4:00 PM - 5:30 PM
[S01P-02] Towards the detection of the mantle-reflected P wave using seismic interferometry
地震波干渉法は2観測点で観測されたランダムな波動場の相互相関関数を計算することにより、片方を仮想的な震源とし、もう片方を観測点とした場合の観測波形(グリーン関数)を推定する手法である(e.g. Snieder et al., 2013)。地震波干渉法では、地震波動場がランダムかつその強度分布が等方・均質であることを仮定する。ランダムな波動場として海洋波浪起源の脈動を解析に用いる場合には、周期5-20 sの帯域で表面波が卓越することが知られている。そのため、脈動を利用した地震波干渉法による地震波速度構造推定の研究では、地殻・上部マントルの3次元構造の推定が主であった(e.g., Shapiro et al., 2005)。しかし、近年では、実体波を抽出することによってより深部の構造を推定することが試みられている。その一例として、マントルの410/660 km不連続面からの反射P波(P410P/P660P)の抽出が報告されている(Poli et al., 2012; Feng et al., 2017)。しかし、これらの反射P波を抽出した先行研究の対象地域は大陸に限られていた。本研究の目的は、防災科学技術研究所Hi-netの上下動記録に地震波干渉法を適用することによりP410P/P660Pを抽出し、反射P波の抽出における波源の空間分布の影響を調べることである。
本研究では以下の手順で各観測点ペアに対する相互相関関数を計算した。用いた波形記録は防災科学技術研究所Hi-net観測点のうち西南日本に存在する240点の上下動記録(2007年-2018年)である。まず、Hi-netの上下動記録を2 Hzにダウンサンプリングした。その上で各観測点について翌日の観測波形との差を計算して元の観測波形の代わりに用いた(Takagi et al., 2020)。これは、Hi-netの機器ノイズ(Takagi et al., 2015)の相互相関関数への影響を抑えるためである。次に、得られた1日長の波形を1024 sの時間窓に分割し、周期5-10 sおよび10-20 sの平均2乗振幅によって時間窓を選択した。選択した時間窓について周波数領域で白色化を行い、周期1-10 sの成分について全観測点ペアの相互相関関数を計算した。
脈動源分布のグリーン関数抽出への影響を調べるため、4-th root vespagramを全観測点ペアに対する相互相関関数について計算した(Rost and Thomas 2002)。その結果、P410Pがオフセット距離0-300 kmで見られ、P660Pはオフセット距離50-100 kmで見られた。また、P660PはP410Pに比べて弱いことがわかった。次にvespagramの方位角依存性を調べるため、観測点ペアを方位角により6グループに分けて各グループのvespagramを計算した。観測点ペアの方位角が0–30°、90–120°、150–180°のグループではvespagram上でP410Pが確認された。
この結果を遠地の脈動P波のスローネス分布(Nishida and Takagi, IASPEI, 2017)と比較した。観測点ペアの方位角が0–30°と150–180°のグループのP410Pはそれぞれ北大西洋や南極海の脈動源によると考えられる。しかし、観測点ペアの方位角が90–120°のグループのP410Pには対応する脈動源がなく、深部での散乱の可能性を示唆している。
地震による影響を評価するために、地震活動が活発な日のみに注目して、相互相関関数の計算を行った。手法は地震(Mw > 6.5)の起きた461日を用いる点を除き、脈動の相互相関関数の計算手法と同一である。得られた相互相関関数は脈動の相互相関関数と類似しており、この手法では地震の寄与は脈動の寄与に比べて小さい事がわかった。今後はコーダ波部分の相互相関関数を計算し、脈動の相互相関関数との比較を行う予定である。
最後に、得られた反射P波を不連続面の深度に変換するため、Common Middle Point (CMP)重合を行った(e.g., Stein and Wysession, 2003)。具体的には、オフセット距離が500 km以内の各観測点ペアについて反射点の位置でグループ分けを行い、各グループに対して不連続面が水平と仮定しCMP重合を行った。速度構造はJMA2001(上野ほか、2002)を用いた。CMP重合の結果は水平方向に連続的な410 km不連続面と断片的な660 km不連続面を示した。しかし、太平洋プレートに起因する明確な反射波は検出できなかった。
謝辞:本研究では防災科学技術研究所のHi-netの上下動記録を用いました。記して感謝いたします。
本研究では以下の手順で各観測点ペアに対する相互相関関数を計算した。用いた波形記録は防災科学技術研究所Hi-net観測点のうち西南日本に存在する240点の上下動記録(2007年-2018年)である。まず、Hi-netの上下動記録を2 Hzにダウンサンプリングした。その上で各観測点について翌日の観測波形との差を計算して元の観測波形の代わりに用いた(Takagi et al., 2020)。これは、Hi-netの機器ノイズ(Takagi et al., 2015)の相互相関関数への影響を抑えるためである。次に、得られた1日長の波形を1024 sの時間窓に分割し、周期5-10 sおよび10-20 sの平均2乗振幅によって時間窓を選択した。選択した時間窓について周波数領域で白色化を行い、周期1-10 sの成分について全観測点ペアの相互相関関数を計算した。
脈動源分布のグリーン関数抽出への影響を調べるため、4-th root vespagramを全観測点ペアに対する相互相関関数について計算した(Rost and Thomas 2002)。その結果、P410Pがオフセット距離0-300 kmで見られ、P660Pはオフセット距離50-100 kmで見られた。また、P660PはP410Pに比べて弱いことがわかった。次にvespagramの方位角依存性を調べるため、観測点ペアを方位角により6グループに分けて各グループのvespagramを計算した。観測点ペアの方位角が0–30°、90–120°、150–180°のグループではvespagram上でP410Pが確認された。
この結果を遠地の脈動P波のスローネス分布(Nishida and Takagi, IASPEI, 2017)と比較した。観測点ペアの方位角が0–30°と150–180°のグループのP410Pはそれぞれ北大西洋や南極海の脈動源によると考えられる。しかし、観測点ペアの方位角が90–120°のグループのP410Pには対応する脈動源がなく、深部での散乱の可能性を示唆している。
地震による影響を評価するために、地震活動が活発な日のみに注目して、相互相関関数の計算を行った。手法は地震(Mw > 6.5)の起きた461日を用いる点を除き、脈動の相互相関関数の計算手法と同一である。得られた相互相関関数は脈動の相互相関関数と類似しており、この手法では地震の寄与は脈動の寄与に比べて小さい事がわかった。今後はコーダ波部分の相互相関関数を計算し、脈動の相互相関関数との比較を行う予定である。
最後に、得られた反射P波を不連続面の深度に変換するため、Common Middle Point (CMP)重合を行った(e.g., Stein and Wysession, 2003)。具体的には、オフセット距離が500 km以内の各観測点ペアについて反射点の位置でグループ分けを行い、各グループに対して不連続面が水平と仮定しCMP重合を行った。速度構造はJMA2001(上野ほか、2002)を用いた。CMP重合の結果は水平方向に連続的な410 km不連続面と断片的な660 km不連続面を示した。しかし、太平洋プレートに起因する明確な反射波は検出できなかった。
謝辞:本研究では防災科学技術研究所のHi-netの上下動記録を用いました。記して感謝いたします。