日本地震学会2020年度秋季大会

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Room C

Regular session » S06. Crustal structure

[S06]PM-2

Thu. Oct 29, 2020 2:30 PM - 3:30 PM ROOM C

chairperson:ryosuke Azuma(Tohoku University)

2:30 PM - 2:45 PM

[S06-06] Wide-angle seismic survey off Muroto in Nankai trough

〇Gou Fujie1, Ryuta Arai1, Kazuya Shiraishi1, Yuka Kaiho1, Koichiro Obana1, Yasuyuki Nakamura1, Seiichi Miura1, Shuichi Kodaira1 (1.JAMSTEC)

プレート沈み込み帯では、巨大地震から、微小地震、低周波微動、そして非地震性滑りまで、海洋プレートと陸側プレートの境界部で多種多様な滑り現象が発生している。低周波微動や非地震性滑りは通常の地震発生域周辺で観測されるなど、これらの多様なプレート境界滑り現象はお互いに何らかの関連性があり、巨大地震の発生メカニズムを理解するという視点からも、多様な滑り現象をプレート境界部で生じる滑り現象として包括的に理解することの重要性が指摘されている。

フィリピン海プレートが日本列島下に沈み込む南海トラフ・プレート沈み込み帯は、日本全国に展開されている稠密な陸上観測網に加え、海域定常観測点も世界に先駆けて展開されているなど、地震観測研究が充実した海域である。その結果、M8クラスの巨大地震が100〜200年間隔で繰り返し発生してきたこと、その震源域はセグメントに分けられるが時に複数のセグメントが連動する場合があること、また低周波微動やスロースリップなど多様なゆっくり滑り現象が発生していることなど、世界でもっともプレート境界滑りに関する活動把握が進んでいる海域の一つである。加えて、海洋研究開発機構などによって多数の海域地下構造探査研究も実施されてきたことで、沈み込むフィリピン海プレートの大局的な3次元構造が明らかになっていることなど、地下構造研究も非常に充実した沈み込み帯である。

しかし、これらの研究の進展に伴い、海陸プレートの相対運動、プレート境界断層の形状や物性、温度構造など、さまざまな要因の複合的な影響によって決定付けられる多様なプレート境界滑り現象を包括的に理解するには、従来よりもさらに詳細にプレート境界断層の形状や物性などを把握していく必要性があることも分かってきた。

そこで、海洋研究開発機構では南海トラフ域全体の地下構造研究の刷新を目指し、2018年度から新たな大規模で稠密な構造探査観測研究を開始している。この調査研究は、長大ストリーマーケーブルを用いた稠密二次元地震波反射法構造探査研究と、多数の海底地震計を用いた稠密地震波屈折法構造探査研究からなる。この一環として、2019年11月〜12月、我々は室戸沖の土佐碆と呼ばれる海底地形の高まりを横切る海域で海底地震計を用いた地震波屈折法構造探査観測を実施した。土佐碆は海山の沈み込みに関係して形成された海底地形の高まりであると考えらており(たとえば Kodaira et al., 2000, 2002)、本調査観測では沈み込む海山付近の詳細なプレート境界断層の実態や海山沈み込みが前弧域の発達に与える影響などを把握し、この周辺で確認されている浅部低周波微動などプレート境界地震活動と比較議論することを目指し、2km間隔の稠密さで海底地震計を設置する調査測線を2km間隔で2本設定した。

海底地形の高まりである土佐碆は、その中央部を東西に横切る谷によって二つの高まりに分かれているが、本調査で得られた新しいデータを用いた走時トモグラフィー解析の結果から、この中央部の谷間には顕著な地震波速度の低速度域があることが分かってきた。この結果は、海底地形の高まりである土佐碆は従来考えられていたよりも複雑なプロセスによって形成されていることを示唆している。本講演では、初動走時を用いた地震波トモグラフィー解析により得られた大局的な2次元地震波速度構造モデルを元に議論を行う。

今後は、波形も用いたインバージョン解析により2次元地震波速度構造モデルを高精度化していく。将来的には、全てのデータを用いて3次元的な解釈にも進める計画である。