15:15 〜 15:30
[S01-09] 広帯域レコードセクションに現れるsP波:東北地方のプレート境界付近の地震についての検討
はじめに
地震観測網から離れた位置で発生した地震の震源深さを精密に決定するために,sP変換波を用いることがよく行われる.この波は,震源から放射されたS波が海底面などでP波に変換されて観測点に届いたもので,sP−P時間が震源深さの関数となる性質を震源決定に利用する.先行研究での変換波の検出は,主に目視と観測点ごとの波動特性によるものであった.しかし,特性の揃ったHi-net観測網のデータを用いると,sP変換波やその他の変換波を空間的に連続した波動として検出することが可能である.そこでここでは,地震計の特性を補正して低周波成分を用いると変換波が極めて明瞭に検出できることと,震源位置やメカニズム解の違いによって波形がどのように異なるのかを示す.
方法
地震計の特性補正は,Hi-net地震計特性でのデコンボリューションとF-net地震計特性のコンボリューションを行う再帰型数値フィルタ(Maeda et al., 2011)を作用させて行なった.変換の妥当性はF-net観測点での波形と比較して確認した.この変換により,地震計の固有周波数よりも低周波成分の波形の利用が可能になる.さらに,地震波形をwiggle表示して振幅の符号に応じて波形に着色する視覚化と,振幅の大小に応じて表示振幅を変えるauto gain controlを導入した.これらの処理を施した波形記録のペーストアップを作成して,変換波の出現の有無と波動の特徴を調べた.
また,変換波の起源を検討するために,OpenSWPC(Maeda et al., 2017)による3次元波動伝播シミュレーションも用いた.この目的には,観測波形と同様なペーストアップに加えて,スナップショットでの波動の追跡が有効である.
今回の検討は東北地方太平洋沖合で発生した地震を対象とした.気象庁CMT解カタログを基に,以下の2通りの地震群を抽出した.マグニチュードの範囲は4.3から6.4である.
(1) 宮城県沖にほぼ東西に並ぶ低角逆断層型地震.これらはプレート境界で発生していると考えられる.同じ領域でのその他の断層タイプの地震も加えた.
(2) 岩手県沖で発生している低角逆断層型地震.震央が近く断層タイプは同じでも,セントロイド深さが15 km程度異なるものを含むように抽出した.
変換波とその特徴
多くのペーストアップ記録において明瞭なsP変換波を検出することができた.sP波は震央距離100 km程度においてS波波群から分離し,震央距離とともに見かけ速度が増加してP波のそれに漸近し,震央距離400 km程度まで追跡することができる.sP波の空間的連続性には周波数依存性があり,フィルタの周波数が0.1–0.5 Hzにおいて最も明瞭で,高周波になるにつれて不明瞭になる.これは,低周波成分ほど地殻の不均質構造の影響を受けにくいためで,短周期地震計記録を広帯域化することの効果をよく示している.また,震源位置が近い地震に対するペーストアップ記録の再現性は,非常に高いことも確認できた.
宮城県沖の地震は東西方向に並ぶように選択したが,sP波やその他の変換波の出現状況は経度とともに変化する.震源位置が東経142.5°以西では,sP波やpP波などの限られた変換波が見られる.震源位置がそれ以東になると,P波と同程度の見かけ速度を持つ変換波が繰り返し現れるようになる.これは海底面と海面の間での多重反射波と考えられる.この多重反射波以降の位相は,震源位置が東経143.5°付近では極めてインコヒーレントである.これは,この付近の海底面下の構造が広い波長範囲にわたって不均質であるためと考えられる.また,メカニズム解が異なると,P波とsP波の相対的振幅の空間分布が明瞭に変化することも確認できた.
岩手県沖ではセントロイド深さが異なる地震についての比較を行なった.深さが異なると変換波の出現時刻が変わるようにも見えるが,震央位置の違いも影響するため,低周波の波形から目視で確認するのは困難であった.
おわりに
短周期地震計記録を広帯域化して視覚化の工夫を加えることで,sP波は広い震央距離にわたって明瞭に追跡できることがわかった.sP−P時間を精密に読み取ることができれば,震源深さの再決定や地殻構造の推定に有用なデータとなる.その読み取りは,sP波の波形が空間的に連続である性質を用い,平均的波形との相関を用いることで可能となる.
謝辞
本研究では防災科研H-netおよびF-netの観測波形と,気象庁CMT解カタログを使用した.波動伝播シミュレーションには東京大学地震研究所のEIC計算機システムを利用した.(公財)地震予知総合研究振興会からは研究費の援助をいただいた.以上の機関に感謝します.
