1:15 PM - 1:30 PM
[S06-02] Crustal structure in the Kuril Trench subduction zone off Hokkaido, Japan, by a dense linear OBS-array seismic survey
日本・千島海溝沈み込み帯は太平洋プレートの沈み込にかかわって地震・火山が活発に活動する領域である.両海溝域での地殻構造探査により,沈み込み直前に形成されるプレート曲がり断層の発達によって含水化が大きく進んでいる可能性が指摘され,火山活動に必要な水の地球内部への輸送過程が理解されつつあるが,こうした含水化の状態は陸側プレート下まで連続的に把握できていないのが現状である.一方,地震発生に着目すると,2011年東北沖地震の巨大津波の要因となった'slip to the trench'には海溝すぐ陸側の構造が関係することが,反射法探査から明らかとなりつつある.日本海溝に隣接する千島海溝ではプレート境界巨大地震の発生が今後30年以内に非常に高い確率で予測され,東北沖地震に類似して'slip to the trench'を起こす可能性がある.海溝周辺の地震学的構造の理解はこれらの固体地球現象の理解のために非常に重要であるが,日本・千島海溝とも,海底地震計(OBS)の耐圧水深の制約のために先行研究で詳しく把握されていない.本研究は巨大地震発生前の根室沖千島海溝域の構造探査を通して,東北沖地震震源域での知見をもとにプレート境界周辺構造と浅部すべりの関係を議論するとともに,太平洋プレートの沈み込み過程の理解を深めることを目的とする.本観測では大水深の海溝軸に設置可能な超深海OBSを導入し,同区間の構造イメージの分解能向上を図った.
構造探査は2019年に海洋研究開発機構の「かいれい」KR19-07航海および「よこすか」YK19-12航海により実施された。アウターライズ域から海溝軸を跨ぎ千島前弧斜面上部に至る全長208 kmの測線沿いにOBS 80台を約2 km間隔で設置し,総容量7,800 cu.in.のエアガンアレイを200 m毎に発震した.屈折法と同時に,マルチチャンネル・ハイドロフォンストリーマー(全長5.5 km、444 ch)を曳航してMCS反射法探査も行った.海溝より陸側では別途,50 m発震でも探査を行った.全てのOBSで震央距離70~200 kmにわたる連続的なP波初動が観測され,44,261個の読み取り値を得た.後続には,見かけ速度から堆積層基盤,プレート境界付近,海洋モホ面の反射波と思われる相が観測された.
本研究ではP波速度(Vp)モデルの推定に初動走時インバージョン(Fujie et al., 2013)を用い,初期モデルの依存性をモンテカルロ法(例えば,Korenaga et al., 2000)によって評価する.ここでは500個の初期モデルを生成してインバージョンを行い,χ2 < 1.1(RMS走時残差~60 ms未満)を満たした492個の平均を最終モデルとした.最終モデルの標準偏差分布および分解能テストから,海溝陸側では深さ25 km,海溝海側では深さ20 km以浅で良く解像できたといえる.さらに,走時マッピング法(TMM,Fujie et al., 2006)によって反射波分布を推定した.
先行研究(Nakanishi et al., 2004; Fujie et al., 2018)を参照し最終モデルを解釈すると,陸側斜面下の最浅部に斜面上部から海溝軸にかけて鉛直速度勾配の大きい低Vpの堆積物(2–4 km/s)が分布し,海溝から30 kmの範囲では太平洋プレート上にウェッジ状に分布する.堆積層の下に勾配の小さい白亜紀層(4–5.5 km/s)と島弧地殻(5.5–6.5 km/s)が分布する.白亜紀層上部には凸形状の特徴があり,MCS断面で確認できる陸側傾斜の正断層面の分布と一致した.前弧斜面に発達した正断層は,強いプレート境界間固着のために陸側プレート下底が浸食され沈降していることを示唆し(von Huene et al., 1994),探査海域が1973年根室沖地震の破壊域にあることと矛盾しない.同じく固着域である東北沖地震震源域にも正断層が存在する(Kodaira et al., 2017)点で共通する.今後,ウェッジ状堆積物の幅やプレート境界周辺の反射構造も含めて東北沖大すべり域と比較をすすめ,根室沖が'slip to the trench'を起こしうる場であるか考察する.
