13:45 〜 14:00
[S09-01] 地震モーメントテンソルを用いた応力場推定について -流れ則との折り合いー
はじめに
中小地震の発震機構解やモーメントテンソルを用いた応力場推定がAngelier(1974)の先駆的な研究を皮切りに多くの手法開発や領域での推定がなされてきた(レビューとして,たとえば岩田・他,2020)。その中でMatsumoto(2016)は地震が媒質中の非弾性現象であることに着目し,マクロに見るとPrandtl–Reuss則に従うと考えて,モーメントテンソル密度が載荷される偏差応力に比例するとして応力テンソルを推定した。しかしながらその仮定が成立しているかどうかは定かではない。また,いわゆる応力インバージョンによって推定される偏差応力の比(応力比φ=(σ2-σ3)/(σ1-σ3)ここでσ1, σ2, σ3 はそれぞれ最大,中間,最小主圧縮応力)は推定精度が悪く,その意味するものについても不明な点がある。そこで本研究では非常に単純な計算からこれらの点について考察する。
流れ則の有効性と応力インバージョン
ここでは静岩圧平衡状態から3軸応力がかかる状態を考える。sx, sy, szをそれぞれ各タイムステップで増加させ,最大せん断応力が破壊基準を超えた時に一定の応力降下が起こるとする(図1a参照)。具体的には基準はTresca状態を考えることになる。たとえばCoulombの破壊基準(摩擦係数で最適面で滑りが起こる)であってもμ=0.6の時s1から±30度の面で滑りが起こる。どちらも同様に起こるはずであるのでこれらを足し合わせれば単純に45度のすべりのモーメント解放と同じになる(図1b)。さて,ここでは簡単のために媒質中で強度は一定とし,基準を満たした瞬間に媒質で一斉に地震が起こり,応力降下に対応したモーメントが解放されることとする。応力場は最大せん断応力になる組み合わせの大きい応力と小さい応力でそれぞれ応力降下量の半分現象,増加することになる。最大せん断応力を基準とした場合,地震後も主応力はxyz軸と一致し,回転は起こらない。
載荷する応力の比φ= 0.2, 0.5, 0.8,(σ1 = σx, σ2 = σz, σ3 = σy)の3つのケースの場合の結果を図2に示す。載荷する応力 (σx, σy, σz) は各時間ステップで0.1, -0.1, -0.06 ( φ = 0.2), 0.1, -0.1, 0 (φ = 0.5),0.1, -0.1, 0.06 ( φ= 0.8) MPa/time stepである。ここで強度は10MPa,応力降下は2MPaの場合を示す。 この結果では以下の特徴が得られる。1)媒質が破壊強度に達するまでは媒質内の応力は載荷された応力と等しい(stage 1)。σ1-σ3の組み合わせが強度に達すると地震が起き始め,差応力は強度と強度―応力降下量の間を保つ(stage 2)。σ2が増加(減少)しつづけ,σ2-σ3(σ1-σ2)の組み合わせが強度に達し,これらを解放する方向でも地震が起き始める (stage 3)。この結果,媒質内の応力はσ2≒σ3(σ1≒σ2)の状態になる。一方解放されるモーメントは載荷される応力に比例する。すなわち,地震を用いた応力推定においては載荷される応力(応力レート)のみが反映され,その場応力を推定することはできない。2)Stage 2においてはσ2の影響は観測されず,応力比はいつも0.5になる。3)載荷される応力(強度を超えて)と解放される応力(非弾性ひずみ)は比例関係になり,いわゆる流れ則を満足する。
さらに,外部から瞬時に加わる応力変化から強度を見積もる方法について検討を行った。Hardebeck and Hauksson(2001)で提唱された応力比によらない主応力の回転から強度を推定する方法では応力比<0.5の場合,>0.5の場合ではσ2-σ3,σ1-σ2の面内の回転は直接応力変化を示し,強度の情報は含まない。そのほかの面内の変化では強度が求められることが明らかになった。
