09:30 〜 09:45
[S01-12] DASによる歪記録に対するSPAC的表現の解析的導出
はじめに
光ファイバーケーブルを用いた分散型音響計測(DAS)は,1次元的ではあるが大変稠密に歪(あるいは歪速度)を計測できるため,地震学の分野でも近年利用され始めている.DASで計測される物理量はケーブルに沿った軸歪であり,通常測定される地動並進成分とは異なるため,地震学でこれまでに使用されてきた解析手法を軸歪にも適用できるように拡張する必要がある.例えば,地震波干渉法についてはすでに適用がはじめられている(例えば,Martin et al.,2018).本研究では,DASのデータを用いて微動探査を行うことを目指して,表面波のみを考慮して,2観測点における動径方向の軸歪のクロススペクトルと複素コヒーレンス(SPAC法で用いられる物理量)の解析的導出に成功したので,ここに報告する.
定式化
定式化の流れは,Haney et al. (2012)に従う.彼らは観測点に様々な方向から入射するレイリー波,ラブ波に対して,2観測点の変位場のクロススペクトル行列の全成分の定式化を行ったが,本研究では2観測点の動径方向の軸歪のクロススペクトルを求める.表記はTakagi et al. (2014)に従う.レイリー波とラブ波は互いに無相関であるとする.入射波動場は非等方的で,方位角についてフーリエ級数展開を行う.地形は考慮せずケーブルは水平に設置されているとする.この時,2つの観測点における動径方向の軸歪のクロススペクトルには,レイリー波だけでなくラブ波も寄与し,それぞれ以下のように導出できる:
レイリー波部分
H2(kR)2/8*[a0R{3J0(kRr)-4J2(kRr)+J4(kRr)}+ Σ CmR( ψ )im{Jm+4(kRr)-4Jm+2(kRr)+6Jm(kRr)-4Jm-2(kRr)+Jm-4(kRr)}]
ラブ波部分
(kL)2/8*[a0L{J0(kLr)-J4(kLr)}+ Σ CmL( ψ )im{-Jm+4(kLr)+2Jm(kLr)-Jm-4(kLr)}]
ここで,kは波数,rは2観測点間の距離,a0, cmは入射方位角に関するフーリエ級数の展開係数, ψ は2観測点を結ぶ方位角,Hはレイリー波のH/V比,上付きのR,Lはレイリー波,ラブ波を意味する.Jm(・)はm次の第1種ベッセル関数である.レイリー波とラブ波の寄与の和が,求めるクロススペクトルになる.さらに,それをゼロラグでの値で規格化することにより,複素コヒーレンスを導出することができる.
議論
導出した複素コヒーレンスは,光ファイバーケーブルが完全に直線であると仮定できれば,そのままの形で使用可能である.もちろん実際のケーブルは道路等に沿って配置されていることが多く,直線的ではないことも考えられるが,ケーブルが比較的直線的な部分のデータのみを用いて解析することが可能であろう.もし入射波の等方性を仮定できると,上の2式でcmが0になり,a0の項のみが残る.観測された軸歪の複素コヒーレンスの合わせこみにより,レイリー波とラブ波の位相速度,レイリー波とラブ波のエネルギー比の3つのパラメタを推定する逆問題を構築できる.動径方向の軸歪1成分だけでレイリー波とラブ波をどこまで適切に分離できるかが鍵になる.
入射波の非等方性を仮定する場合には,入射方位角に関するフーリエ級数展開の次数によって決めるべきパラメタ数が異なる.また,一つの方向のケーブルだけでは,入射方位角依存性を完全には決定できないため,少なくとも2つ以上の方向を向いた直線部分のデータが必要になる.
ケーブルの曲折が強い場合は,ケーブルの接線方向が2観測点を結ぶ方位からずれてしまうため,歪の座標変換が必要となる.定式化には動径方向の軸歪だけではなく歪の他の成分も現れるため,さらに複雑な形になる.
結論
本研究では,動径方向の軸歪の2観測点におけるクロススペクトルと複素コヒーレンスの解析的導出に成功した.この式に基づくと,DASの歪記録の複素コヒーレンスから,レイリー波とラブ波の位相速度を原理的に推定できる.実際問題として,動径方向の軸歪1成分だけからレイリー波とラブ波をどの程度うまく分離できるかは,今後,実データの解析を通して確認する予定である.
