4:00 PM - 5:30 PM
[S01P-04] Travel time fluctuation of P waves in exponential-type random media:
A study based on 3-D finite-difference simulations
1.はじめに
近地地震の高周波数(約1 Hz以上)の地震波には,地殻構造の短波長不均質性(地震波速度の数%程度の揺らぎ)によって走時揺らぎが発生すると考えられている.この現象については,波形エンベロープの拡大に関する研究〔例えば,Sato and Emoto (2017)〕において,マルコフ近似理論に基づいて統計的にその特徴が評価されている.マルコフ近似理論の予測では,波形エンベロープの拡大を引き起こす走時揺らぎ効果(wandering effect)の特徴的時間tWは,ランダム媒質の地震波速度の揺らぎの相関距離aと揺らぎの大きさε,および波動伝播距離rの関数として求められる.本研究では,指数関数型スペクトルを持つランダム媒質を用いた3次元地震波伝播シミュレーションにより,P波走時の揺らぎのa,ε,およびrによる変化を調べ,マルコフ近似理論から予測される特徴的時間の特徴tW∝a1/2εr1/2と比較した.
2.計算・解析手法
Takemura et al. (2017)と同様の空間4次・時間2次の3次元差分法によって,204.8×204.8×204.8 km3の計算領域を0.05 km間隔で離散化し,2.5 msのタイムステップで地震波伝播シミュレーションを実施した.同シミュレーションでは,計算領域の中心部に横ずれ断層を模擬したダブルカップル型点震源を配置した.震源時間関数には非対称cos型関数〔Ji et al. (2003); ts=0.1 s, te=0.4 s〕を用いた.観測点は震源と同じ深さのx-y平面に格子状に2.5 km間隔で配置した.指数関数型スペクトルを持つランダム媒質として, 1, 3, 5 kmと 0.01, 0.02, 0.03, 0.04, 0.05の設定値を組み合わせた15種類のモデルをそれぞれ5つ合成した.Birch則を仮定し,背景のP波速度とS波速度をそれぞれ6.0 km/sと3.5 km/sとして,ランダム不均質を重畳することで不均質な地殻構造を模擬した.
解析では,震源距離60 km以内の約3000個の観測点の計算波形を対象として,P波の初動走時(以下,走時)を自動処理〔前田 (1985)〕により読み取った.このとき,走時の正確な読み取りを期するため,P波の震源輻射係数が0.5以上の方位角に位置する観測点の計算波形のみ使用した.また,四分位偏差をもとに数%程度の外れ値を除外して,走時揺らぎの標準偏差を求めた.
3.結果・議論
いずれのランダム媒質についても,走時揺らぎは震源距離すなわち波動伝播距離とともに大きくなる特徴が確認された.具体的に,走時揺らぎの標準偏差は,震源距離50 kmの場合,西南日本の地殻のランダム不均質モデル〔Kobayashi et al. (2015); 相関距離1 km,揺らぎの大きさ0.03〕では0.04 s程度であった.また,一定の震源距離における走時には,その平均値のまわりにほぼ対称的に分布する特徴が見られた.走時揺らぎの標準偏差を震源距離の1/2乗(r1/2)に対してプロットするとグラフ上で直線的に変化することが確認された.
走時揺らぎとランダム媒質の関係には,走時揺らぎとaおよびεとの間に正の相関関係があることが確認された.すなわち,一定の震源距離における走時揺らぎは,相関距離や揺らぎの大きさが大きいランダム媒質ほど大きくなる.また,走時揺らぎの標準偏差については,a1/2およびεに比例して増大する特徴が見られた.
以上の解析結果は,本研究の3次元地震波伝播シミュレーションから求めたP波走時の揺らぎ(標準偏差)がマルコフ近似理論の予測tW∝a1/2εr1/2に整合することを示すものであった.このことは,これまで波形エンベロープの研究において注目されてきた特徴的時間tWが,地震波走時を解析対象とする地震学の他の研究分野においても有用であることを示唆している.
