日本地震学会2020年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(3日目)

一般セッション » S03. 地殻変動・GNSS・重力

S03P

2020年10月31日(土) 16:00 〜 17:30 P会場

16:00 〜 17:30

[S03P-03] GNSS複数観測点からの短期的スロースリップの自動検出:トレンドフィルタリングを用いたアプローチ

〇矢野 恵佑1、加納 将行2 (1.統計数理研究所、2.東北大学)

本研究では複数のGlobal Navigation Satellite System(GNSS)の観測点を用いた短期的スロースリップイベント(SSE)の自動検知を考える.短期的SSEは通常の地震よりもゆっくりとした速度の断層すべり現象のことで,一般に継続期間が数日から数週間程度である(Obara and Kato, 2016).これまでGNSSや傾斜計といった測地学的観測によって,プレートの沈み込み帯付近で多くの短期的SSEが発生していることが分かった(例えばSekine et al. 2010, Nishimura et al. 2013).SSEは巨大地震や低周波地震などの他の種類の地震と関係しており(Kano et al., 2019),その発生を検知することは重要である.

GNSSで観測される短期的SSEの信号は微弱であることが多く,複数の観測点の信号をうまく統合する必要がある.Nishimura et al. (2013)は,赤池情報量規準(AIC)の空間平均に基づく短期的SSE検知手法を提案し,西南日本で発生した短期的SSEの自動検知を行った.

本研究では,トレンドフィルタリングに基づいた複数のGNSS観測点からの検知手法を提案する.提案手法は短期的SSEをGNSS変位データにおける区分変化点として捉え,変化点の確からしさを複数の観測点を利用して検証する手法である.人工データによる双子実験および四国西部のGNSSデータを用いた検証により手法の精度検証を行った.


提案手法は,トレンドフィルタリング・隣接観測点を用いた検定・検定結果の統合を段階的に行う.図1は提案手法の概要図である.まず,l1トレンドフィルタリング(Kim et al., 2009)により観測時系列に区分線形関数を当てはめる.当てはめた関数の節点情報を集めて節点の前後の区間で速度が変化しているかどうかの仮説検定を行う.l1トレンドフィルタリングの節点を利用することで,節点前後の区間の長さはデータから自動決定される.最後に複数の観測点での検知の疑わしさを表す検定のp-値を統合する.l1トレンドフィルタリングは,高次全変動正則化とも呼ばれるスパース推定の手法であり,与えられた入力の中に潜む区分多項式関数を精度良く推定することができる.正則化の度合いを表すハイパーパラメータはMallowsのCp規準を用いてデータから決定することができる.後続する検定では,l1トレンドフィルタリングで得られた区分点を利用する.

提案手法の精度検証のため,2004年4月1日から2009年3月31日の期間における四国西部のGNSSデータと,このデータから生成した人工データを利用した.観測点として,図1の赤い逆三角のうち緑・オレンジの影がかかっている6観測点を使用した.また,GNSSのコモン・モードエラーの除去は五島列島の3観測点の平均を差し引くことで行い(Kano et al., 2019),二次元の変位データをアムール海プレートに対するフィリピン海プレートの沈み込み方向(N45W)に射影して利用した.


人工データを利用した比較によって,以下のことが分かった.AICの空間平均は窓幅によってイベント見逃し率・ノイズ誤検知率が変化する.一方,提案手法は,適切に窓幅を設定したAICの空間平均と同程度の性能をもつことがわかった.

提案手法を実データに利用した結果は以下である.図2は1観測点におけるGNSSの変位(黒丸),l1トレンドフィルタリングで得られた区分線形関数(赤線),検知点(青い縦線)を表示している.図で示しているのはプレートの沈み込み方向への射影成分なので,l1トレンドフィルタリングの結果により,全体的にはプレートの沈み込み方向に向かっているが,一部の時間帯でその反対側に動いている様子が分かる.一方で,隣接観測点の情報を利用して検知を行うため,一つの観測点で反対側に動いているからといって検知しているわけではない様子も分かる.検知点の確からしさを評価するため,四国西部の低周波微動(LFE; Kato and Nakagawa, Research Square)の一日平均個数との同期を確認した(図3).図3は検知日±5日のLFEの個数の箱ひげ図(図中Our detections)とそれ以外の日のLFEの個数の箱ひげ図(図中No detection)を表している.図3から,検知している日の近辺で明らかにLFEが活発に起こっていることが分かる.