日本地震学会2020年度秋季大会

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Room D

Regular session » S01. Theory and analysis method

[S01]PM-1

Thu. Oct 29, 2020 1:00 PM - 2:15 PM ROOM D

chairperson:Daisuke Sato(DPRI, Kyoto University), chairperson:Tsutomu Takahashi(JAMSTEC)

2:00 PM - 2:15 PM

[S01-05] Wavelet-based analysis of surface roughness of the subducted Philippine Sea plate in the western Nankai trough

〇Tsutomu Takahashi1, Ayako Nakanishi1, Shuichi Kodaira1, Yoshiyuki Kaneda2 (1.JAMSTEC, 2.Kagawa University)

断層面の形状は幅広い空間スケールで不均質性(以下,面粗さ)を示す.露頭の断層面形状の調査などでは,面粗さのパワースペクトル密度が波数のべき乗に依存し,ハースト指数Hが0.6~0.9程度の自己アフィン性を示すことが報告されている(e.g., Brown & Scholtz 1985; Candela et al. 2011).面粗さの統計的性質は表面の摩擦係数などを理解する上で重要な要素の一つであるが,地下の断層の面粗さは速度構造の空間分解能の制約などからこれまで推定されていない.この推定を行うには,断層周辺の速度構造の分解能を適切に把握した上で,解析可能な波数域が狭い場合でも安定した結果が得られる手法を用いることが重要となる.本研究では,ウェーブレット変換を用いた解析法の適用可能性を検討し,南海トラフ西部において沈み込んだフィリピン海プレートの面粗さを評価した.

 解析に用いるプレート形状のデータは,JAMSTECが南海トラフ周辺で調査を行った構造探査測線のうち,海底地震計を用いた屈折法地震探査とMCS反射法探査がともに実施され,観測点間隔やエアガン発振間隔が密な6測線で得られたものである.屈折法探査の初動走時トモグラフィで得られた速度構造を用い,MCS記録の海洋地殻上面からの反射波走時を深度変換してプレート形状を得た.測線長は100km前後で,形状データは0.1km間隔である.上盤側の地震波速度の水平変化を調べた結果,そのパワースペクトル密度は低波数側ではべき乗則に従うが,観測点間隔よりやや小さい約4.5kmに対応する波数より高波数側でべき乗則から外れ,パワースペクトル密度が小さくなる傾向が見られた.このずれはトモグラフィの正則化項などの影響と考えられることから,面粗さの推定は約4.5kmよりも大きな空間スケールのみを対象とすることとした.

 ウェーブレット変換を用いた面粗さの解析には,Wavelet Transform Modulus Maxima (以下,WTMM)と呼ばれる連続ウェーブレット変換の極大値に着目し,データ全体のスケール依存性が単一のハースト指数で特徴づけられることを仮定した解析法(Audit et al. 2002)を用いた.これは本研究で用いるサンプル数が少ないデータでも安定する手法とされている.しかしサンプリング間隔から数オクターブ程度の範囲では安定した結果が得られるものの,それ以上のスケールでは推定誤差が増大する.この推定誤差を抑制するため,本研究では複数測線のデータを統合し,その平均的な面粗さを推定することとした.非整数ブラウン運動の人工データを使って検証を行った結果,1000サンプルの形状データが3つ程度あれば概ね安定してハースト指数を推定できることが確認された.

 南海トラフ西部の各探査測線では,WTMMによる解析でもハースト指数を十分な精度で推定することはできないが,全6測線を統合することで南海トラフ西部におけるフィリピン海プレート表面のハースト指数は0.87程度と推定された.また沈み込んだプレートの南北でrms振幅が系統的に異なっており,北側のrms振幅が大きな領域ではH~0.57,南側のrms振幅が小さな領域ではH~0.86と推定された.単一測線での面粗さの推定精度を向上させるには,測線長か速度構造の空間分解能を数倍以上にすることが必要となる.しかし形状データのrms振幅とWTMMを併用することで,現状の探査精度でも面粗さの大きさやハースト指数の空間変化を安定して推定することが可能となった.今後,測線数の増大とともにハースト指数やその空間変化をより詳細に把握できるようになると期待される.