16:00 〜 17:30
[S08P-10] 周期境界条件を外したスペクトル法を用いた動的地震サイクルシミュレーション
動的地震サイクルシミュレーション (例えばLapusta et al., 2000) は、地震間の準静的な応力蓄積過程、震源核の形成、地震破壊の動的な伝播、余効滑りと再固着、といった異なる時間スケールの現象を同一のフレームワークでシームレスに扱う事のできる手法であり、地震を繰り返す断層の運動のダイナミクスを調べる上で重要な手法である。Lapusta et al. (2000) は離散化の為にフーリエ基底を採用し、Geubelle and Rice (1995) が導出された積分核を用いた。スペクトル法であるため滑らかな問題に対して近似誤差が早く収束し、また高速フーリエ変換を用いて空間方向の畳み込み積分を波数空間で行うため、計算コストが低く抑えられる、といった利点がある。一方で、この手法では滑りδや滑り速度Vの分布に対して周期境界条件を仮定し、無限媒質中の無限平面断層に対する解をグリーン関数として用いるため、周期境界条件を興味対象の領域から十分遠くに設定する必要がある。滑りによる静的な応力変化は遠くまで伝わるため、この周期境界の間隔をどの程度に取る必要があるのか、考慮が必要となる。本研究では、同様にフーリエ基底と高速フーリエ変換を用いながら、周期境界条件を仮定する必要のないスペクトル法の地震サイクルシミュレーションを構築した。
境界積分方程式法では、断層面でのトラクションτは断層滑りが過去と現在に無い場合のトラクション τ0、過去に断層がすべった事による寄与 f、及び現在その場に滑り速度がある影響(インピーダンスの効果)−Vμ/2cs の和で表現できる。ここで μ は剛性率、cs はS波速度である。f は過去の δ もしくは V と積分核の時空間的な畳み込みで表現できる。動的地震サイクルシミュレーションでは f を現在の滑り分布に依存する静的な効果 fst とそれ以外 fdyn = f – fst に分ける。fdyn は十分過去の滑り速度に関してその影響がゼロに漸近する。そのため、fdyn を V に関する積分で計算し、この積分を十分長い時間窓 tw で打ち切ってやることにより、過去を忘れながら(すなわち有限のメモリーで)数値計算を進めていく事ができる。これが Lapusta et al. (2000)による動的地震サイクルシミュレーションの仕組みである。
f の空間フーリエ変換 F は滑り量の空間フーリエ変換 D と積分核 K をかけた物を時間積分する事によって得られる。この K に関して、Cochard and Rice (1997) は周期境界条件を取り除く手法を提案した。彼らの手法では、滑りを許す領域(0 < x < L)の2倍の長さの領域(0 < x < 2L)を準備し、その半分(L < x < 2L)をゼロで埋める。その上で、滑りを許す領域でのみ正しい f の波数空間での表現が導出されている。ただし Geubelle and Rice (1995) に比べて積分する回数が1回多く、これを数値的に評価すると計算コストが大きくなる。しかし今回、この積分核の全時間の積分(静的な積分核)に関しては積分を解析的に実行する事が可能である事を見出した。波数 k (>0)のフーリエモードに関し、静的な積分核は −μk Si(kL)/π と表す事ができる。ここで Si( ) はサイン積分関数であり、高波数では積分核が周期境界条件を仮定した場合の −μk/2 に漸近する。
今回提案する手法では、f を Lapusta et al. (2000) と同様に Geubelle and Rice (1995) の表現を用いて計算する。ただし、周期境界の向こう側からの弾性波が興味対象の領域(0 < x < L)に達する事が無い様、周期境界の間隔は十分に広く取る。ソースと評価点の相対位置 −L < x < L に関して積分核を評価し、このフーリエ変換を波数空間でのグリーン関数として持っておく。ここから Cochard and Rice (1997) から求めた静的な積分核を差し引く事により、fdyn = f – fst を計算する。これを用いると、周期境界を取り除いた地震サイクルシミュレーションが可能となる。発表では手法の説明に加え、Aging law によって支配される孤立した断層の地震サイクルシミュレーションを紹介し、その途中で加えた動的および静的な応力擾乱の影響を議論する。
境界積分方程式法では、断層面でのトラクションτは断層滑りが過去と現在に無い場合のトラクション τ0、過去に断層がすべった事による寄与 f、及び現在その場に滑り速度がある影響(インピーダンスの効果)−Vμ/2cs の和で表現できる。ここで μ は剛性率、cs はS波速度である。f は過去の δ もしくは V と積分核の時空間的な畳み込みで表現できる。動的地震サイクルシミュレーションでは f を現在の滑り分布に依存する静的な効果 fst とそれ以外 fdyn = f – fst に分ける。fdyn は十分過去の滑り速度に関してその影響がゼロに漸近する。そのため、fdyn を V に関する積分で計算し、この積分を十分長い時間窓 tw で打ち切ってやることにより、過去を忘れながら(すなわち有限のメモリーで)数値計算を進めていく事ができる。これが Lapusta et al. (2000)による動的地震サイクルシミュレーションの仕組みである。
f の空間フーリエ変換 F は滑り量の空間フーリエ変換 D と積分核 K をかけた物を時間積分する事によって得られる。この K に関して、Cochard and Rice (1997) は周期境界条件を取り除く手法を提案した。彼らの手法では、滑りを許す領域(0 < x < L)の2倍の長さの領域(0 < x < 2L)を準備し、その半分(L < x < 2L)をゼロで埋める。その上で、滑りを許す領域でのみ正しい f の波数空間での表現が導出されている。ただし Geubelle and Rice (1995) に比べて積分する回数が1回多く、これを数値的に評価すると計算コストが大きくなる。しかし今回、この積分核の全時間の積分(静的な積分核)に関しては積分を解析的に実行する事が可能である事を見出した。波数 k (>0)のフーリエモードに関し、静的な積分核は −μk Si(kL)/π と表す事ができる。ここで Si( ) はサイン積分関数であり、高波数では積分核が周期境界条件を仮定した場合の −μk/2 に漸近する。
今回提案する手法では、f を Lapusta et al. (2000) と同様に Geubelle and Rice (1995) の表現を用いて計算する。ただし、周期境界の向こう側からの弾性波が興味対象の領域(0 < x < L)に達する事が無い様、周期境界の間隔は十分に広く取る。ソースと評価点の相対位置 −L < x < L に関して積分核を評価し、このフーリエ変換を波数空間でのグリーン関数として持っておく。ここから Cochard and Rice (1997) から求めた静的な積分核を差し引く事により、fdyn = f – fst を計算する。これを用いると、周期境界を取り除いた地震サイクルシミュレーションが可能となる。発表では手法の説明に加え、Aging law によって支配される孤立した断層の地震サイクルシミュレーションを紹介し、その途中で加えた動的および静的な応力擾乱の影響を議論する。