14:30 〜 14:45
[S14-01] 地震予知の可能性に関する専門家アンケートに対する社会的反応
地震の直前予知の可能性について、多くの地震研究者は「難しい」という見解を繰り返し述べているが、市民や行政担当者と研究者の間で難しさについての共通認識が得られているとは言い難い。研究者の中でも地震予知に関する認識は様々で、「破壊現象は偶然に支配される部分が大きいため原理的に無理」ということを強調する人、「科学的には地震予知の可能性があるので今は難しいが研究を続けなければならない」という視点を強調する人、「社会対応まで含めると実用的地震予知の実現は無理」と考える人などがいて、地震予知の難しさについての統一見解のようなものがあるわけではない。また、研究者の間でも認識に幅があるということは、正解や見本のある問題に慣れすぎてしまった人や、強力なリーダーシップに期待しがちな人々には受け入れがたいことであり、このことが社会対応まで含めた地震予知の議論が暴走しやすい一因とも思われる。そこで林(2019, 地球惑星科学連合大会)では、地震予知に至るまでの過程を科学的および社会的要素に分解したアンケート調査を行い、地震研究者が考える地震予知の難しさの定量化・可視化を試みた。
アンケートは日本地震学会の理事15人と代議員123人の合計138人を対象とし、メールまたは対面で依頼し記名での回答を求めた。最終的に90人から有効な回答を得た(有効回答率65%)。
地震予知に至るまでのプロセスは「1.地震前の異常現象の有無」、「2.異常現象の観測可能性」、「3.観測されたデータから短時間で異常を判定できる可能性」、「4.判定した結果を即座に社会に向けて発表できるか否か」という4つの要素に分けて、それぞれについて0%から100%まで10%刻みの数値で回答を求めた(=予知率)。また、地震予知に関連する情報が発表された時に、地震が発生する確率についても同様に0%から100%まで10%きざみの数値で回答を求めた(=的中率)。各数値に理論的根拠や観測記録に基づいた根拠を求めることは困難であるが、研究者の経験や直感は無視できないと考えて、擬似的な定量的評価を試みた。
地震予知に至る4つの要素はいずれも地震研究者が考える成功率の幅は大きく、当初想定していたように地震研究者の統一見解は得られなかった。例えば「地震前に異常現象が存在する」は平均値49.3%、中央値50%、標準偏差30.5で0%から100%まで回答の幅があった。
4要素の中で最も困難だと考えられていたのは、観測されたデータから短時間で異常を判定することで、平均値27.9%、中央値20%、標準偏差26.5であった。また、研究者間でもっとも評価がわかれたのは、判定された結果を即座に発表できるか否かであった(平均値40.9%、中央値50%、標準偏差34.6)。これは科学とは関係しない部分で、地震研究者の行政組織への信頼感に幅があることを反映しているものと考えられる。
各研究者が評価した予知率(1×2×3×4)の平均値は5.8%(中央値では1.2%)で非常に低い値となった。また予知情報が出されたときに地震が実際に発生する確率(的中率)の見積もりは平均で19.7%となり、5回情報が出ても4回は地震が起きないだろうという評価になった。
予知に至るまでの4つの要素をそれぞれ単独で見れば、いずれも30%から50%程度は可能性があると評価されており、ある程度は期待できる数値である。この値は静岡県による市民の地震予知への期待値に関する調査における平均値に近い値でもある。しかし地震予知を成功させるには、4つのプロセス全てが成功しなければならないため、最終的な予知率は極めて低くなる。
このような内容についての発表が新聞記者の目にとまり、連合大会の発表前にK通信とY新聞から取材を受けた。K通信の配信記事は全国の地方紙や日本経済新聞などに掲載されるとともに、Yahoo!ニュースのトップにも掲載された。取材対応においては研究者の認識に幅が大きいことと、各要素を単独で取り出すと30%から50%と考える研究者が多く、これだけに注目すると地震予知に期待がもてるような印象を与え、それが誤った印象を市民にあたえがちなことを強調したが、記事になる時にはわかりやすさが優先され、予知率の平均値5.8%に、的中率の平均値19.7%をかけた地震予知の成功率は1%という見出しになった。多様性があり、回答の幅もあるので、単純な平均値で結果を説明するのは難しいということを、社会に伝えることの難しさを味わうとともに、ややヒステリックなメールやSNSの反応も多数いただいた。またK通信の配信記事では、見出しの変更や独自取材による識者のコメントの追加が認められており、同じ内容の記事であっても地方によって与える印象に大きな差が見られた。