以上のように,簡単な計算から応力場推定についての検討を行い,今後の応力場推定や強度推定,モデリングについて重要な知見が得られた。
中小地震の発震機構解やモーメントテンソルを用いた応力場推定がAngelier(1974)の先駆的な研究を皮切りに多くの手法開発や領域での推定がなされてきた(レビューとして,たとえば岩田・他,2020)。その中でMatsumoto(2016)は地震が媒質中の非弾性現象であることに着目し,マクロに見るとPrandtl–Reuss則に従うと考えて,モーメントテンソル密度が載荷される偏差応力に比例するとして応力テンソルを推定した。しかしながらその仮定が成立しているかどうかは定かではない。また,いわゆる応力インバージョンによって推定される偏差応力の比(応力比φ=(σ2-σ3)/(σ1-σ3)ここでσ1, σ2, σ3 はそれぞれ最大,中間,最小主圧縮応力)は推定精度が悪く,その意味するものについても不明な点がある。そこで本研究では非常に単純な計算からこれらの点について考察する。
流れ則の有効性と応力インバージョン
ここでは静岩圧平衡状態から3軸応力がかかる状態を考える。sx, sy, szをそれぞれ各タイムステップで増加させ,最大せん断応力が破壊基準を超えた時に一定の応力降下が起こるとする(図1a参照)。具体的には基準はTresca状態を考えることになる。たとえばCoulombの破壊基準(摩擦係数で最適面で滑りが起こる)であってもμ=0.6の時s1から±30度の面で滑りが起こる。どちらも同様に起こるはずであるのでこれらを足し合わせれば単純に45度のすべりのモーメント解放と同じになる(図1b)。さて,ここでは簡単のために媒質中で強度は一定とし,基準を満たした瞬間に媒質で一斉に地震が起こり,応力降下に対応したモーメントが解放されることとする。応力場は最大せん断応力になる組み合わせの大きい応力と小さい応力でそれぞれ応力降下量の半分現象,増加することになる。最大せん断応力を基準とした場合,地震後も主応力はxyz軸と一致し,回転は起こらない。
載荷する応力の比φ= 0.2, 0.5, 0.8,(σ1 = σx, σ2 = σz, σ3 = σy)の3つのケースの場合の結果を図2に示す。載荷する応力 (σx, σy, σz) は各時間ステップで0.1, -0.1, -0.06 ( φ = 0.2), 0.1, -0.1, 0 (φ = 0.5),0.1, -0.1, 0.06 ( φ= 0.8) MPa/time stepである。ここで強度は10MPa,応力降下は2MPaの場合を示す。 この結果では以下の特徴が得られる。1)媒質が破壊強度に達するまでは媒質内の応力は載荷された応力と等しい(stage 1)。σ1-σ3の組み合わせが強度に達すると地震が起き始め,差応力は強度と強度―応力降下量の間を保つ(stage 2)。σ2が増加(減少)しつづけ,σ2-σ3(σ1-σ2)の組み合わせが強度に達し,これらを解放する方向でも地震が起き始める (stage 3)。この結果,媒質内の応力はσ2≒σ3(σ1≒σ2)の状態になる。一方解放されるモーメントは載荷される応力に比例する。すなわち,地震を用いた応力推定においては載荷される応力(応力レート)のみが反映され,その場応力を推定することはできない。2)Stage 2においてはσ2の影響は観測されず,応力比はいつも0.5になる。3)載荷される応力(強度を超えて)と解放される応力(非弾性ひずみ)は比例関係になり,いわゆる流れ則を満足する。
さらに,外部から瞬時に加わる応力変化から強度を見積もる方法について検討を行った。Hardebeck and Hauksson(2001)で提唱された応力比によらない主応力の回転から強度を推定する方法では応力比<0.5の場合,>0.5の場合ではσ2-σ3,σ1-σ2の面内の回転は直接応力変化を示し,強度の情報は含まない。そのほかの面内の変化では強度が求められることが明らかになった。
以上のように,簡単な計算から応力場推定についての検討を行い,今後の応力場推定や強度推定,モデリングについて重要な知見が得られた。