日本地震学会2020年度秋季大会

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B会場

一般セッション » S09. 地震活動とその物理

[S09]PM-1

2020年10月29日(木) 13:45 〜 14:15 B会場

座長:松本 聡(九州大学)

14:00 〜 14:15

[S09-02] コーダスペクトル比法に基づく2016年熊本地震の余震の震源パラメータ推定とその特徴

〇前迫 直人1、松本 聡2、光岡 郁穂1、2016年熊本地震 合同観測グループ (1.九州大学大学院理学府地球惑星科学専攻、2.九州大学大学院理学研究院附属地震火山観測研究センター)

地震の震源特性を理解するためには,地震モーメントM0,コーナー周波数fc,応力降下量Δσなどの震源パラメータを推定することが基本となる.地震モーメントとコーナー周波数のスケーリング則(相似則) M0∝fc-3が成り立つとすれば,応力降下量は地震の規模に依らず一定の値を取ることが知られている.このような震源スケーリングや応力降下量のばらつきを調べることは,震源物理の理解だけでなく,将来起こり得る地震の強震動予測の向上のためにも重要であると言える.

本研究では,2016年熊本地震系列における余震の震源分布に焦点を当て,そのうちの318イベントを対象としたS波コーダスペクトル比法による震源パラメータの推定を行い,応力降下量のばらつきやその要因について調べた.解析は,基本的にSomei et al. [2014]の手順に倣って,観測記録から震源スペクトル比を求めた.観測記録は防災科学技術研究所(以下,防災科研)高感度地震観測網Hi-netの観測点から7点,熊本地震合同地震観測グループによる観測点から9点の計16点における速度波形データを用いた.1 – 30Hzの周波数帯におけるSN比(Signal-Noise Ratio; SNR)が2以上という条件を満たす地震波形データを用いて,地震モーメント比・親地震と子地震のコーナー周波数の計3つの未知パラメータを非線形最小二乗法によるインバージョンで推定した.親地震の地震モーメントは防災科研広帯域地震観測網F-netのメカニズム解による値で固定し,地震モーメント比から子地震の地震モーメントを推定した.

解析の結果、地震モーメントはコーナー周波数に対してM0∝fc-4.35の関係に従う様子が見られた.一般的に知られるスケーリング則であるM0∝fc-3の関係は破綻しており,規模依存性を示唆する結果となった.また、推定されたコーナー周波数と地震モーメントを用いて,地震断層を円形クラックと仮定して応力降下量を推定した[Eshelby, 1957; Brune, 1970,1971].対象とした318イベントの応力降下量は0.21 – 17MPaの間でばらついており,幾何平均は2.6MPa(-1σ/+1σはそれぞれ1.2,5.5MPa)であった.過去に日本国内で発生した内陸地震の応力降下量[Somei et al., 2014]と比較すると、本研究の推定値は空間的なばらつきの範囲内であった.一方,本研究では詳細に推定精度を検討したところ,熊本地震震源域内においても地震の規模や震源深さに対する有意な依存性が認められ,いずれも正の相関を示した(相関係数はそれぞれ0.47,0.43).これらは当震源域における地震の発生メカニズムを考えるうえで重要な結果である.


謝辞:解析において,国立研究開発法人防災科学技術研究所の高感度地震観測網Hi-net,広帯域地震観測網F-net,気象庁のデータも用いました.記して感謝申し上げます.