10:30 AM - 10:45 AM
[S08-10] Characteristics of Slow Slip Event in March 2020 revealed from borehole and DONET observatories
1.はじめに
海洋研究開発機構は、南海トラフで発生する地震・津波を常時観測することを目的とした地震・津波観測監視システム(DONET: Dense Oceanfloor Nework system for Earthquake and Tsunamis) の構築を熊野灘から室戸沖にかけて実施してきた (Kaneda et al., 2015; Kawaguchi et al., 2015)。DONETは、構築終了後の2016年4月1日より海洋研究開発機構から防災科学技術研究所に移管され、陸海統合地震津波火山観測網(MOWLAS: Monitoring of Waves on Land and Seafloor) の一環として両者が連携して運用・保守を行っている。
これに加えて、海洋研究開発機構では、国際深海科学掘削計画 (IODP: International Ocean Discovery Program) の一部として、長期孔内観測点 (LTBMS: Long-Term Borehole Monitoring System) の構築を行い、海底下に地震計・間隙水圧計・体積歪計を東南海地震の想定震源域直上に2点設置した (C0002: 2013年1月、C0010: 2016年4月)。
これらの間隙水圧計および地震計を活用することにより、陸上の観測網では捉えきれなかった南海トラフ沖合のスロースリップイベントについて、海底下の間隙圧変化から捉えられるようになった (Araki et al., 2017)。2018年3月には、海溝に近い C0006 が新たに設置され、孔内観測がDONETに接続したことで、リアルタイムでのスロースリップイベントの監視が可能となった。そのような状況下で、2020年3月にC0002とC0010 の2つの観測点で間隙圧が同期して変化すると共に、DONETの広帯域地震計からは超低周波地震が観測された。本講演では、このスロースリップイベントの概要について報告する。
2.解析手法
シグナルが卓越しているC0002 に着目し、深さが異なる3つの間隙圧時系列に対して、開始・終了時刻を未知数とする最小絶対値法による回帰直線をスロースリップイベントの前後で求めた。これにより、時刻と同時に間隙圧の変化量を定量的に推定することに成功した。一方で、C0006には特異な変化がみられなかった。C0010についてはノイズが大きいため、過去のスロースリップイベントおよび超低周波地震の活動履歴に基づいて観測結果と矛盾しない時系列を推定することにした。
超低周波地震のメカニズム解は、Nakano et al. (2018) の手法をスロースリップイベント期間中のDONET地震波形データに適用することで推定した。断層モデルの構築に関しては、Okada (1992) を適用して沈み込みプレート境界面上での逆断層型すべり(傾斜角6度)に対する孔内間隙圧応答グリーン関数を計算したうえで、位置(緯度・経度・深さ)、断層サイズ及びすべり量を推定した。
3.結果
推定されたスロースリップイベントの開始・終了時刻により、超低周波地震がその期間中に起きていることが定量的に確かめられた。深さの違いを比べると、深い方の2点では、開始・終了時刻および間隙圧の変化量に関して差異は見られなかったが、浅い点に関しては、海洋変動に起因するノイズ成分が大きかったものの、間隙圧の変化量が大きいことが示された。
C0006で変化がなかったことと、超低周波地震がスロースリップイベントの発生期間の後半に発生したことから、断層モデルを用いて検討した結果、今回のスロースリップイベントは、C0010 を跨ぐように海溝側に向かってすべりが伝播した現象であったと結論づけた。この場合、推定された断層モデルは、2015年のスロースリップイベントよりも小規模なものがC0010近傍において発生したと考えられるが、超低周波地震活動の特徴などを整合的に説明できるものとなった。
この断層モデルではから期待されるすべり量は約4cmとなり、海底地殻変動は上下成分で1~4mm 程度であり、実際のDONET海底圧力計からは検出することが出来なかった。今回の結果は、海底圧力計でさえも捉えきれなかった海溝付近 のMw5程度のスロースリップイベントを早期検知した成功例の第一歩であり、今後、音響測距結合方式による海底地殻変動観測 (GNSS-A観測) をはじめとする多角的な検証が期待される。
4.謝辞