光ファイバーケーブルを用いた分散型音響計測(DAS)は,1次元的ではあるが大変稠密に歪(あるいは歪速度)を計測できるため,地震学の分野でも近年利用され始めている.DASで計測される物理量はケーブルに沿った軸歪であり,通常測定される地動並進成分とは異なるため,地震学でこれまでに使用されてきた解析手法を軸歪にも適用できるように拡張する必要がある.例えば,地震波干渉法についてはすでに適用がはじめられている(例えば,Martin et al.,2018).本研究では,DASのデータを用いて微動探査を行うことを目指して,表面波のみを考慮して,2観測点における動径方向の軸歪のクロススペクトルと複素コヒーレンス(SPAC法で用いられる物理量)の解析的導出に成功したので,ここに報告する.
定式化
定式化の流れは,Haney et al. (2012)に従う.彼らは観測点に様々な方向から入射するレイリー波,ラブ波に対して,2観測点の変位場のクロススペクトル行列の全成分の定式化を行ったが,本研究では2観測点の動径方向の軸歪のクロススペクトルを求める.表記はTakagi et al. (2014)に従う.レイリー波とラブ波は互いに無相関であるとする.入射波動場は非等方的で,方位角についてフーリエ級数展開を行う.地形は考慮せずケーブルは水平に設置されているとする.この時,2つの観測点における動径方向の軸歪のクロススペクトルには,レイリー波だけでなくラブ波も寄与し,それぞれ以下のように導出できる:
レイリー波部分
H2(kR)2/8*[a0R{3J0(kRr)-4J2(kRr)+J4(kRr)}+ Σ CmR( ψ )im{Jm+4(kRr)-4Jm+2(kRr)+6Jm(kRr)-4Jm-2(kRr)+Jm-4(kRr)}]
ラブ波部分
(kL)2/8*[a0L{J0(kLr)-J4(kLr)}+ Σ CmL( ψ )im{-Jm+4(kLr)+2Jm(kLr)-Jm-4(kLr)}]
ここで,kは波数,rは2観測点間の距離,a0, cmは入射方位角に関するフーリエ級数の展開係数, ψ は2観測点を結ぶ方位角,Hはレイリー波のH/V比,上付きのR,Lはレイリー波,ラブ波を意味する.Jm(・)はm次の第1種ベッセル関数である.レイリー波とラブ波の寄与の和が,求めるクロススペクトルになる.さらに,それをゼロラグでの値で規格化することにより,複素コヒーレンスを導出することができる.
議論
導出した複素コヒーレンスは,光ファイバーケーブルが完全に直線であると仮定できれば,そのままの形で使用可能である.もちろん実際のケーブルは道路等に沿って配置されていることが多く,直線的ではないことも考えられるが,ケーブルが比較的直線的な部分のデータのみを用いて解析することが可能であろう.もし入射波の等方性を仮定できると,上の2式でcmが0になり,a0の項のみが残る.観測された軸歪の複素コヒーレンスの合わせこみにより,レイリー波とラブ波の位相速度,レイリー波とラブ波のエネルギー比の3つのパラメタを推定する逆問題を構築できる.動径方向の軸歪1成分だけでレイリー波とラブ波をどこまで適切に分離できるかが鍵になる.
入射波の非等方性を仮定する場合には,入射方位角に関するフーリエ級数展開の次数によって決めるべきパラメタ数が異なる.また,一つの方向のケーブルだけでは,入射方位角依存性を完全には決定できないため,少なくとも2つ以上の方向を向いた直線部分のデータが必要になる.
ケーブルの曲折が強い場合は,ケーブルの接線方向が2観測点を結ぶ方位からずれてしまうため,歪の座標変換が必要となる.定式化には動径方向の軸歪だけではなく歪の他の成分も現れるため,さらに複雑な形になる.
結論
本研究では,動径方向の軸歪の2観測点におけるクロススペクトルと複素コヒーレンスの解析的導出に成功した.この式に基づくと,DASの歪記録の複素コヒーレンスから,レイリー波とラブ波の位相速度を原理的に推定できる.実際問題として,動径方向の軸歪1成分だけからレイリー波とラブ波をどの程度うまく分離できるかは,今後,実データの解析を通して確認する予定である.