日本地震学会2020年度秋季大会

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Poster session (Oct. 31th)

Regular session » S08. Earthquake physics

S08P

Sat. Oct 31, 2020 4:00 PM - 5:30 PM ROOM P

4:00 PM - 5:30 PM

[S08P-01] Temporal change in the rupture velocity of repeating earthquakes occurring in and around the source area of the 2011 Tohoku-oki earthquake

〇Kazuya Tateiwa1, Tomomi Okada1, Naoki Uchida1, Toshio Kono1 (1.Tohoku University)

1.はじめに

規模の大きな地震が発生した後、その余効すべりがもたらす載荷速度変化の影響を受けて、周囲で発生する小繰り返し地震では震源パラメータの変化が観測されることがある。釜石沖繰り返し地震系列を例にとると、2011年東北地方太平洋沖地震(東北沖地震)の発生前は繰り返し間隔 Tr が約5年、マグニチュードが約4.8で一定であったが、東北沖地震発生直後は Tr が数十日程度にまで減少しマグニチュードは約5.8に増加した。その後は時間の経過とともに Tr は増加し、マグニチュードは減少することで東北沖地震前の状態に近づいていった。これは東北沖地震の余効すべりによる載荷速度変化で説明される(Uchida et al., 2015)。
東北沖で発生する小繰り返し地震の繰り返し間隔 Tr と地震モーメント M0 の関係はq-valueという指標を導入することで評価される。立岩・他 (2020) では、TrM0 を両対数プロットしたときの回帰直線の傾きをq-valueとして定義し、東北沖で発生する繰り返し地震系列のq-valueを求め、その空間分布を調べた。その結果、宮城県沖・岩手県沖(Region 1)では負のq-value(繰り返し間隔が短くなるほど地震モーメントが大きくなる傾向)が卓越し、日高沖(Region 2)では正のq-value(繰り返し間隔が短くなるほど地震モーメントが小さくなる傾向)が卓越していることが明らかとなった。速度状態依存摩擦則を用いたChen et al. (2010)の数値シミュレーションでは、速度弱化パッチ半径 r と臨界破壊核サイズ h* の比、つまり r/h* が1程度のときに負のq-value、r/h* が1より大きいときに正のq-valueになることが示されている。彼女らの結果を用いるとRegion 1では r/h* が1程度であることやRegion 2では r/h* が1より大きいことが示唆される。一方、これらの繰り返し地震のコーナー周波数 fc を求め M0fc3 を調べたところ、Region 1では東北沖地震前は M0fc3 が小さく、Region 2では M0fc3 が大きかった。このことは、r/h* が小さいときに破壊伝播速度 Vr が遅く低周波に卓越し、r/h* が大きいときには Vr が速く高周波に卓越すると考えれば説明可能であり、Region 1は東北沖地震直後の M0fc3 が大きく求まっており、東北沖地震の余効すべりによる載荷速度上昇が臨界破壊核サイズの縮小をもたらし Vr が大きくなったのだと考えられる(Kaneko et al., 2016, Guérin-Marthe et al., 2019)。そこで、本研究では東北沖の小繰り返し地震の Vr を求め、それが各繰り返し地震系列内でどのように時間変化するのか調べる。

2.データおよび解析手法

対象とする繰り返し地震は東北日本太平洋プレート境界上で2006年4月11日から2016年8月31日の間に発生したものであり、全1737系列、5426イベントである。まず、繰り返し地震をマスターイベント、その近傍で発生した規模の小さな地震をEGFイベントとし、スペクトル比法でコーナー周波数 fc を推定する。fc 推定にはマスターイベントから震央距離が200 km以内にあるHi-net観測点を使用する。次に、本研究では線震源を仮定し、各観測点で推定される fc の方位角変化から破壊伝播方向 α と破壊伝播速度 Vr をグリッドサーチで決定する。本研究の手法は、震源時間関数の継続時間を用いるAbercrombie et al. (2017)の手法を改良し周波数領域で行ったものである。その際、各観測点の fc を独立に用いるときには α と Vr に加えて線震源の長さもグリッドサーチで決定する必要があるが、本研究では2観測点の fc の比を用いることで α と Vr のみが推定量となるため、推定が容易となる。

3.結果および議論

解析を行った結果、多数の同一繰り返し地震系列内の地震に対して Vr の系統的な時間変化が見られたものが2系列見つかった。これらはRegion 1内の東北沖地震後のみ地震が発生している系列であり、東北沖地震直後から約1-1.5年の間は破壊伝播速度 Vr とS波速度 Vs の比 Vr/Vs が約0.7であったが、その後は Vr/Vs が約0.5程度にまで低下していた。なお、破壊伝播方向 α は時間によらず概ね一定であった。Region 1では r/h*~1となっていること、東北沖地震の余効すべりが大きいことを考慮すると、東北沖地震直後は載荷速度が大きく臨界破壊核サイズが小さくなったため大きな Vr が推定されたと解釈される。一方で、その後は載荷速度がそれほど大きくないため臨界破壊核サイズが比較的大きくなり Vr は遅くなったと考えられる。さらにKaneko and Shearer (2015)の破壊モデルが示すような Vr が大きくなるほどP波とS波のコーナー周波数の比が小さくなるという傾向が観測されたため、Vr の時間変化は確かに起きていると示唆される。
以上に示すように、同一繰り返し地震系列内での Vr の時間変化は、q-valueから推測される r/h* の大きさおよび余効すべりの大きさから予想されるものと整合的であった。すなわち、Vr は載荷速度とは正の関係に、臨界破壊核サイズとは負の関係にあると考えられる。このことは、先行研究で行った、繰り返し地震のq-valueが実際の r/h*、つまり摩擦特性を反映していることを示唆しているとする考えを支持するものである。