日本地震学会2020年度秋季大会

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Room B

Regular session » S03. Crustal deformation, GNSS, and gravity

[S03]PM-1

Sat. Oct 31, 2020 1:00 PM - 2:15 PM ROOM B

chairperson:Takeshi Iinuma(Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology (JAMSTEC)), chairperson:Ryoya Ikuta(Shizuoka Univ.)

1:45 PM - 2:00 PM

[S03-10] Evaluation of sound speed structure for each GNSS-A seafloor geodetic observation epoch using GARPOS

〇Yusuke Yokota1, Tadashi Ishikawa2, Shun-ichi Watanabe2, Yuto Nakamura2 (1.Institute of Industrial Science, University of Tokyo, 2.Hydrographic and Oceanographic Department, Japan Coast Guard)

GNSS-A 観測では,海中音速度場が精度に重大な影響を与える.しかし,その影響について,場所・時期による違いの検証や定量的な評価は十分になされてこなかった.渡邉・内田 [2016, 研究報告] では,それぞれの海底局における実際に観測された鉛直音速度プロファイルの比較を行い,局ごとのばらつきの大小を評価した.しかし,GNSS-A 観測では音速度構造の水平傾斜や時空間変化が観測精度に強く影響する.その影響を考慮して,観測値に対して,観測機会,観測点ごとに異なる環境依存の誤差量が与えられるべきである.このことは,GNSS-A 時系列の精度評価のみならず,時系列解析を実施する上でも必要であり,課題となっている.本稿では,観測中に得られる海洋場の状態を新しく定義し,その値を明示的かつ定量的に抽出できる新しいソフトウェア GARPOS を用いて,数値シミュレーション結果等との比較を行う.

海面を海上局が移動する手法を採用した GNSS-A 観測では,海上局の位置の違いから抽出される海中音速度変化 g1 と海底局の位置の違いによって抽出される音速度変化 g2 がそれぞれ取り出される [Yokota et al., 2019, MGR; Yokota & Ishikawa, 2019, SNAS].これら 2 つのパラメータを複素平面上に配置した g1 + ig2 (Gと定義する) を考慮することで観測時の海中音速度傾斜構造の定性的な状態が把握できる.傾斜層が多くて 2 層までと仮定すると,たとえば,G の偏角 arg G ~ 0 となる場合,傾斜構造は単純かつ浅部側に寄っていると推定できる.arg G ~ π/2 の場合,2 層かつお互いが逆向きの傾斜を持っていると推定される.arg G ~ π, 3π/2 の場合は arg G ~0,π/2 の場合と同様であるが向きが反転している.G の絶対値 |G| は傾斜場の強度を表している.G は水平 2 方向に取り出され,立体的な場を反映する.G は,観測時のあらゆるタイミングで推定されるが,海上局が移動する測線の形状などに拘束され,現状では 1500 m 深度の観測局で 1 時間程度の分解能しか持たないと考えられる [Yokota et al., 2020, Frontiers in ES].

観測値 G の例をいくつか紹介する.紀伊水道の沖合に位置する MRT2 では,2017 年以降の黒潮大蛇行時とそれ以前では明らかに観測時間中の arg G の平均値が変化している.また,南海トラフ側では arg G の平均値が観測機会ごとにばらつかず安定しているのに対して,日本海溝側ではばらつきが大きく,観測機会ごとの海洋場の大きな変動が観測されている.

海底局の場所や観測時期による G の変化は,局ごとの観測時の海洋場の状態を表現しており,各観測時の観測精度を議論する上で重要である.新たに開発された GARPOS [Watanabe et al., submitted] を用いることで,この値が明示的に取り出せるようになり,数値シミュレーション等を利用した比較を簡便かつ高速に行うことができるようになった.本稿では,アイコナール方程式に基づいた海中音響伝播の数値シミュレーション結果との比較を通して,上記の音速場の状態について定量的に議論する.