日本地震学会2020年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(3日目)

一般セッション » S08. 地震発生の物理

S08P

2020年10月31日(土) 16:00 〜 17:30 P会場

16:00 〜 17:30

[S08P-07] 2016年熊本地震震源域における非弾性歪み速度の時間発展

〇光岡 郁穂1、松本 聡2、志藤 あずさ3、清水 洋2、2016年熊本地震 合同観測グループ (1.九州大学大学院理学府地球惑星科学専攻、2.九州大学大学院理学研究院附属地震火山観測研究センター、3.岡山理科大学岡山理科大学生物地球学部生物地球学科)

大地震発生後の非弾性歪み場は、地震発生による地殻内での応力再配分を理解するための鍵となる。大地震発生後の余震活動について、改良大森公式(宇津(1957, 1999); Utsu (1961))に示されているように、地震発生率は時間のべき乗則に従う。また非弾性歪み速度も時間のべき乗則(dε/dt ∝t-p)に従うことが示されており、これらの時間変化についてモデル化が行われている(たとえばNanjo et al,, 2019; 楠城, 2007)。そのモデル化のためにまずは、非弾性歪み速度の時間変化を調べる必要がある。本研究では、2016年熊本地震の震源域で地震活動による非弾性歪みの時間変化を調べた。

震源域周辺を約10km四方の領域に分割し、いくつかの時間ウィンドウを設定し、モーメント密度テンソルと非弾性歪みテンソルの関係(Noda and Matsu'ura, 2010)を用いて、非弾性歪み速度の時空間変化を調べた。

地震前後ともに、震源域北部は正断層型、南部は右横ずれ型の不均質な歪み場を持つ。本震発生後、非弾性歪み速度が時間のべき乗則(dε/dt ∝t-p)に従うと考え、各小領域で、p値を最小二乗法により推定した。震源断層周辺はp>1となり、この領域の変形は、べき乗流体を考えた時の弾性歪みへの応答として解釈できる(楠城, 2007)。

一方、p値が1より小さくなる領域が確認された。この領域では、非弾性歪みが時間経過とともに増加することになり、最大前震・本震が発生したことによる弾性変形によって生じた応力ステップへの応答だけでは、地震活動を説明できないことがわかる。そこで、その領域について議論を行う。

一連の地震活動では、最大前震(Mj=6.5)と本震(Mj=7.3)の2つの大きな地震が発生したことが知られており、それらのすべり分布モデルがいくつか示され、Asano and Iwata (2016)の本震断層モデルは、日奈久・布田川断層両側に2枚モデル化されている。p値が1より小さい領域は、この本震断層モデルの日奈久断層の南延長部、あるいは布田川断層の西延長部に位置することがわかった。

日奈久断層南延長部の領域について、この領域のp値は、深さが増すと小さくなり、また、浅部ではさらに南側に低p値の領域が広がることがわかった。このことから、上部地殻下部(7.5 – 15 km付近)とより南側の浅部に影響する、例えばアフタースリップのような地震後の変動がある可能性が示唆される。また、この領域ではM5を超える地震が本震後に発生していることもあり、その地震が及ぼす弾性歪みに対する非弾性歪みを検出している可能性も考えられる。
流れ則に従い、非弾性歪みの主歪みの方向に応力が働き、変形が進んでいると仮定すると、この領域で働く主応力の向き、それに最適な断層の形状を推定することができる。日奈久断層は右横ずれの運動を生じていることを考慮し、この領域で断層モデルを仮定した。震源分布(平成28年熊本地震を踏まえた総合的な活断層調査報告書)を見ると、この断層面上で発生したと考えられる地震活動が確認される。この断層モデルの形状を持つ断層がすべることによって周囲に及ぼす応力変化や変位について議論する。