謝辞
地震波伝播シミュレーションには海洋研究開発機構の地球シミュレータを使用しました.本研究はJSPS科研費18K03786の助成を受けています.
近地地震の高周波数(約1 Hz以上)の地震波には,地殻構造の短波長不均質性(地震波速度の数%程度の揺らぎ)によって走時揺らぎが発生すると考えられている.この現象については,波形エンベロープの拡大に関する研究〔例えば,Sato and Emoto (2017)〕において,マルコフ近似理論に基づいて統計的にその特徴が評価されている.マルコフ近似理論の予測では,波形エンベロープの拡大を引き起こす走時揺らぎ効果(wandering effect)の特徴的時間tWは,ランダム媒質の地震波速度の揺らぎの相関距離aと揺らぎの大きさε,および波動伝播距離rの関数として求められる.本研究では,指数関数型スペクトルを持つランダム媒質を用いた3次元地震波伝播シミュレーションにより,P波走時の揺らぎのa,ε,およびrによる変化を調べ,マルコフ近似理論から予測される特徴的時間の特徴tW∝a1/2εr1/2と比較した.
2.計算・解析手法
Takemura et al. (2017)と同様の空間4次・時間2次の3次元差分法によって,204.8×204.8×204.8 km3の計算領域を0.05 km間隔で離散化し,2.5 msのタイムステップで地震波伝播シミュレーションを実施した.同シミュレーションでは,計算領域の中心部に横ずれ断層を模擬したダブルカップル型点震源を配置した.震源時間関数には非対称cos型関数〔Ji et al. (2003); ts=0.1 s, te=0.4 s〕を用いた.観測点は震源と同じ深さのx-y平面に格子状に2.5 km間隔で配置した.指数関数型スペクトルを持つランダム媒質として, 1, 3, 5 kmと 0.01, 0.02, 0.03, 0.04, 0.05の設定値を組み合わせた15種類のモデルをそれぞれ5つ合成した.Birch則を仮定し,背景のP波速度とS波速度をそれぞれ6.0 km/sと3.5 km/sとして,ランダム不均質を重畳することで不均質な地殻構造を模擬した.
解析では,震源距離60 km以内の約3000個の観測点の計算波形を対象として,P波の初動走時(以下,走時)を自動処理〔前田 (1985)〕により読み取った.このとき,走時の正確な読み取りを期するため,P波の震源輻射係数が0.5以上の方位角に位置する観測点の計算波形のみ使用した.また,四分位偏差をもとに数%程度の外れ値を除外して,走時揺らぎの標準偏差を求めた.
3.結果・議論
いずれのランダム媒質についても,走時揺らぎは震源距離すなわち波動伝播距離とともに大きくなる特徴が確認された.具体的に,走時揺らぎの標準偏差は,震源距離50 kmの場合,西南日本の地殻のランダム不均質モデル〔Kobayashi et al. (2015); 相関距離1 km,揺らぎの大きさ0.03〕では0.04 s程度であった.また,一定の震源距離における走時には,その平均値のまわりにほぼ対称的に分布する特徴が見られた.走時揺らぎの標準偏差を震源距離の1/2乗(r1/2)に対してプロットするとグラフ上で直線的に変化することが確認された.
走時揺らぎとランダム媒質の関係には,走時揺らぎとaおよびεとの間に正の相関関係があることが確認された.すなわち,一定の震源距離における走時揺らぎは,相関距離や揺らぎの大きさが大きいランダム媒質ほど大きくなる.また,走時揺らぎの標準偏差については,a1/2およびεに比例して増大する特徴が見られた.
以上の解析結果は,本研究の3次元地震波伝播シミュレーションから求めたP波走時の揺らぎ(標準偏差)がマルコフ近似理論の予測tW∝a1/2εr1/2に整合することを示すものであった.このことは,これまで波形エンベロープの研究において注目されてきた特徴的時間tWが,地震波走時を解析対象とする地震学の他の研究分野においても有用であることを示唆している.
謝辞
地震波伝播シミュレーションには海洋研究開発機構の地球シミュレータを使用しました.本研究はJSPS科研費18K03786の助成を受けています.