沈み込む太平洋プレートについて,Vp分布とモホ面反射との間に興味深い関係性を見出した.堆積層基盤反射面の下に大きな速度勾配を持つ海洋地殻第2層(4.5–6.5 km/s),その下に勾配が小さく高Vp(6.5–7.5 km/s)の海洋地殻第3層がそれぞれイメージされた.MCS断面に基づくと海溝直下のモホ面下のマントルVpは約7.5 km/sで,千島海溝の沖側遠方のマントル(~8.6 km/s, Kodaira et al., 2014)より有意に低速度である.すなわち,沈み込み前に含水化したマントルがそのまま島弧下に沈み込んでいる様子が捉えられた.一方で,TMMによるモホ面がMCSモホ面に比べ往復走時で0.5秒ほど系統的に深い.この差はモホ面下数キロメートルまで達している蛇紋岩化深さ範囲(Fujie et al., 2018)とほぼ等しいことから,ひとつの解釈として,マントル最上部の蛇紋岩化により地殻-マントル間に厚みのあるモホ面遷移層(笠原・他,2008)が形成されたことを示している可能性がある.
構造探査は2019年に海洋研究開発機構の「かいれい」KR19-07航海および「よこすか」YK19-12航海により実施された。アウターライズ域から海溝軸を跨ぎ千島前弧斜面上部に至る全長208 kmの測線沿いにOBS 80台を約2 km間隔で設置し,総容量7,800 cu.in.のエアガンアレイを200 m毎に発震した.屈折法と同時に,マルチチャンネル・ハイドロフォンストリーマー(全長5.5 km、444 ch)を曳航してMCS反射法探査も行った.海溝より陸側では別途,50 m発震でも探査を行った.全てのOBSで震央距離70~200 kmにわたる連続的なP波初動が観測され,44,261個の読み取り値を得た.後続には,見かけ速度から堆積層基盤,プレート境界付近,海洋モホ面の反射波と思われる相が観測された.
本研究ではP波速度(Vp)モデルの推定に初動走時インバージョン(Fujie et al., 2013)を用い,初期モデルの依存性をモンテカルロ法(例えば,Korenaga et al., 2000)によって評価する.ここでは500個の初期モデルを生成してインバージョンを行い,χ2 < 1.1(RMS走時残差~60 ms未満)を満たした492個の平均を最終モデルとした.最終モデルの標準偏差分布および分解能テストから,海溝陸側では深さ25 km,海溝海側では深さ20 km以浅で良く解像できたといえる.さらに,走時マッピング法(TMM,Fujie et al., 2006)によって反射波分布を推定した.
先行研究(Nakanishi et al., 2004; Fujie et al., 2018)を参照し最終モデルを解釈すると,陸側斜面下の最浅部に斜面上部から海溝軸にかけて鉛直速度勾配の大きい低Vpの堆積物(2–4 km/s)が分布し,海溝から30 kmの範囲では太平洋プレート上にウェッジ状に分布する.堆積層の下に勾配の小さい白亜紀層(4–5.5 km/s)と島弧地殻(5.5–6.5 km/s)が分布する.白亜紀層上部には凸形状の特徴があり,MCS断面で確認できる陸側傾斜の正断層面の分布と一致した.前弧斜面に発達した正断層は,強いプレート境界間固着のために陸側プレート下底が浸食され沈降していることを示唆し(von Huene et al., 1994),探査海域が1973年根室沖地震の破壊域にあることと矛盾しない.同じく固着域である東北沖地震震源域にも正断層が存在する(Kodaira et al., 2017)点で共通する.今後,ウェッジ状堆積物の幅やプレート境界周辺の反射構造も含めて東北沖大すべり域と比較をすすめ,根室沖が'slip to the trench'を起こしうる場であるか考察する.
沈み込む太平洋プレートについて,Vp分布とモホ面反射との間に興味深い関係性を見出した.堆積層基盤反射面の下に大きな速度勾配を持つ海洋地殻第2層(4.5–6.5 km/s),その下に勾配が小さく高Vp(6.5–7.5 km/s)の海洋地殻第3層がそれぞれイメージされた.MCS断面に基づくと海溝直下のモホ面下のマントルVpは約7.5 km/sで,千島海溝の沖側遠方のマントル(~8.6 km/s, Kodaira et al., 2014)より有意に低速度である.すなわち,沈み込み前に含水化したマントルがそのまま島弧下に沈み込んでいる様子が捉えられた.一方で,TMMによるモホ面がMCSモホ面に比べ往復走時で0.5秒ほど系統的に深い.この差はモホ面下数キロメートルまで達している蛇紋岩化深さ範囲(Fujie et al., 2018)とほぼ等しいことから,ひとつの解釈として,マントル最上部の蛇紋岩化により地殻-マントル間に厚みのあるモホ面遷移層(笠原・他,2008)が形成されたことを示している可能性がある.