日本地震学会2020年度秋季大会

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Room B

Regular session » S09. Statistical seismology and underlying physical processes

[S09]PM-2

Thu. Oct 29, 2020 2:30 PM - 3:30 PM ROOM B

chairperson:Shiro Ohmi(DPRI, Kyoto University), chairperson:Akemi Noda(MRI)

2:45 PM - 3:00 PM

[S09-04] Space-time separation of earthquake activities in the 1998 and the 2020 Hida-Kamikochi, central Japan, earthquake swarms

〇Ichiro Kawasaki1 (1.Tono Research Institute of Earthquake Science)

●2020年4月22日,驚いたことに飛騨上高地群発地震が再来した。たった20年程で激しい群発地震活動が再来したことは熱水が原因であることを示している。本発表は,気象庁HPの「震度データ検索」によって検索・作図した分布図を手掛かりに,そのメカニズムを探る試みである。
●1998年と2020年で,南北0.2分(0.37km),東西2分(0.30km)以内で発生したM4以上の地震の組み合わせを探すと,表1のように,XA1,XA2,XB,XC の4地点が見出された。これらの地点は群発活動域が特定の時空間に移動したときの最初のM3以上の地震,あるいはそれに近いことに気が付いたので,時間区切りを「日」では無く,必要に応じて「時」,「10分」に下げると,群発地震活動は,図1のように時空間的に分離することが明瞭になった。2020の群発地震は,この予稿を準備している段階でM2以上の地震では槍ヶ岳周辺で停止してしまっているが1998年の時には富山・長野・岐阜県境まで拡大したので図には1998年の分布を示したが,時空間的に分離したことは2020年でも明瞭である。2回とも同じ区間区切りで時空間的に分離が生じたので,それは偶然ではない。
●1998年8月7日に始まった飛騨上高地群発地震と今回の群発地震のM2以上の群発活動域は,図1のような共通の区間区切りで「時空間的に分離」して移動した。図の区間を,南から北に向かって (A)(北緯36度15.5分以南。上高地周辺。地震の深度6kmから4km),(B)(同15.5分から16.7分。西穂高岳東南側。深度6kmから4km),(C)(同16.6分から18.8分。西穂高北側。深度5kmから4km),(D)(同18.8分から22.3分。槍ヶ岳西山腹。深度4kmから1km),(E)(同22.3分以北,槍ヶ岳から野口五郎岳。深度2kmから0km)と名付ける。なお,発生深度は6kmから4kmと述べた場合は深度6.5kmから3.5kmを意味する。
●特異な例を挙げておこう。
期間[2]には(C)が活動域になった。8月14日11時34分に3.1,14時6分にM4.2の地震(深度3 km)が発生し,活動域は西穂高岳尾根部に向かって「南」に延びて行った。この時空間の群発活動は「半日程」で沈静化した。
期間[3]には活動域は(B)に移動した。同日23時52分,長野県側の南端近くでM4.0(深度5 km)の地震が発生し,活動域は西穂高岳尾根部に向かって「北」に延びて行き,この時空間の群発活動は「1日程」で沈静化した。
●(A)から(D)の様に「空間的に分離」していることは,区間境界(例えば西穂高岳尾根部直下)に,熱水の移動を妨げる境界面があることを意味しているとしか考えられない。
「時間的に分離」していることは,地震発生域に熱水が充満して群発地震活動を引き起こしているのでは無いことを意味している。直接的な証拠は無いが,それは,「群発地震活動域の下に熱水混合層が上記区間におおよそ対応するように分離して分布しながらも,熱水脈で細々と連結して水圧は共有している。ある区間で水混合層から突破的に熱水が溢れ出して地震活動が生じると熱水混合層全体で水圧が下がり,今まで地震活動が生じていた場所では地震活動が終息する。そのようなサイクルを区間を変えて繰り返したこと」を意味しているように思われる。このようなモデルで無ければ「活動域の時空間分離」を説明することは困難であろう。
●立山・黒部地域では黒部峡谷の直下に熱水混合層が分布することは,川崎(2019,測地学会)が1996年集中観測による地殻構造(Matsubara, et al, 2000)や重力異常データによる超低密度域(源内・他,2002)などに基づいて議論した通りである。
槍・穂高・上高地地域にはその様な研究成果はないが,Mikumo et al. (1995)による上宝観測所や高山観測所の観測データのトモグラフィー,水谷・他(1983)による奥飛騨温泉郷の深さ700 mの地熱調査井の変質鉱物組成,温泉水の化学組成,酸素・炭素同位体比の研究,焼岳の山頂の160℃程の火山ガスのヘリウム3/4比などから,地下数kmに熱水混合層が分布することは疑えない。むしろ,群発地震の活動域の「時空間的分離」こそが熱水混合層存在の強力な状況証拠であろう。
●以上はM2以上の地震による飛騨上高地群発地震像である。M2以下の微小地震で見ればもっと多彩な活動をしている(大見,私信)。両方を合わせれば群発地震の全体像になるのであろう。