日本地震学会2020年度秋季大会

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Room C

Regular session » S06. Crustal structure

[S06]PM-2

Thu. Oct 29, 2020 2:30 PM - 3:30 PM ROOM C

chairperson:ryosuke Azuma(Tohoku University)

3:15 PM - 3:30 PM

[S06-09] The P and S Wave Structure in the Shikoku Region from GA-based Simultaneous Determination of Hypocenters and Seismic Wave Velocity Structure

〇Kota Murata1, Motoo Ukawa2 (1.Pacific Consultants co., Ltd., 2.Nihon University)

1.はじめに

水平成層地震波速度構造は、震源決定や3次元地震波速度構造推定の標準地震波速度構造として、現在でも重要な役割を果たしている。自然地震を用いた水平成層地震波速度構造の推定においては、震源と地震波速度を同時決定する手法(例えばCrosson, 1976, JGR)がしばしば利用されているが、層厚を固定しなければならない。本研究ではGA(遺伝的アルゴリズム)を活用し、層厚も未知数とし、地震波速度構造を推定する手法を開発し、四国地方に適用した。その結果、安定した解として層厚、P波・S波地震波速度、観測点補正値を得ることができた。


2.手法

複数の観測点のP波とS波到着時刻データを観測値とし、震源と観測点補正値、P波・S波速度、層厚を推定する。地震波速度と層厚はGAを活用して推定する。震源と観測点補正値は、GAにおいて試行する各地震波速度構造について、鵜川・他(1985、地震)の手法により同時決定する。今回は四国地方の深さ50㎞以浅の地震を対象に地殻・最上部マントルの地震波速度構造を推定することを試みた。
地震波速度構造は図に示すような6層構造とし、浅部構造(第1層と第2層)及び最深部の第6層は地震波速度、層厚とも固定した。GAの計算では、各未知数について、捜索範囲を設定し、その範囲内にランダムな数値を生成する実数値遺伝的アルゴリズムを採用した。今回の推定では各世代の子孫数を5000、世代数を10世代とし、捜索範囲は世代を重ねると狭くなるように設定している。
なお、初期値として与えた地震波速度構造の第1世代の捜索範囲は、第3層~第5層は、層厚が5~10 km、P波速度が6.0~8.0 km/s、S波速度が2.5~4.5 km/sである。また観測点補正値は、綾上観測点(AYKH)のP波観測点補正値を0とした。


3.対象地域と使用データ

本研究では水平成層構造に近いと考えられる四国地方を対象とした。対象とした地震は気象庁一元化震源データから選択し、気象庁の検測値及び防災科学技術研究所のHi-net連続波形データから自身で検測した値を観測データとした。
深さが50km以浅の地震から対象地域にできるだけ偏らずに分布し、P波とS波ともに検測できる規模としてM2~4の範囲の地震18個を選択した。Hi-net観測点は四国地方の35観測点を選択し、各観測点の地震波到達時刻を気象庁の検測値がある場合は地震波形を確認し、検測値がない場合は検測した。


4.結果

得られた地震波速度構造を図に示す。繰り返し計算の後、第3層及び第4層の地震波速度と層厚はそれぞれ上部地殻及び下部地殻に対応している値が安定して得られた。上部地殻と下部地殻の境界の深さは21.3㎞である。第5層はモホ面の深さを推定するための層であるが、得られた結果はP波が7.5 km/sで最上部マントルの地震波速度としてはやや小さい。この層をマントル最上層と考えるとモホ面の深さは33.3 kmである。
Vp/Vsに注目すると地殻(第3層と第4層)は1.71~1.73と比較的低く、最上部マントル(第5層)は1.84と高い値が得られた。
観測点補正値(走時残差に対する補正値)は図に示すように、四国中央部で負、中央部から離れると正という傾向がP波、S波とも見られる。


5.議論

木村・岡野(1991,高知大学学術研究報告)によるP波速度構造では、上部地殻と下部地殻の境界は20km、上部地殻のP波速度は5.5km/sから6.4km/sまで増加、また、モホ面の深さを35km、最上部マントルの速度を7.8km/sとしている。今回の結果は地震波速度、層厚とも調和的である。木村・岡野(1991)では下部地殻の地震波速度は上部地殻に比べ低速度層になると示唆しているが、今回の結果は下部地殻の地震波速度の平均値は上部地殻より大きいことを示している。
観測点補正値の地域性は、四国中央部から離れるにしたがって観測走時が速いことを示すことから、沈み込んだフィリピン海プレートの形状が影響していることが考えられる。


6.まとめ

四国地方のP波・S波速度構造を水平成層構造と仮定し、遺伝的アルゴリズムを活用して推定した。得られたP波速度構造は、これまでの研究と調和的であり、本研究の手法が地殻・最上部マントルの地震波速度構造推定に有効なことを示している。今後、地震波速度構造の誤差の評価が課題である。
今回の得られたS波速度から、四国地方の地殻内は低Vp/Vs(低ポアソン比)であることが分かった。


7.謝辞

本研究では、防災科研のHi-net地震観測網の波形データを使用した。また図の作成にはGMTを使用した。記してここに感謝いたします。