一方、Y新聞については日本地震学会の会長や、評価検討会の委員長が地震予知は難しいと言っていること、そのものですよねという反応で、こちらは記事になることはなかった。
アンケートは日本地震学会の理事15人と代議員123人の合計138人を対象とし、メールまたは対面で依頼し記名での回答を求めた。最終的に90人から有効な回答を得た(有効回答率65%)。
地震予知に至るまでのプロセスは「1.地震前の異常現象の有無」、「2.異常現象の観測可能性」、「3.観測されたデータから短時間で異常を判定できる可能性」、「4.判定した結果を即座に社会に向けて発表できるか否か」という4つの要素に分けて、それぞれについて0%から100%まで10%刻みの数値で回答を求めた(=予知率)。また、地震予知に関連する情報が発表された時に、地震が発生する確率についても同様に0%から100%まで10%きざみの数値で回答を求めた(=的中率)。各数値に理論的根拠や観測記録に基づいた根拠を求めることは困難であるが、研究者の経験や直感は無視できないと考えて、擬似的な定量的評価を試みた。
地震予知に至る4つの要素はいずれも地震研究者が考える成功率の幅は大きく、当初想定していたように地震研究者の統一見解は得られなかった。例えば「地震前に異常現象が存在する」は平均値49.3%、中央値50%、標準偏差30.5で0%から100%まで回答の幅があった。
4要素の中で最も困難だと考えられていたのは、観測されたデータから短時間で異常を判定することで、平均値27.9%、中央値20%、標準偏差26.5であった。また、研究者間でもっとも評価がわかれたのは、判定された結果を即座に発表できるか否かであった(平均値40.9%、中央値50%、標準偏差34.6)。これは科学とは関係しない部分で、地震研究者の行政組織への信頼感に幅があることを反映しているものと考えられる。
各研究者が評価した予知率(1×2×3×4)の平均値は5.8%(中央値では1.2%)で非常に低い値となった。また予知情報が出されたときに地震が実際に発生する確率(的中率)の見積もりは平均で19.7%となり、5回情報が出ても4回は地震が起きないだろうという評価になった。
予知に至るまでの4つの要素をそれぞれ単独で見れば、いずれも30%から50%程度は可能性があると評価されており、ある程度は期待できる数値である。この値は静岡県による市民の地震予知への期待値に関する調査における平均値に近い値でもある。しかし地震予知を成功させるには、4つのプロセス全てが成功しなければならないため、最終的な予知率は極めて低くなる。
このような内容についての発表が新聞記者の目にとまり、連合大会の発表前にK通信とY新聞から取材を受けた。K通信の配信記事は全国の地方紙や日本経済新聞などに掲載されるとともに、Yahoo!ニュースのトップにも掲載された。取材対応においては研究者の認識に幅が大きいことと、各要素を単独で取り出すと30%から50%と考える研究者が多く、これだけに注目すると地震予知に期待がもてるような印象を与え、それが誤った印象を市民にあたえがちなことを強調したが、記事になる時にはわかりやすさが優先され、予知率の平均値5.8%に、的中率の平均値19.7%をかけた地震予知の成功率は1%という見出しになった。多様性があり、回答の幅もあるので、単純な平均値で結果を説明するのは難しいということを、社会に伝えることの難しさを味わうとともに、ややヒステリックなメールやSNSの反応も多数いただいた。またK通信の配信記事では、見出しの変更や独自取材による識者のコメントの追加が認められており、同じ内容の記事であっても地方によって与える印象に大きな差が見られた。
一方、Y新聞については日本地震学会の会長や、評価検討会の委員長が地震予知は難しいと言っていること、そのものですよねという反応で、こちらは記事になることはなかった。