09:30 〜 09:45
[S08-07] 発震機構解と地殻変動から示唆される西南日本における周期性応力場変化
1.はじめに
西南日本、特に近畿地方では、ほとんどの被害地震が南海トラフ沿いの大地震前後(概ね発生前50年から発生後10年)の間に発生していることが知られている(宇津 1974; Hori & Oike 1996)。この観測事実は、内陸地震がプレート境界の固着の状態に呼応して発生していることを示唆している。言い換えると、日常的に発生している小地震も含めて発生状況を調べることでプレートの固着状態をモニタリングできる可能性がある。今西・野田(JpGU-AGU Joint Meeting 2020)は、内陸で発生している地震の発震機構解がプレート境界のすべり欠損により作られる応力場に調和的かどうかを判定し、内陸の応力場の時間変化を調べる方法を提案した。この方法を西南日本に適用したところ、数年ほどの周期で応力場が時間変化していることが示された。彼らは西南日本を4つの領域に区分して検討を行ったが、区域分けには任意性が残されていた。本研究ではこの任意性を排除したうえで、改めて時間変化の特徴について調べた結果を報告する。
2.手法およびデータ
ある地震が参照とする応力場に調和的に発生しているか否かを評価するパラメータとして、ミスフィット角(仮定した応力場から計算されるすべり角とメカニズム解のすべり角との角度差)が有効であることが示されている(Terakawa et al., 2016; Yukutake et al., 2020)。本研究でもこのパラメータに着目し、南海トラフのプレート間固着と内陸の応力場との関連を調べる。解析手順は以下のとおりである。
(1)プレート境界のすべり欠損により作り出される陸域の深さ10kmにおける応力テンソルを0.1°毎に計算する。
(2)それぞれの発震機構解の震源位置に最も近いグリッドの応力テンソルを用いて、ミスフィット角を計算する。この際、2つの節面のうち、小さい方のミスフィット角を採用する。
(3)ミスフィット角の移動平均(1年)を取り、時間変化を推定する。誤差はブートストラップ法により計算する。
本研究では区域分けの任意性を排除するため、西南日本に0.5°間隔のグリッドを配置し、それぞれのグリッドの半径100km以内の地震を用いて上記の計算を行う。
発震機構解は気象庁一元化カタログ(1997年10月~2020年7月)に加えてJUNECカタログ(Ishibe et al, 2004)(1985年7月~1998年12月)を使用した。2つを統合することで、35年間に及ぶ発震機構解カタログとなる。実際の解析では、デクラスタリング(Reasenberg, 1985)処理後の深さ25km以浅の地震を使用した。すべり欠損モデルについては、2005年3月~2011年2月のGNSSデータを用いて推定されたNoda et al. (2018)のモデルを使用した。
3.結果と解釈
発震機構解が十分あるメッシュにおいては、いずれもミスフィト角は数年ほどの周期で変動していることが明らかとなった。変動の振幅は10~30°程度である。この周期性の変化は誤差を考慮しても有意である。本研究では南海トラフのすべり欠損に対する応答を見ていることから、この観測結果は、南海トラフ沿いの固着が数年周期で強くなったり弱くなったりしていることを反映しているのかもしれない。このような周期性の応力変化は、近畿北部における原位置応力の繰り返し測定からも報告されている(田中ほか, 1998)。もし応力場の時間変化が真実であれば、地殻変動観測データにもその影響を見いだすことができるはずである。そこで、1996~2011年(東北沖地震直前まで)のGNSS時系列データから1年ごとの変位速度(水平2成分)を求め、さらにShen et al. (1996)の方法により歪み速度(水平歪み3成分)を計算した(グリッド間隔:0.05°、距離減衰定数(DDC):35km)。多くの領域で時間変化は不明瞭であったものの、プレート境界に近い紀伊半島先端付近ではミスフィット角の周期性変化と調和的な南北成分の歪速度の変動が確認できた。
また、中部及び近畿地方のメッシュでは、2013年頃からミスフィット角が減少傾向を示すことがわかった。2011年東北地方太平洋沖地震による粘弾性緩和の影響が含まれている可能性もあるが、南海トラフの東側の固着が徐々に強くなっていると解釈することもできる。2013年淡路島の地震(Mj6.3)や2018年大阪府北部の地震(Mj6.1)が発生しているタイミングとも重なっており、その関連性は興味深い。
ミスフィット角の周期性変化の解釈は、引き続き様々な観点から検討を進める必要があるが、本手法は微弱な応力場の時間変化の検出及びプレート間固着のモニタリングに有効な方法になりうる。
謝辞:本研究では気象庁一元化カタログ、JUNECカタログ(Ishibe et al., 2014)、国土地理院のGEONET F3解を使用しました。記して感謝します。
