2:30 PM - 2:45 PM
[S09-03] Shear strain energy changes caused by the 2016 Kumamoto earthquake sequence: Comparison with aftershock activity
地殻内の歪みエネルギーを用いて断層破壊が進展することを考慮すると、地震発生層内に蓄積した歪みエネルギーの分布を明らかにすることは、地震の発生メカニズムを理解する上で重要である。本研究では、歪みエネルギーのうち地震発生との関係が深いと考えられるせん断歪みエネルギーに注目し、2016年熊本地震によるせん断歪みエネルギー変化を、地殻内の3次元空間分布として定量評価した。
地震時のせん断歪みエネルギー密度変化の空間分布を求めるには、地震による応力変化と背景応力場を知る必要がある。地震時の応力変化については、GNSS観測による地震時の地表変位データから断層すべりモデルを推定し、半無限弾性体を仮定してこのすべりモデルによる周辺地殻内の応力変化分布を計算した。一方、背景応力の向き(主応力軸の方向・応力比)は対象地域で発生する地震のメカニズム解から推定可能だが、その絶対値を知ることは難しい。そこで本研究では、背景応力の向きについてはTerakawa and Matsu'ura (2010) による応力インバージョンの結果を用い、背景応力の大きさは地殻内の摩擦強度に従うと仮定した。この際、地殻の有効摩擦係数としてμeff=0.0, 0.1, 0.2, 0.4を候補に設定し、それぞれの場合のせん断歪みエネルギー密度の変化量を算出したところ、その空間分布のパターンは背景応力のレベルに強く依存することが分かった。背景応力の大きさがゼロであることを意味するμeff=0.0の場合、せん断歪みエネルギー密度は全ての場所で増加した。一方、摩擦係数が大きい場合(μeff=0.4)は、背景応力と地震による応力変化が同じ向きの地点でせん断歪みエネルギー密度が増加、逆向きの地点で減少した。
次に、以上のように得られたせん断歪みエネルギー密度変化を積分して、地震によるせん断歪みエネルギー変化の総量を計算した。μeff=0.0 のケースでは、地殻内のせん断歪みエネルギーの総量は増加した。地震が地殻内に蓄積したエネルギーを解放する物理プロセスであることを考慮すると、これは不合理な結果である。その他のケースではせん断歪みエネルギーの総量は減少し、背景応力レベルが大きいほど減少量が大きいことが分かった。μeff=0.0のケースで見られたエネルギー増加の不合理を避けるには、有効摩擦係数は0.05以上でなければならない。これは深さ10 kmで最大せん断応力14 MPaに対応する。このように、せん断歪みエネルギー変化の総量の議論から背景応力レベルの下限値を拘束することができた。
最後に、μeff=0.0以外のケースについて、せん断歪みエネルギー密度変化の空間分布と、熊本地震本震後1週間のうちに発生した余震の震源分布を比較した。その結果、せん断歪みエネルギー密度増加域と余震発生域には相関が見られ、余震の総数のうち凡そ75%がエネルギー密度増加域で発生していたことが分かった。余震が完全にランダムに発生したと仮定して100,000通りの余震データセットを合成し、テスト解析を行ったところ、せん断歪みエネルギー密度増加域で75%以上の余震が発生する確率は、0.001%より小さかった。従って、熊本地震の場合、せん断歪みエネルギーの増加と余震活発化の関連性は統計的に有意だと考えられる。本震の震源断層近傍ではエネルギーの増加で説明できない余震が発生したが、これらの余震発生を理解するには間隙水圧の増加による強度低下などの別の物理プロセスを考慮する必要がある。
Reference:
Noda, A., Saito, T., Fukuyama, E., Terakawa, T., Tanaka, S., and Matsu'ura, M. (2020). The 3‐D spatial distribution of shear strain energy changes associated with the 2016 Kumamoto earthquake sequence, southwest Japan, Geophysical Research Letters, 47, e2019GL086369. https://doi.org/10.1029/2019GL086369
地震時のせん断歪みエネルギー密度変化の空間分布を求めるには、地震による応力変化と背景応力場を知る必要がある。地震時の応力変化については、GNSS観測による地震時の地表変位データから断層すべりモデルを推定し、半無限弾性体を仮定してこのすべりモデルによる周辺地殻内の応力変化分布を計算した。一方、背景応力の向き(主応力軸の方向・応力比)は対象地域で発生する地震のメカニズム解から推定可能だが、その絶対値を知ることは難しい。そこで本研究では、背景応力の向きについてはTerakawa and Matsu'ura (2010) による応力インバージョンの結果を用い、背景応力の大きさは地殻内の摩擦強度に従うと仮定した。この際、地殻の有効摩擦係数としてμeff=0.0, 0.1, 0.2, 0.4を候補に設定し、それぞれの場合のせん断歪みエネルギー密度の変化量を算出したところ、その空間分布のパターンは背景応力のレベルに強く依存することが分かった。背景応力の大きさがゼロであることを意味するμeff=0.0の場合、せん断歪みエネルギー密度は全ての場所で増加した。一方、摩擦係数が大きい場合(μeff=0.4)は、背景応力と地震による応力変化が同じ向きの地点でせん断歪みエネルギー密度が増加、逆向きの地点で減少した。
次に、以上のように得られたせん断歪みエネルギー密度変化を積分して、地震によるせん断歪みエネルギー変化の総量を計算した。μeff=0.0 のケースでは、地殻内のせん断歪みエネルギーの総量は増加した。地震が地殻内に蓄積したエネルギーを解放する物理プロセスであることを考慮すると、これは不合理な結果である。その他のケースではせん断歪みエネルギーの総量は減少し、背景応力レベルが大きいほど減少量が大きいことが分かった。μeff=0.0のケースで見られたエネルギー増加の不合理を避けるには、有効摩擦係数は0.05以上でなければならない。これは深さ10 kmで最大せん断応力14 MPaに対応する。このように、せん断歪みエネルギー変化の総量の議論から背景応力レベルの下限値を拘束することができた。
最後に、μeff=0.0以外のケースについて、せん断歪みエネルギー密度変化の空間分布と、熊本地震本震後1週間のうちに発生した余震の震源分布を比較した。その結果、せん断歪みエネルギー密度増加域と余震発生域には相関が見られ、余震の総数のうち凡そ75%がエネルギー密度増加域で発生していたことが分かった。余震が完全にランダムに発生したと仮定して100,000通りの余震データセットを合成し、テスト解析を行ったところ、せん断歪みエネルギー密度増加域で75%以上の余震が発生する確率は、0.001%より小さかった。従って、熊本地震の場合、せん断歪みエネルギーの増加と余震活発化の関連性は統計的に有意だと考えられる。本震の震源断層近傍ではエネルギーの増加で説明できない余震が発生したが、これらの余震発生を理解するには間隙水圧の増加による強度低下などの別の物理プロセスを考慮する必要がある。
Reference:
Noda, A., Saito, T., Fukuyama, E., Terakawa, T., Tanaka, S., and Matsu'ura, M. (2020). The 3‐D spatial distribution of shear strain energy changes associated with the 2016 Kumamoto earthquake sequence, southwest Japan, Geophysical Research Letters, 47, e2019GL086369. https://doi.org/10.1029/2019GL086369