1:00 PM - 1:15 PM
[S01-01] Bayesian estimation method of fault slip distributions considering underground structure uncertainty based on ensemble modeling
測地データや地震波データを用いた断層すべり推定においては、地下構造の不確かさに起因するモデル予測誤差が、しばしば推定に伴う誤差の主たる要因となる。しかし、従来の断層すべり逆解析手法では、モデル予測誤差を考慮しないか、観測に伴う誤差と区別しない定式化が一般的である。一方、過去10年間で、モデル予測誤差を陽に考慮した断層すべり推定手法が複数提案されるなど(例えばYagi & Fukahata 2008 & 2011, Duputel et al. 2014, Ragon et al. 2018)、手法開発が飛躍的に進んできた。これらの手法に共通するのは、モデル予測誤差が正規分布に従うことを仮定し、推定に必要なアルゴリズムを簡単にしている点である。
本研究では、これらの研究の考え方を基礎とし、非正規分布に従うモデル予測誤差を柔軟に取り扱うことができ、同時に観測データから断層すべりだけでなく地下構造の情報も得る、という新しい断層すべり推定手法を開発する。地下構造の不確かさに関する既知の確率分布からランダムサンプルされたパラメータを基に地下構造モデルを多数生成することで、グリーン関数の不確かさを係数行列のアンサンブルにより表現する。断層すべりの事後分布を推定するベイズモデルを設定し、予測誤差に相当する積分項をこのアンサンブルを用いたモンテカルロ近似により計算する。これにより、非ガウスの予測誤差を考慮した断層すべりの事後分布推定が可能となる。さらに、モンテカルロ積分を行う過程で各係数行列に対する尤度も計算されることにより、地下構造モデルのサンプルの中から尤もらしいものの抽出を同時に行うことができる。事後分布のサンプリングにはレプリカ交換モンテカルロ法を用いる。事前に係数行列を十分数計算しておけばよいという点から、断層すべりと地下構造パラメータの事後分布を直接的に同時サンプリングする方法と比べ、計算コストにおいてアドバンテージがある。
手法の有効性を確かめるため、2次元半無限均質弾性体内の低角逆断層におけるすべり遅れレート(SDR)の測地データを用いた推定について数値実験を行った。すべり遅れレート分布の真値を設定し、真のディップ角を15度として人工データを作成した。その上で、ディップ角について、「平均18度、標準偏差3度の正規分布に従う」というバイアスを含んだ不確かな情報しかない、という状況を想定して推定を行った。このような場合、予測誤差は一般に正規分布には従わない。SDRの事後分布を推定したところ、事前知識におけるディップ角の平均値がディップ角真値と3度ずれているにもかかわらず、事後確率分布を近似するSDR分布のサンプル群がSDR分布の真値とよく整合した。ディップ角の不確かさに由来する予測誤差が精度よく推定されていることが示唆される。予測誤差を考慮しない場合はSDR分布の事後確率分布がSDR分布の真値と整合的でなかったため、手法の有効性が示されたといえる。また、SDRの事後分布のサンプリングを通じて計算された係数行列の事後確率密度を調べたところ、ディップ角15度前後に対応した係数行列の事後確率密度が特に大きくなっていた。このように、推定を通じて、データから真の地下構造に関する情報も得ることができた。同時に、ディップ角の推定精度が、事前情報の不確かさを表す、事前に設定したディップ角の標準偏差の大きさに依存することを確認した。また各観測点におけるモデル予測誤差の確率分布形状を可視化したところ、複数の観測点で、正規分布では通常表現が難しいといわれる歪度の大きな分布となっていることが確認された。
本研究では、これらの研究の考え方を基礎とし、非正規分布に従うモデル予測誤差を柔軟に取り扱うことができ、同時に観測データから断層すべりだけでなく地下構造の情報も得る、という新しい断層すべり推定手法を開発する。地下構造の不確かさに関する既知の確率分布からランダムサンプルされたパラメータを基に地下構造モデルを多数生成することで、グリーン関数の不確かさを係数行列のアンサンブルにより表現する。断層すべりの事後分布を推定するベイズモデルを設定し、予測誤差に相当する積分項をこのアンサンブルを用いたモンテカルロ近似により計算する。これにより、非ガウスの予測誤差を考慮した断層すべりの事後分布推定が可能となる。さらに、モンテカルロ積分を行う過程で各係数行列に対する尤度も計算されることにより、地下構造モデルのサンプルの中から尤もらしいものの抽出を同時に行うことができる。事後分布のサンプリングにはレプリカ交換モンテカルロ法を用いる。事前に係数行列を十分数計算しておけばよいという点から、断層すべりと地下構造パラメータの事後分布を直接的に同時サンプリングする方法と比べ、計算コストにおいてアドバンテージがある。
手法の有効性を確かめるため、2次元半無限均質弾性体内の低角逆断層におけるすべり遅れレート(SDR)の測地データを用いた推定について数値実験を行った。すべり遅れレート分布の真値を設定し、真のディップ角を15度として人工データを作成した。その上で、ディップ角について、「平均18度、標準偏差3度の正規分布に従う」というバイアスを含んだ不確かな情報しかない、という状況を想定して推定を行った。このような場合、予測誤差は一般に正規分布には従わない。SDRの事後分布を推定したところ、事前知識におけるディップ角の平均値がディップ角真値と3度ずれているにもかかわらず、事後確率分布を近似するSDR分布のサンプル群がSDR分布の真値とよく整合した。ディップ角の不確かさに由来する予測誤差が精度よく推定されていることが示唆される。予測誤差を考慮しない場合はSDR分布の事後確率分布がSDR分布の真値と整合的でなかったため、手法の有効性が示されたといえる。また、SDRの事後分布のサンプリングを通じて計算された係数行列の事後確率密度を調べたところ、ディップ角15度前後に対応した係数行列の事後確率密度が特に大きくなっていた。このように、推定を通じて、データから真の地下構造に関する情報も得ることができた。同時に、ディップ角の推定精度が、事前情報の不確かさを表す、事前に設定したディップ角の標準偏差の大きさに依存することを確認した。また各観測点におけるモデル予測誤差の確率分布形状を可視化したところ、複数の観測点で、正規分布では通常表現が難しいといわれる歪度の大きな分布となっていることが確認された。