日本地震学会2020年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(3日目)

一般セッション » S08. 地震発生の物理

S08P

2020年10月31日(土) 16:00 〜 17:30 P会場

16:00 〜 17:30

[S08P-13] 南海トラフおよび日向灘におけるスロースリップイベントの数値モデリング ―近年の観測研究との比較―

〇松澤 孝紀1、芝崎 文一郎2 (1.防災科学技術研究所、2.建築研究所)

1.はじめに
深部低周波微動の発見(Obara, 2002)以来,世界各地のプレート境界で発生するスロー地震について,精力的に研究が進められてきている.近年,南海トラフにおいては,とりわけスロースリップイベント(SSE)に関する新たな知見が多く得られている.例えば,プレート固着域の深部延長上のプレート境界で発生する長期的SSEについては,従来知られていた東海地方や豊後水道,四国中西部だけでなく,日向灘や紀伊水道,志摩半島でも発生が報告されている(例えば,Ozawa et al., 2017; Kobayashi, 2017; Kobayashi and Tsuyuki, 2019).また,Takagi et al. (2019)は長期的SSEが日向灘において,2~3年間隔で発生している可能性を指摘している.これらの研究は,短期的SSEと同様に,長期的SSEについても沈み込み帯で広く発生している普遍的な現象であることを示している.さらには,固着域を挟んで浅部側の領域においてもSSEが発生していることが,近年の海底地殻変動観測の進展により明らかとなった(Araki et al., 2017; Yokota and Ishikawa, 2020).我々はこれまで南海トラフにおいて発生する深部の長期的および短期的SSEの数値シミュレーション研究を実施してきた.本発表においては,対象領域を種子島沖まで拡張したモデルに基づいて,数値シミュレーション結果と観測結果の比較を行うとともに,地震サイクル内における挙動についても議論を行う.

2.計算手法・モデル
数値モデルにおいては,フィリピン海プレート上面の形状を約17万個の三角形要素で表現し,Matsuzawa et al. (2013)と同様にカットオフ速度を考慮したすべり速度・状態依存摩擦則を仮定して,各要素上でのすべり速度および摩擦の時間発展を計算した.短期的SSEの領域設定においては,低い有効法線応力を仮定するとともに,観測された微動活動の分布に基づいて(a-b)が負となる領域を設定した.東海地域および豊後水道の長期的SSE領域については,Matsuzawa et al. (2013)と同様に,有効法線応力が周囲よりやや低い領域の沈み込み方向の幅を広く設定した.加えて日向灘領域については,この幅を他地域より広く,東海地域や豊後水道の長期的SSE領域よりも狭い,中間的な幅に設定した.

3.結果・議論
数値シミュレーション結果においては,短期的SSEに加え,長期的SSEが報告されている深さ25~29kmにおいて,長期的SSEの繰り返し発生が広範囲で再現された.豊後水道および東海地域においてはそれぞれ6年および10年程度の間隔で長期的SSEが発生し,観測と同様の比較的周期的な発生挙動を示した.日向灘地域においては,再来間隔が数年程度となり,Takagi et al. (2019)の観測結果と調和的であった.豊後水道,東海地域,日向灘以外の領域における長期的SSEは発生間隔が10年以上となるものが多く,発生領域が地震サイクルの後半になるにつれ,浅部へと拡大する傾向がみられた.一方,東海地域および豊後水道の長期的SSEについて,その発生域は地震サイクルを通じてほぼ一定であった.我々の数値シミュレーション結果は,長期的SSEが普遍的に発生しうることを示すとともに,有効法線応力がやや低い領域の幅が長期的SSEの発生挙動の違いを生じさせる可能性を示唆する.
加えて数値シミュレーション結果では,とくに紀伊半島南方沖の浅部領域において長期的SSEが繰り返し発生した.同領域においては活発なスロー地震活動が観測されており,数値シミュレーションによって同様な地域性を再現することができた.我々の数値モデルはトラフ軸に沿う方向の摩擦特性の変化を仮定していないものの,同領域では大地震の固着域が狭くなっており,こうした差異が浅部のSSE挙動を規定している可能性も示唆される.