西南日本、特に近畿地方では、ほとんどの被害地震が南海トラフ沿いの大地震前後(概ね発生前50年から発生後10年)の間に発生していることが知られている(宇津 1974; Hori & Oike 1996)。この観測事実は、内陸地震がプレート境界の固着の状態に呼応して発生していることを示唆している。言い換えると、日常的に発生している小地震も含めて発生状況を調べることでプレートの固着状態をモニタリングできる可能性がある。今西・野田(JpGU-AGU Joint Meeting 2020)は、内陸で発生している地震の発震機構解がプレート境界のすべり欠損により作られる応力場に調和的かどうかを判定し、内陸の応力場の時間変化を調べる方法を提案した。この方法を西南日本に適用したところ、数年ほどの周期で応力場が時間変化していることが示された。彼らは西南日本を4つの領域に区分して検討を行ったが、区域分けには任意性が残されていた。本研究ではこの任意性を排除したうえで、改めて時間変化の特徴について調べた結果を報告する。
2.手法およびデータ
ある地震が参照とする応力場に調和的に発生しているか否かを評価するパラメータとして、ミスフィット角(仮定した応力場から計算されるすべり角とメカニズム解のすべり角との角度差)が有効であることが示されている(Terakawa et al., 2016; Yukutake et al., 2020)。本研究でもこのパラメータに着目し、南海トラフのプレート間固着と内陸の応力場との関連を調べる。解析手順は以下のとおりである。
(1)プレート境界のすべり欠損により作り出される陸域の深さ10kmにおける応力テンソルを0.1°毎に計算する。
(2)それぞれの発震機構解の震源位置に最も近いグリッドの応力テンソルを用いて、ミスフィット角を計算する。この際、2つの節面のうち、小さい方のミスフィット角を採用する。
(3)ミスフィット角の移動平均(1年)を取り、時間変化を推定する。誤差はブートストラップ法により計算する。
本研究では区域分けの任意性を排除するため、西南日本に0.5°間隔のグリッドを配置し、それぞれのグリッドの半径100km以内の地震を用いて上記の計算を行う。
発震機構解は気象庁一元化カタログ(1997年10月~2020年7月)に加えてJUNECカタログ(Ishibe et al, 2004)(1985年7月~1998年12月)を使用した。2つを統合することで、35年間に及ぶ発震機構解カタログとなる。実際の解析では、デクラスタリング(Reasenberg, 1985)処理後の深さ25km以浅の地震を使用した。すべり欠損モデルについては、2005年3月~2011年2月のGNSSデータを用いて推定されたNoda et al. (2018)のモデルを使用した。
3.結果と解釈
発震機構解が十分あるメッシュにおいては、いずれもミスフィト角は数年ほどの周期で変動していることが明らかとなった。変動の振幅は10~30°程度である。この周期性の変化は誤差を考慮しても有意である。本研究では南海トラフのすべり欠損に対する応答を見ていることから、この観測結果は、南海トラフ沿いの固着が数年周期で強くなったり弱くなったりしていることを反映しているのかもしれない。このような周期性の応力変化は、近畿北部における原位置応力の繰り返し測定からも報告されている(田中ほか, 1998)。もし応力場の時間変化が真実であれば、地殻変動観測データにもその影響を見いだすことができるはずである。そこで、1996~2011年(東北沖地震直前まで)のGNSS時系列データから1年ごとの変位速度(水平2成分)を求め、さらにShen et al. (1996)の方法により歪み速度(水平歪み3成分)を計算した(グリッド間隔:0.05°、距離減衰定数(DDC):35km)。多くの領域で時間変化は不明瞭であったものの、プレート境界に近い紀伊半島先端付近ではミスフィット角の周期性変化と調和的な南北成分の歪速度の変動が確認できた。
また、中部及び近畿地方のメッシュでは、2013年頃からミスフィット角が減少傾向を示すことがわかった。2011年東北地方太平洋沖地震による粘弾性緩和の影響が含まれている可能性もあるが、南海トラフの東側の固着が徐々に強くなっていると解釈することもできる。2013年淡路島の地震(Mj6.3)や2018年大阪府北部の地震(Mj6.1)が発生しているタイミングとも重なっており、その関連性は興味深い。
ミスフィット角の周期性変化の解釈は、引き続き様々な観点から検討を進める必要があるが、本手法は微弱な応力場の時間変化の検出及びプレート間固着のモニタリングに有効な方法になりうる。
謝辞:本研究では気象庁一元化カタログ、JUNECカタログ(Ishibe et al., 2014)、国土地理院のGEONET F3解を使用しました。記して感謝します。