17:15 〜 18:45
[S03P-13] EnKFによる粘弾性変形および粘性構造の推定 ー 数値実験
巨大地震発生後、地殻・マントル内では生じた応力変化によって粘弾性変形が起こり、余効変動の一部として地殻変動が観測される。巨大地震発生域の周辺の断層では、地震時すべりだけでなく、深部の粘弾性変形による応力の載荷を長期間受ける。例えば西南日本では過去の南海・東南海地震の前後で内陸地震活動度の変化が指摘されており(Hori & Oike 1999)、これには深部の粘弾性変形が重要な役割を果たしていることがモデル研究から示唆されている(Shikakura et al., 2014)。地震後の粘弾性変形を見積もることは、将来どこで地震が起こりやすいかを評価する上で重要である。
巨大地震発生後の粘弾性変形の時間発展を求めるには、地下の粘性構造を知る必要がある。地殻変動のデータから地下の物性・物理量を求める手法として、近年、データと背景の物理モデルの両方に依拠した解を得るデータ同化手法が使われ始めている。錦織(2018)では、逐次データ同化手法の一つであるアンサンブルカルマンフィルター(EnKF)を用いて、SSE発生域のすべり及びその摩擦特性を推定する手法を開発し、豊後水道で繰り返し発生するSSEを想定した数値実験によってその有効性を示した。EnKFでは物理モデルに従って時間発展する未知の変数・パラメタの組(アンサンブル)によって予報のばらつきを表現する。データが得られる毎に、適切な重み付けによりモデルの修正を行いより尤もらしい解を得る。本研究では地震後の地殻変動にEnKFを適用し、地下の粘性・巨大地震後の非弾性歪みの時間発展を推定する手法の開発を行った。
粘弾性変形の時間発展を計算する手法として、等価体積力法(Barbot and Fialko, 2010; Lambert et al., 2016)を用いた。等価体積力法では領域を立方体セルに分割し、各セルの非弾性歪みを等価な体積力に置き換え、弾性体中の歪み−応力関係を示すグリーン関数を用いて粘弾性歪みを考慮した応力場を計算する。ある時刻の粘弾性歪み・応力の時間微分が、その時刻の変数の値で表されるため、EnKFの適用に適している。時間発展の計算では粘弾性媒質の離散セル数Nviscoに対して計算量がO(Nvisco2)であり、またEnKFでは各アンサンブルに対してそれぞれ時間発展を計算する必要があるため計算負荷が高い。そこで密行列圧縮手法であるH行列法(Hackbush, 1999)を適用し計算量の削減を行った(大谷・平原, 2017)。本研究では、以下に示す単純なモデルを設定し、模擬データを用いてたEnKF推定の数値実験を行ったので、これについて紹介する。
走行・傾斜方向に10 km ×10 km・傾斜角30度の長方形の断層を考える。断層の走行方向にx1,水平面でこれと直交する方向にx2, 深さ方向にx3軸をとり、断層をx1= 0 – 10 km, x3= 0 – 5 kmの位置に置いた。媒質としてx3 < 20 kmを弾性体、x3 ≧ 20 kmをMaxwell粘弾性体とする。粘弾性体のうちx1 < 5 kmを粘性η1 = 1.0 × 1018 Pa・s (= η1_true), x1 ≧ 5 kmを粘性η2= 0.7× 1018 Pa・s (= η2_true)とした。時刻t = 0で断層に傾斜方向に1 mのすべりを与え、その後t > 0で断層面上のすべりをゼロとする。このとき地表に5 km間隔で120点模擬観測点をおきt ≧ 0の変位の時間発展を計算し、これに適当なノイズを加えて模擬データとした。
この模擬データ対して、t = 0時点での粘弾性体の非弾性歪み・応力は既知であるとして、粘性η1, η2を0.5 × 1018– 1.1 × 1018 Pa・sの間でばらつかせた初期アンサンブルを20個用意し、EnKFで逐次に模擬データとモデルとの同化を行った。図にη1/η1_true, η2/η2_trueの変化を示す。t 〜 150日で各アンサンブルのη1, η2はおよそ収束し、η2は真値η2_trueからは少しずれてはいるものの、これらは真値の近くの値に収束する。今後、粘弾性構造や観測ノイズ、初期アンサンブルの取り方が解の推定にどのように影響するかを調べていきたい。