地震観測網から離れた位置で発生した地震の震源深さを精密に決定するために,sP変換波を用いることがよく行われる.この波は,震源から放射されたS波が海底面などでP波に変換されて観測点に届いたもので,sP−P時間が震源深さの関数となる性質を震源決定に利用する.先行研究での変換波の検出は,主に目視と観測点ごとの波動特性によるものであった.しかし,特性の揃ったHi-net観測網のデータを用いると,sP変換波やその他の変換波を空間的に連続した波動として検出することが可能である.そこでここでは,地震計の特性を補正して低周波成分を用いると変換波が極めて明瞭に検出できることと,震源位置やメカニズム解の違いによって波形がどのように異なるのかを示す.
方法
地震計の特性補正は,Hi-net地震計特性でのデコンボリューションとF-net地震計特性のコンボリューションを行う再帰型数値フィルタ(Maeda et al., 2011)を作用させて行なった.変換の妥当性はF-net観測点での波形と比較して確認した.この変換により,地震計の固有周波数よりも低周波成分の波形の利用が可能になる.さらに,地震波形をwiggle表示して振幅の符号に応じて波形に着色する視覚化と,振幅の大小に応じて表示振幅を変えるauto gain controlを導入した.これらの処理を施した波形記録のペーストアップを作成して,変換波の出現の有無と波動の特徴を調べた.
また,変換波の起源を検討するために,OpenSWPC(Maeda et al., 2017)による3次元波動伝播シミュレーションも用いた.この目的には,観測波形と同様なペーストアップに加えて,スナップショットでの波動の追跡が有効である.
今回の検討は東北地方太平洋沖合で発生した地震を対象とした.気象庁CMT解カタログを基に,以下の2通りの地震群を抽出した.マグニチュードの範囲は4.3から6.4である.
(1) 宮城県沖にほぼ東西に並ぶ低角逆断層型地震.これらはプレート境界で発生していると考えられる.同じ領域でのその他の断層タイプの地震も加えた.
(2) 岩手県沖で発生している低角逆断層型地震.震央が近く断層タイプは同じでも,セントロイド深さが15 km程度異なるものを含むように抽出した.
変換波とその特徴
多くのペーストアップ記録において明瞭なsP変換波を検出することができた.sP波は震央距離100 km程度においてS波波群から分離し,震央距離とともに見かけ速度が増加してP波のそれに漸近し,震央距離400 km程度まで追跡することができる.sP波の空間的連続性には周波数依存性があり,フィルタの周波数が0.1–0.5 Hzにおいて最も明瞭で,高周波になるにつれて不明瞭になる.これは,低周波成分ほど地殻の不均質構造の影響を受けにくいためで,短周期地震計記録を広帯域化することの効果をよく示している.また,震源位置が近い地震に対するペーストアップ記録の再現性は,非常に高いことも確認できた.
宮城県沖の地震は東西方向に並ぶように選択したが,sP波やその他の変換波の出現状況は経度とともに変化する.震源位置が東経142.5°以西では,sP波やpP波などの限られた変換波が見られる.震源位置がそれ以東になると,P波と同程度の見かけ速度を持つ変換波が繰り返し現れるようになる.これは海底面と海面の間での多重反射波と考えられる.この多重反射波以降の位相は,震源位置が東経143.5°付近では極めてインコヒーレントである.これは,この付近の海底面下の構造が広い波長範囲にわたって不均質であるためと考えられる.また,メカニズム解が異なると,P波とsP波の相対的振幅の空間分布が明瞭に変化することも確認できた.
岩手県沖ではセントロイド深さが異なる地震についての比較を行なった.深さが異なると変換波の出現時刻が変わるようにも見えるが,震央位置の違いも影響するため,低周波の波形から目視で確認するのは困難であった.
おわりに
短周期地震計記録を広帯域化して視覚化の工夫を加えることで,sP波は広い震央距離にわたって明瞭に追跡できることがわかった.sP−P時間を精密に読み取ることができれば,震源深さの再決定や地殻構造の推定に有用なデータとなる.その読み取りは,sP波の波形が空間的に連続である性質を用い,平均的波形との相関を用いることで可能となる.
謝辞
本研究では防災科研H-netおよびF-netの観測波形と,気象庁CMT解カタログを使用した.波動伝播シミュレーションには東京大学地震研究所のEIC計算機システムを利用した.(公財)地震予知総合研究振興会からは研究費の援助をいただいた.以上の機関に感謝します.