日本地震学会2019年度秋季大会

講演情報

A会場

一般セッション » S15. 強震動・地震災害

[S15]AM-1

2019年9月16日(月) 09:30 〜 10:30 A会場 (百周年記念ホール)

座長:吉田 沙由美(株式会社阪神コンサルタンツ)、松浦 律子(公益財団法人地震予知総合研究振興会)

10:15 〜 10:30

[S15-04] 過去400余年間の日本の既往最大震度の推定

*松浦 律子1、石辺 岳男1、岩佐 幸治1、古村 美津子1 (1. 公益財団法人地震予知総合研究振興会)

これまで,四半世紀近く,近世の被害地震の系統的な解析を実施して,震源域・深さ・規模の推定を系統的に蓄積し [e.g. 中村・松浦(2018)],種々の歴史地震によって地震動の強さが推定された地点は,250m メッシュ以上の分解能で8000点以上蓄積されている [e.g. Matsu’ura (2017)].未だ安政東海・南海地震など解析が完了していない地震が1割程度残されているものの,この8000余点の分布と,Miyazawa and Mori (2009) による最近500年間の各地の既往最大震度分布図とには,大きな乖離がある.

最近,地震の場所とMw,震源タイプ,地点のAVS30と関連する直下のスラブの深さ,が与えられれば,地点の計測震度を予測できる簡単な式ができた [Matsu’ura et al. (2019)].この式は,表層の影響も,東日本の太平洋側で顕著である異常震域等も含まれており,一切の後付け補正項が必要ない.震源の深さの精度で式が切り替わる心配もない.

そこで,J-SHISの250m メッシュのAVS30の値,及びCAMPモデル [Hashimoto et al. (2004)] を利用した国内陸地の各250m メッシュ直下のPAC及びPHSスラブの上面深さを用意して,1585年以降2018年までに日本で発生したM6.8以上の地震による日本の全メッシュ毎の震度を推定した.推定に用いた震源は,1884年~1922年は宇津 (1999),1923年~2018年は気象庁震源カタログ,さらに両者に松浦・石辺 (2018) など近代に関する個別の検討を加えた.1585年から1884年までは松浦・ほか (2010) などの近世の解析結果[e.g. Matsu’ura (2017)]をMに関わらず含め,未解析のM6.8以上とされる大地震は宇佐美・ほか (2013) などを参考に震源および震源域を補充して用いた.利用したカタログはすべて気象庁Mが与えられているので,Mwは気象庁Mより0.2小さいと仮定した.使用した震度推定式は,Mw7.5以上は震源域からの最短距離を用いるので,「日本の地震活動」等に示された震源域を参考とした.

こうして,1585年以降434年間の既知の大地震による,各メッシュの既往最大震度の全国推定図が得られた (図1).比較のために,1585年天正地震以降288年間の史料から判る範囲での既往最大の震度の分布図[Matsu’ura (2017)]を示す.比較して全国推定図の方が著しく赤い部分は,例えば1894年根室沖,1952年と2003年十勝沖地震等,北海道東部の巨大地震のような明治以降しか地震履歴が判らない場所で発生した地震による高震度や,濃尾地震・福井地震・鳥取地震・東北地方太平洋沖地震とその後の一連の珍しい場所の地震など,近代以降の大地震による震度が既往最大となっている地域である.その他で両者は良く合致している.蓄積された歴史地震の震度データ,推定された歴史地震の震源,現代データから導出された震度推定式が相互によく合致しており,3つが一貫していることが確認できた.一方,Miyazawa and Mori (2009)で周囲より高くなる中国山地は,この推定図では震度5.5以上にならない.彼らの空間補間がうまく機能していない証左であり,確率論的予測地図の検証には不向きであることを示している.

震度に対する地盤の影響は大きいので,歴史地震データを用いて震源推定を行う際は,史料地点の地盤の影響考慮が不可欠である.逆に地盤の影響を推定できる程度の精度で位置が決まっている歴史地震の震度でなければ,確率論的な震度予測の検証には使えないことがよく判る.長期間の予測地図があれば,今回のような全国推定最大震度を対応期間用に作成可能なので,地図の検証が可能である.
本研究は地震調査研究推進本部の評価等支援事業の一部として文部科学省からの委託によって実施された.