日本地震学会2020年度秋季大会

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Poster session (Oct. 30th)

Regular session » S07. Structure and dynamics of the Earth and planetary interiors

S07P

Fri. Oct 30, 2020 4:00 PM - 5:30 PM ROOM P

4:00 PM - 5:30 PM

[S07P-02] Numerical simulations on overriding plate behavior and mantle flow induced by slab subduction in 2-D spherical annulus

〇Mana Tsuchida1, Masanori Kameyama1 (1.Geodynamics Research Center, Ehime Univ.)

1.はじめに
地震波トモグラフィー研究 (例えばFukao and Obayashi, 2013) により、沈み込むプレート (スラブ) は多様な挙動を示すことが明らかにされている。一方で、スラブ挙動と背弧海盆拡大の有無といった上盤プレート内の挙動との間には関係性があると以前より考えられており (例えばUyeda and Kanamori, 1979)、両者の関係を物理的に理解する上でマントル対流シミュレーションは重要な役割を果たしている (例えばNakakuki and Mura, 2013)。
その一例として、我々の実施した2次元円環状マントル対流シミュレーション (Tsuchida and Kameyama, 2020) では、深さ660 km付近で停滞し水平に横たわるスタグナントスラブ (伊豆-小笠原弧) をはじめ、深さ約1000 km付近で「停滞」しているようにみえるスラブ (ジャワ弧) や折れ曲がり部分から下部マントルへ崩落しているようにみえるスタグナントスラブ (マリアナ弧) など、スラブの多様な挙動の再現に成功した。しかしその一方で、ここで使用してきたモデルには、シミュレーションの簡単化のために施したいくつかの仮定がスラブの挙動に影響している可能性もある。さらに、沈み込んだスラブの挙動のみならず、沈み込み帯全体の活動を理解するためには、上盤側の (沈み込まない) プレートの挙動をも含めたモデルの開発が不可欠である。
そこで本研究では、Tsuchida and Kameyama (2020) で使用したモデルをさらに改良し、沈み込んだスラブや上盤プレートの挙動を長期間にわたって追跡することを試みる。再現した多様なスラブ挙動の時間発展に伴って生じるマントル内の流れ・応力場を詳細に観察することにより、上盤プレート内の挙動を含む沈み込み帯のダイナミクスの多様性に関する理解を深めることを目指す。

2.手法
本研究では、外径6400 km、厚さ2000 km の2次元円環の6分の1 (60°分) に相当するモデル領域内において冷たいスラブの沈み込みと海溝後退の動きによって駆動されるマントル物質の熱対流を考える。上面左端から約 7.5°の位置にある「海溝」より左側に海洋プレート、右側に上盤 (大陸) プレートを設置する。海洋プレートの沈み込みは、最大深さ300 km まで海溝から右斜め下方に延びる「流路」に沿って低温の流体を既知の速度 (沈み込むプレート速度) で強制的に流し込むことによってモデル化している。加えて、海溝は「流路」とともに既知の速度 (海溝後退速度) で移動するものとする。一方、Tsuchida and Kameyama (2020) で使用したモデルにおいて、剛体的にふるまい「海溝」と同じ速度で移動すると仮定してきた上盤プレート部分 (モデル右側) の上面での速度境界条件を自由すべり条件へと変更し、自由に運動・変形する上盤プレートを扱うモデルを実現する。その他の境界での速度境界条件は、左側壁および下面では流体が自由に流入・流出できるよう、右側壁では法線速度0かつ自由すべり条件に設定されている。本研究では、(i) 660 km不連続面での負のクラペイロン勾配、(ii) 上部-下部マントル間の粘性ジャンプ、(iii) 沈み込むプレート速度、(iv) 海溝後退速度、(v) 沈み込み角度を変更パラメータとしてシミュレーションを行った。

3.結果と考察
図1に得られたシミュレーション結果の一例を示す (各Caseの条件は図のキャプションを参照)。CaseTR2000H3G-3_d45 (図1a) では、沈み込んだスラブが660 km付近で停滞し水平に横たわり、スタグナントスラブが形成された。上盤プレート下のアセノスフェア内の流れ場に注目すると、シミュレーションの初期にはマントルウェッジ内浅部でスラブ沈み込みの反流とみられる局所的な上昇流が発生するようすが観察された。その後、スラブの先端が660 km付近へと到達し、スタグナントスラブが形成され始めると、形成されたスタグナントスラブの先端付近から上昇流 (図1a青矢印) が発生するようすが観察された。一方、負のクラペイロン勾配の値のみ-1 MPa/Kに変更したCaseTR2000H3G-1_d45 (図1b) では、スラブの先端ははじめ下部マントルに貫入し、その後660 km付近での水平停滞部分が形成され始めた。この場合、上盤プレート下のアセノスフェア内の上昇流は、前述したCaseTR2000H3G-3_d45のようにスラブの水平停滞 (スタグナントスラブ) 部分の先端付近に発生するのではなく、下部マントルに到達したスラブの先端付近から発生した (図1b青矢印)。
本研究の結果をTsuchida and Kameyama (2020) と比較すると、発現するスラブ挙動に関しては定性的に同様の結果が得られた。一方、マントル内の流れ場に関しては停滞あるいは崩落するスラブの先端付近からの上昇流の発生といったモデルの境界条件に起因すると考えられる相違がみられた。発表では、他のCaseも含め、変更パラメータを系統的に変更したシミュレーション結果について詳細を報告する。