Seismological Society of Japan Fall Meeting

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Poster session (Sept. 18th)

General session » S10. Active Faults, Historical Earthquakes

S10P

Wed. Sep 18, 2019 1:00 PM - 2:30 PM ROOM P (International Conference Halls II and III)

1:00 PM - 2:30 PM

[S10P-02] Construction of fault models in the Izu-Bonin Islands area and evaluation of Tsuami

*Kimie Norimatsu1, Hisanori Matsuyama1, Tsuneo Ohsumi2, Narumi Takahashi3, Hiroyuki Fujiwara2 (1. OYO Corporation, 2. NIED, 3. JAMSTEC/NIED)

1.まえがき

 本研究では音波探査等の観測から得られた断層情報にもとづき、津波および地震動の予測計算で利用可能な断層モデル群を構築するための手法を検討している。これまで、日本海海域および南西諸島海域について、断層パラメータの設定方法を検討し、断層モデルの設定を行い、報告してきた(乗松ほか,2018:地震学会秋大会など)。今回は伊豆・小笠原海域のアウターライズ領域および小笠原海台周辺、島弧周辺、相模湾、銭洲海嶺周辺の断層473本について、断層下端深度の設定方法が異なる断層モデル、合計946モデルを設定した。

2.断層モデルの設定

 断層モデルの設定にあたって、本研究では別途解釈される観測結果をもとに、先行研究における既往の断層モデルの設定方法も参照し、断層の巨視的特性をあらわすパラメータ(断層の位置、長さ、上端および下端の深度、走向、傾斜角、すべり角、幅、平均すべり量)を設定した。用いた断層データには、観測手法や条件に起因する不確実性や断層および地震などの自然現象そのものに含まれるばらつきがある。これらについては「偶然的ばらつき」として断層モデルにばらつきの範囲を与えることにより考慮している。一方、データを解釈し、断層モデルとして単純化、規格化する際に複数の考え方や方法があり、一義的に決定できないものについては、「認識論的不確定性」として複数パターンのパラメータを設定した。平均すべり量については、断層面積とモーメント量の経験的関係をあらわすスケーリング則の平均的な値に+1σ程度のばらつきの範囲を想定することで、偶然的ばらつきを考慮している。断層下端深度の設定については、平均的な深さとして設定する場合と、不確定性を考慮した、より安全側の設定とする場合の2通りとして設定した。

3.伊豆・小笠原海域の断層モデル

 伊豆・小笠原海域においては、「海域における断層情報総合評価プロジェクト(海域断層PJ)」で、アウターライズ領域の断層分布が明瞭に示された。アウターライズ地震は、海溝型地震の発生に深く関係し、大きな津波を引き起こす可能性があると考えられているものの、このような観測にもとづく断層データに乏しく、知見が不足している地震である。本研究では、海域断層PJで得られた断層データを用いて、先行研究も参照し、断層下端深度の設定を検討した。平均的な下端深度を設定する方法としては、東北地方太平洋沖地震後に岩手県沖のアウターライズ領域で発生した正断層地震の発生深度を参照して設定することとし、不確定性を考慮した設定では、剛性/塑性遷移の深度として設定することとした。アウターライズ以外の領域の断層下端深度は、この地域の島弧の性質が大陸地殻と類似しているとの既往研究による知見から、平均的な下端深度として海域断層PJで得られた3次元速度構造分布より、コンラッド面として設定し、不確定性を考慮した設定としては「下端をコンラッド面としたときの断層幅に5㎞を加算したときの深さ」として設定した。

4.断層モデルを用いた津波の概略予測

 設定した断層モデルを用いた津波予測計算の概略的な計算結果では、島弧および相模湾、銭洲海嶺周辺の断層による津波は、複数断層の連動的破壊を考慮してもアウターライズ領域の断層から想定される津波のほうがはるかに大きな影響を引き起こすという結果が得られた。アウターライズ領域の断層から想定される津波は島嶼部で20mを越えることが予想され、本州においても、関東周辺のみならず、四国や沖縄本島にも数m~5m程度の津波が予想された。

5.まとめ

 本研究の結果は、従来、情報が不足していたアウターライズ領域の断層について、観測データをもとにした網羅的な断層モデルの設定を行い、伊豆・小笠原地域の津波防災を検討する際の新しい知見が得た。特に、アウターライズ地震により断層近傍の地域のみでなく、距離的に離れている地域においても、比較的大きな津波が到来し得るということは、今後、津波によるハザード評価を検討する上で、アウターライズ地震を考慮することの重要性を示す結果となった。



(謝辞) この研究は文部科学省による「海域における断層情報総合評価プロジェクト」の一環として実施しました。