謝辞: 弾性体中の歪みー応力のグリーン関数を計算するプログラムをBarbot氏に提供していただきました。記して感謝いたします。
巨大地震発生後の粘弾性変形の時間発展を求めるには、地下の粘性構造を知る必要がある。地殻変動のデータから地下の物性・物理量を求める手法として、近年、データと背景の物理モデルの両方に依拠した解を得るデータ同化手法が使われ始めている。錦織(2018)では、逐次データ同化手法の一つであるアンサンブルカルマンフィルター(EnKF)を用いて、SSE発生域のすべり及びその摩擦特性を推定する手法を開発し、豊後水道で繰り返し発生するSSEを想定した数値実験によってその有効性を示した。EnKFでは物理モデルに従って時間発展する未知の変数・パラメタの組(アンサンブル)によって予報のばらつきを表現する。データが得られる毎に、適切な重み付けによりモデルの修正を行いより尤もらしい解を得る。本研究では地震後の地殻変動にEnKFを適用し、地下の粘性・巨大地震後の非弾性歪みの時間発展を推定する手法の開発を行った。
粘弾性変形の時間発展を計算する手法として、等価体積力法(Barbot and Fialko, 2010; Lambert et al., 2016)を用いた。等価体積力法では領域を立方体セルに分割し、各セルの非弾性歪みを等価な体積力に置き換え、弾性体中の歪み−応力関係を示すグリーン関数を用いて粘弾性歪みを考慮した応力場を計算する。ある時刻の粘弾性歪み・応力の時間微分が、その時刻の変数の値で表されるため、EnKFの適用に適している。時間発展の計算では粘弾性媒質の離散セル数Nviscoに対して計算量がO(Nvisco2)であり、またEnKFでは各アンサンブルに対してそれぞれ時間発展を計算する必要があるため計算負荷が高い。そこで密行列圧縮手法であるH行列法(Hackbush, 1999)を適用し計算量の削減を行った(大谷・平原, 2017)。本研究では、以下に示す単純なモデルを設定し、模擬データを用いてたEnKF推定の数値実験を行ったので、これについて紹介する。
走行・傾斜方向に10 km ×10 km・傾斜角30度の長方形の断層を考える。断層の走行方向にx1,水平面でこれと直交する方向にx2, 深さ方向にx3軸をとり、断層をx1= 0 – 10 km, x3= 0 – 5 kmの位置に置いた。媒質としてx3 < 20 kmを弾性体、x3 ≧ 20 kmをMaxwell粘弾性体とする。粘弾性体のうちx1 < 5 kmを粘性η1 = 1.0 × 1018 Pa・s (= η1_true), x1 ≧ 5 kmを粘性η2= 0.7× 1018 Pa・s (= η2_true)とした。時刻t = 0で断層に傾斜方向に1 mのすべりを与え、その後t > 0で断層面上のすべりをゼロとする。このとき地表に5 km間隔で120点模擬観測点をおきt ≧ 0の変位の時間発展を計算し、これに適当なノイズを加えて模擬データとした。
この模擬データ対して、t = 0時点での粘弾性体の非弾性歪み・応力は既知であるとして、粘性η1, η2を0.5 × 1018– 1.1 × 1018 Pa・sの間でばらつかせた初期アンサンブルを20個用意し、EnKFで逐次に模擬データとモデルとの同化を行った。図にη1/η1_true, η2/η2_trueの変化を示す。t 〜 150日で各アンサンブルのη1, η2はおよそ収束し、η2は真値η2_trueからは少しずれてはいるものの、これらは真値の近くの値に収束する。今後、粘弾性構造や観測ノイズ、初期アンサンブルの取り方が解の推定にどのように影響するかを調べていきたい。
謝辞: 弾性体中の歪みー応力のグリーン関数を計算するプログラムをBarbot氏に提供していただきました。記して感謝いたします。