日本地震学会2020年度秋季大会

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Room D

Regular session » S01. Theory and analysis method

[S01]PM-1

Thu. Oct 29, 2020 1:00 PM - 2:15 PM ROOM D

chairperson:Daisuke Sato(DPRI, Kyoto University), chairperson:Tsutomu Takahashi(JAMSTEC)

1:30 PM - 1:45 PM

[S01-03] Problems caused by the non-negative slip condition on seismic source inversion

〇Yukitoshi Fukahata1, Yuji Yagi2 (1.DPRI, Kyoto University, 2.Graduate School of Life and Environmental Sciences, University of Tsukuba)

地震の震源過程(断層面上でのすべり分布、あるいはすべりの時空間発展)を求めるインバージョン解析では、非負の拘束条件が広く用いられてきた。非負の拘束条件とは、例えば逆断層型の地震では、逆断層成分が常に正またはゼロで、マイナスのすべり(つまりは正断層成分)が生じないという条件のことを指す。この条件は物理的に妥当であると考えられ、多くの解析において疑問を持たずに使用されてきた。

 しかしながら、本講演で指摘するように、震源過程解析で非負の拘束条件を課すことには大きく二つの問題がある。

 一つは、そもそもなぜ非負の拘束条件が必要となるのか、という問題である。震源過程解析において、少量の負のすべりが生じることは特に問題ないであろう。観測データや解析モデルは常に誤差を含んでいるので、推定誤差の範囲内で負のすべりが生じることはある意味自然であり、別段目くじらを立てる必要はない。そして、この場合には、非負の条件を課して、(例えば、政府への提出資料等として)結果の見栄えを良くすることは許容されるだろう(後述する2つ目の問題が重大でない場合には)。

 実際のところ非負の条件が強く必要とされるのは、推定誤差を大きく越えて負のすべりが生じてしまう場合である。しかし、逆説的ではあるが、この場合には非負の拘束条件は使うべきではない。なぜなら、推定誤差を大きく越えて負のすべりが生じるということは、モデル化に重大な欠陥が隠れていることを意味するからである。つまり、何か重大な欠陥があるから、大きな負のすべりが生じてしまうのである。この場合に、非負の条件を課して一見もっともらしいすべり分布を得ることは、その重大な問題を覆い隠してしまい、真の解に近付く上ではむしろ弊害となる。但し、具体的にどのようにしてその重大な問題を解決するのかは難しい問題である。一つの方策としては、グリーン関数の誤差の導入(Yagi & Fukahata, 2011, GJI)があるが、万能ではない。しかし、この難しい問題を解決していくのが、地震学の発展というものであろう。

 もう一つの問題は、非負の拘束条件を課すと、震源域から離れたモデル領域において、そのすべり量の推定が不偏推定とならないことである。”不偏推定”とは、推定量の期待値が真値に一致することを意味し、どのように統計的推定を行うかの上で、最も重視される指標と言って良い。通常、震源過程解析では、モデル領域の設定がすべり量の推定に影響を及ぼさないように、すべりが実際に生じた範囲よりもある程度広くモデル領域を設定する。このとき、前述のようにモデル領域の端の近くの大抵の場所では、滑り量uがゼロとなることが期待される。一方、非負の条件を課すと、必然的に、E(u(x)) > 0 となる。ここで、x は空間座標、Eは期待値を表す。つまり、すべりがほぼゼロのところでは、正の方向にバイアスされた値が選ばれてしまうのである。実際の解析において、すべりがゼロの領域を含まないように断層面の設定をすることはまず不可能である。しかし、非負の条件付きの場合、すべりがゼロの領域では常に正の方向にバイアスされた値が得られる。そのため、地震モーメントを一定にするために最大すべりを含む他の領域のすべり量が減少し、すべり分布の形自体にも影響を与えるといったことが起こる。

 要するに、非負の条件だけを取り上げれば物理的に自然なものと言えるが、震源過程解析に非負の条件を用いることは、モデル化に含まれる重大な欠陥を覆い隠し、すべり分布にも無視できないバイアスを与えるという問題がある。