日本地震学会2020年度秋季大会

講演情報

学生優秀発表賞(ポスター発表)審査セッション

学生優秀発表賞(ポスター発表)審査セッション » B会場(S07, S08)

[SPA]PM-3

2020年10月29日(木) 16:00 〜 17:00 B会場

座長:大谷 真紀子(東京大学地震研究所)

16:20 〜 16:30

[S08P-08] 巨大地震の静的応力変化が火山深部低周波地震の活動変化に与える影響の定量的評価

*及川 元己1、麻生 尚文1、中島 淳一1 (1. 東京工業大学理学院地球惑星科学系)

背景
 近年のHi-netなどの地震観測網の発達により、下部地殻及び上部マントルで発生する微小地震が観測されてきた。この地震は規模が小さいにも関わらず2-8Hzの低周波成分が卓越することから低周波地震と呼ばれ、主に火山周辺やプレート境界で観測されている。本研究で対象とする東北日本では、活火山周辺の深さ20~40kmで低周波地震が発生している。2011年に発生した東北沖地震以降、蔵王などの火山地域では低周波地震活動が活発化した一方で、ほとんどの地域で活動が静穏化しているという特徴がある(小菅・他2017)。これらの活動変化は東北沖地震で生じた応力変化に起因していると考えられているが、未だ定量的な解析はなされていない。そこで、本研究では巨大地震の断層モデルから計算された応力テンソルと低周波地震のメカニズムの類似度を評価することによって、巨大地震の静的応力変化と低周波地震活動の関係を調べた。

手法
 最初に、東北日本の26個の火山領域について低周波地震のメカニズムを決定した。メカニズムの決定にはS波とP波の振幅比を用い、自由表面とサイト特性の影響を補正した。サイト特性の補正にはメカニズムが既知である通常の地震を用いた。補正された振幅比に対し、グリッドサーチによって理論振幅比との残差が最小となるモーメントテンソルを推定し、イベント毎に100回のブートストラップテストによって精度が良いイベントのみを抽出した。次に、フリーソフトのCoulomb 3.3 (Toda et al., 2005; Lin et al., 2004) を用いて領域ごとに巨大地震から期待される応力テンソルを計算した。東北地方で発生した巨大地震として、2011年東北沖地震、東北沖地震のafterslip、2008年岩手宮城内陸地震を考慮した。得られた応力テンソルと低周波地震のメカニズムのモーメントテンソル間の距離をTape and Tape(2012)(eq.67)に基づいて計算し、3年毎に移動平均を取ってメカニズム間の距離の時間変動を調べた。

結果
まずメカニズム解析によって262個の解を決定した。得られたメカニズムは最も多い蔵王で40個以上、その他ほとんどの地域では5-10個程度であった。メカニズムに含まれるCLVD成分を見てみると有意なCLVD成分を持つイベントもあるものの、その多くはDouble-Couple成分が卓越していることがわかった。このことから、低周波地震の初動の破壊プロセスは普通の地震とあまり変わらない可能性が示唆される。次に、応力変化と低周波地震のメカニズムについて、蔵王と鳴子で特徴的な結果が得られた。活発化した蔵王では東北沖地震による応力変化に応答し、2012年頃から応力変化に似たメカニズムに変化していることが分かった。また、2014年ごろからafterslipに対応した若干の変動も見られた。蔵王では活発化するまでに1-2年ほど期間があることを考えると、粘弾性的に応力変化が伝わり、地震後のafterslipや粘弾性緩和といった長期的な変動が地震活動に影響していると考えられる。一方、静穏化した鳴子では蔵王と逆のトレンドを示しており、東北沖地震による応力変化を見てみると、2012年頃は2つのテンソルがあまり似ていないという傾向が得られた。この結果を踏まえると、鳴子では変化した応力場が、LFEのメカニズムに整合的でなかったために静穏化したと考えられる。