密度分布を調べたいため,地震による明瞭なステップ変化が見られない期間のデータを利用した.北東側の観測点では2009-2010年の2年間,南西側の観測点では2011-2012年の2年間を選んだ.観測値からAR過程でモデル化された値を差し引いた残値に対して,平均ランク法により図1のようなガウス確率プロットを作成し,その直線性を確認することによりガウス分布に従うかどうかを調べた.700点近いすべての観測点に対して,ガウス確率プロット上での直線性が極めて高いことが分かった.これは,中原(2018)で確認した様に,平常時の地震波速度変化がガウス分布に従っていると仮定してもよいことを意味する.
定量的モニタリングに向けて
今回の結果から,平常時の地震波速度変化の平均値と標準偏差σが分かるので,例えば閾値を平均値±4σに設定すると,それを超える確率はガウス分布に基づき約0.01%と定量的に計算できる.さらに時間的に連続して閾値を超えると,そのような確率はさらに小さくなる.つまり異常がどの程度稀であるかを確率的に表現できることになる.確率を用いることにより,モニタリングを定量化でき,自動的な異常検知も可能になる.またAR係数は,観測点周辺の地下構造の情報を含んでいると考えられ,観測点によっては大地震前後で変化している可能性が示唆された.
まとめ
本研究では,日本全国で求められた平常時の地震波速度変化のデータについて,まず低次のAR過程でモデル化し,そこからの残差の確率密度分布を求めた.その結果,すべての観測点で残差はガウス分布に従うことが分かった.この知見は,今後定量的かつ自動的なモニタリングを行う際に不可欠である.異常を知るには平常を知ること,定量化するには確率を用いること,の重要性を改めて認識した.
謝辞 フランス・グルノーブルアルプ大学のQingyu Wang氏には,地震波速度変化のデータを提供していただいた.ここに記して感謝いたします.
地震波干渉法に基づき地震波速度変化のモニタリングを行い,地震や火山噴火に伴う異常を検出するには,平常時の振る舞いを理解し,その統計的な特徴を事前に調べておくことが重要である.中原(2017,2018,ともに地震学会)では,日本の複数の地域に対して求められた地震波速度変化の平常時の確率密度分布を調査した.しかしその際,地震波速度変化の平均値の時間変化は考慮していなかったため,年周変動などのゆっくりとした変化が確率密度分布に影響を及ぼす可能性が残った.そこで本研究では,観測された地震波速度変化のゆっくりと変化する成分を低次の自己回帰(AR)過程でモデル化し,観測値とその値との残差の確率密度分布を調べることにした.
データ
解析には,Wang et al. (2017 )により日本全国のHi-net観測点の連続データを用いて計算された地震波速度変化を使用した.0.15-0.9Hzの周波数帯における9成分の相互相関テンソルのラグタイム-60sから60sの部分を用いて各観測点での地震波速度が計算されている.各観測点から30㎞以内の観測点とのペアに対する相互相関テンソルが使われている.相互相関テンソル9成分のコーダ部分と複数の観測点ペアを用いることで,地震波速度変化の推定が安定化されている.Wang et al. (2017)では,近畿地方中部を境に北東側480点においては2008年から2012年にかけての期間が解析され,南西側214点では2011年から2012年にかけての期間が解析された.
AR過程による地震波速度変化のモデル化
中原(2014,地震学会)は,観測された地震波速度変化のスペクトル解析を最大エントロピー法(MEM)に基づき行ったが,本研究ではAR過程の次数を10以下に拘束してAR係数を推定した.その理由は,観測された地震波速度変化のゆっくりとした変化をモデル化したいためである.
確率密度分布
本研究では「平常時」の地震波速度変化の確率密度分布を調べたいため,地震による明瞭なステップ変化が見られない期間のデータを利用した.北東側の観測点では2009-2010年の2年間,南西側の観測点では2011-2012年の2年間を選んだ.観測値からAR過程でモデル化された値を差し引いた残値に対して,平均ランク法により図1のようなガウス確率プロットを作成し,その直線性を確認することによりガウス分布に従うかどうかを調べた.700点近いすべての観測点に対して,ガウス確率プロット上での直線性が極めて高いことが分かった.これは,中原(2018)で確認した様に,平常時の地震波速度変化がガウス分布に従っていると仮定してもよいことを意味する.
定量的モニタリングに向けて
今回の結果から,平常時の地震波速度変化の平均値と標準偏差σが分かるので,例えば閾値を平均値±4σに設定すると,それを超える確率はガウス分布に基づき約0.01%と定量的に計算できる.さらに時間的に連続して閾値を超えると,そのような確率はさらに小さくなる.つまり異常がどの程度稀であるかを確率的に表現できることになる.確率を用いることにより,モニタリングを定量化でき,自動的な異常検知も可能になる.またAR係数は,観測点周辺の地下構造の情報を含んでいると考えられ,観測点によっては大地震前後で変化している可能性が示唆された.
まとめ
本研究では,日本全国で求められた平常時の地震波速度変化のデータについて,まず低次のAR過程でモデル化し,そこからの残差の確率密度分布を求めた.その結果,すべての観測点で残差はガウス分布に従うことが分かった.この知見は,今後定量的かつ自動的なモニタリングを行う際に不可欠である.異常を知るには平常を知ること,定量化するには確率を用いること,の重要性を改めて認識した.
謝辞 フランス・グルノーブルアルプ大学のQingyu Wang氏には,地震波速度変化のデータを提供していただいた.ここに記して感謝いたします.