日本地震学会2020年度秋季大会

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C会場

一般セッション » S08. 地震発生の物理

[S08]PM-2

2020年10月30日(金) 14:30 〜 15:30 C会場

座長:麻生 尚文(東京工業大学)

15:15 〜 15:30

[S08-04] 高密度地震観測で明らかになった2016年鳥取県中部地震の余震活動の時間変化

〇飯尾 能久1、松本 聡2、京大九大東大地震研 鳥取県中部地震余震観測班 (1.京都大学防災研究所、2.九州大学大学院理学研究院地震火山観測研究センター)

2016年10月21日に発生した鳥取県中部地震(Mj6.6)の余震域に、本震発生の翌日早朝から設置を開始した69点の高感度地震計および周辺の高感度定常観測点のデータを用いて、10月22日から12月15日までの約2か月間に発生した余震の震源とメカニズム解を正確に決定し、地震発生と応力場や流体との関係の解明を目指して、それらの時間変化を調べた。

 最初に、余震数がほぼ同じとなるように解析期間を2分割し、メカニズム解のパラメータの時間変化を調べた。断層付近を境に余震域を東部と西部に分け、5km×5km×5kmの領域毎に、T,P軸の方位と傾斜角の変化の有無を、KS-testによって検討した。その結果、ほとんどの領域においては、各パラメータの分布が前半・後半の2つの期間で同一であるという帰無仮説が棄却されなかったが、余震域西部の浅部、深さ0~5kmにおいて、T,P軸の方位角の両方において、帰無仮説が棄却された領域が見つかった。つまり、そこでは、T,P軸の方位角が時間変化していることが示された。深部においても、いくつかの領域で帰無仮説は棄却されたが、複数のパラメータで系統的にみられておらず、また、サンプル数が少ないため、その解釈は難しい。

 上記では、時間変化の有無を定量的に調べるために、5km×5km×5kmの領域毎というやや広い領域における分布の形を検討したが、T軸の方位の空間分布とその時間変化をより細かく見てみると、浅部において断層からやや離れた地域で、かつ、本震における静的な応力変化が圧縮場となっているところで、T軸の方位の特に大きなものが時間とともに減少している傾向が見られた。これらは、数が少ないため、上記のtestでは検知されなかったものと推定される。また、本震断層近傍における時間変化の有無をKS-testにより検討したところ、本震断層近傍ほど、帰無仮説が棄却されない傾向が見られた。本震断層に近いほど余震数が多いので、この結果の解釈は慎重に行うべきだが、これらの結果は、本震断層近傍では余震活動は時間的に安定しているが、本震断層から離れたところでは、時間変化している可能性が示唆される。
 以上のように、鳥取県中部地震の余震域において、特に本震断層に近い余震が多く発生しているところでは、本震の数日後から約2か月間は、震源分布やメカニズム解の時間変化は見られなかった。このことは、鳥取県中部地震の余震活動が、基本的には、高い流体圧による強度低下によってコントロールされていないことを示している。しかしながら、5km×5km×5kmのいくつかのサブ領域では時間変化が検出された。また、本震断層から離れた浅部の本震における静的な応力変化が圧縮場となっているところでは、サンプル数が少ないため有意であることを定量的には示すことが出来ていないが、時間変化している可能性が示唆された。時間変化している可能性のある領域が静的な応力変化と関係することは、時間変化が応力変化に起因することを示唆しているが、本震断層近傍ではなくやや離れたところで見出されたことは、この時間変化が本物であるとしても、単純に静的な応力変化だけで説明できるものではないことを示唆している。