本研究成果の一部は、科学研究費補助金 (JP16H06477, JP19H02411, JP20H02236) からの助成を受けました。
海洋研究開発機構は、南海トラフで発生する地震・津波を常時観測することを目的とした地震・津波観測監視システム(DONET: Dense Oceanfloor Nework system for Earthquake and Tsunamis) の構築を熊野灘から室戸沖にかけて実施してきた (Kaneda et al., 2015; Kawaguchi et al., 2015)。DONETは、構築終了後の2016年4月1日より海洋研究開発機構から防災科学技術研究所に移管され、陸海統合地震津波火山観測網(MOWLAS: Monitoring of Waves on Land and Seafloor) の一環として両者が連携して運用・保守を行っている。
これに加えて、海洋研究開発機構では、国際深海科学掘削計画 (IODP: International Ocean Discovery Program) の一部として、長期孔内観測点 (LTBMS: Long-Term Borehole Monitoring System) の構築を行い、海底下に地震計・間隙水圧計・体積歪計を東南海地震の想定震源域直上に2点設置した (C0002: 2013年1月、C0010: 2016年4月)。
これらの間隙水圧計および地震計を活用することにより、陸上の観測網では捉えきれなかった南海トラフ沖合のスロースリップイベントについて、海底下の間隙圧変化から捉えられるようになった (Araki et al., 2017)。2018年3月には、海溝に近い C0006 が新たに設置され、孔内観測がDONETに接続したことで、リアルタイムでのスロースリップイベントの監視が可能となった。そのような状況下で、2020年3月にC0002とC0010 の2つの観測点で間隙圧が同期して変化すると共に、DONETの広帯域地震計からは超低周波地震が観測された。本講演では、このスロースリップイベントの概要について報告する。
2.解析手法
シグナルが卓越しているC0002 に着目し、深さが異なる3つの間隙圧時系列に対して、開始・終了時刻を未知数とする最小絶対値法による回帰直線をスロースリップイベントの前後で求めた。これにより、時刻と同時に間隙圧の変化量を定量的に推定することに成功した。一方で、C0006には特異な変化がみられなかった。C0010についてはノイズが大きいため、過去のスロースリップイベントおよび超低周波地震の活動履歴に基づいて観測結果と矛盾しない時系列を推定することにした。
超低周波地震のメカニズム解は、Nakano et al. (2018) の手法をスロースリップイベント期間中のDONET地震波形データに適用することで推定した。断層モデルの構築に関しては、Okada (1992) を適用して沈み込みプレート境界面上での逆断層型すべり(傾斜角6度)に対する孔内間隙圧応答グリーン関数を計算したうえで、位置(緯度・経度・深さ)、断層サイズ及びすべり量を推定した。
3.結果
推定されたスロースリップイベントの開始・終了時刻により、超低周波地震がその期間中に起きていることが定量的に確かめられた。深さの違いを比べると、深い方の2点では、開始・終了時刻および間隙圧の変化量に関して差異は見られなかったが、浅い点に関しては、海洋変動に起因するノイズ成分が大きかったものの、間隙圧の変化量が大きいことが示された。
C0006で変化がなかったことと、超低周波地震がスロースリップイベントの発生期間の後半に発生したことから、断層モデルを用いて検討した結果、今回のスロースリップイベントは、C0010 を跨ぐように海溝側に向かってすべりが伝播した現象であったと結論づけた。この場合、推定された断層モデルは、2015年のスロースリップイベントよりも小規模なものがC0010近傍において発生したと考えられるが、超低周波地震活動の特徴などを整合的に説明できるものとなった。
この断層モデルではから期待されるすべり量は約4cmとなり、海底地殻変動は上下成分で1~4mm 程度であり、実際のDONET海底圧力計からは検出することが出来なかった。今回の結果は、海底圧力計でさえも捉えきれなかった海溝付近 のMw5程度のスロースリップイベントを早期検知した成功例の第一歩であり、今後、音響測距結合方式による海底地殻変動観測 (GNSS-A観測) をはじめとする多角的な検証が期待される。
4.謝辞
本研究成果の一部は、科学研究費補助金 (JP16H06477, JP19H02411, JP20H02236) からの助成を受けました。