日本地震学会2020年度秋季大会

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Room B

Regular session » S09. Statistical seismology and underlying physical processes

[S09]PM-2

Thu. Oct 29, 2020 2:30 PM - 3:30 PM ROOM B

chairperson:Shiro Ohmi(DPRI, Kyoto University), chairperson:Akemi Noda(MRI)

3:00 PM - 3:15 PM

[S09-05] Swarm Activity in the Hida Mountain Range, Central Japan, Started from April 2020, Followed by a Dyke Intrusion Event Inferred from Crustal Deformation

〇Shiro OHMI1, Takuya NISHIMURA1, Manabu HASHIMOTO1 (1.Disaster Prevention Research Institute, Kyoto University)

§はじめに:飛騨山脈南部の上高地およびその周辺において、2020年4月23日のM=5.5(以下、Mは気象庁マグニチュード)の地震を最大地震として(2020年8月下旬現在)、活発な地震活動が続いている。今回の地震活動は、4月6日の上高地徳本峠付近での小規模な群発地震で始まったと考えられる。その後若干の震源移動と消長を繰り返した後、4月22日未明にM=3.8を含む地震が徳本峠付近の4月6日の活動域とほぼ同じ位置で発生し、翌日4月23日13時44分にM=5.5の地震が発生した。その後、上高地の谷底から岳沢にかけての地域に震源域が拡大し、5月13日早朝からの活動で飛騨山脈主稜線(岐阜・長野県境)の近くまで震源域が拡大した。5月19日13時12分の地震(M=5.4)において震源域が主稜線の岐阜県側に拡大し、その後は、長野県側と岐阜県側の双方で散発的な活動が継続している。

§過去の群発地震との比較:飛騨山脈の南部の、主に鷲羽岳から焼岳付近は断続的な群発地震が頻発する地域で、京大防災研が1970年代後半に地震観測を開始して以来、既往研究によれば、主な群発地震活動が1990~1991年(焼岳および烏帽子岳付近)、1993年6月~1994年1月(槍ヶ岳)、1998年8月~2000年2月(飛騨山脈群発地震)、2011年3月~4月(東北地方太平洋沖地震直後の群発地震)、2014年5月(西穂高・千石尾根付近)、2018年11月~2019年1月(焼岳西麓および上高地)などに発生している。また、小規模ながら、上述以外にもたとえば2003年12月の焼岳北東域や2013年10月の涸沢付近などにもクラスタ的な地震活動が見られた。これらのうち、1998年の活動は、1970年代後半以降では最大の活動であった。同地域で発生する群発地震の震央分布をみると、2018年の活動までは大まかにみるとそれぞれの震源域が重なっておらず、震源域が「棲み分け」をする現象が観察される。また、過去の大部分の活動では一連の活動の震源域が飛騨山脈の主稜線を越えることはなく、岐阜・長野のいずれかの側に限定されることが特徴であり、これまでの唯一の例外が1998年の活動であったが、今回の2020年の活動は5月19日の段階で長野側から岐阜側へ震源域が拡大し、1990年代以降2度目の例となった。

§地殻変動データの解析:京大防災研は、焼岳中尾峠、焼岳山頂などで焼岳火山の研究観測の一環としてGNSS連続観測を実施している。また、焼岳西側山麓の奥飛騨温泉郷中尾、同・栃尾でも別プロジェクトでGNSS連続観測を継続中である(京大・名大・北大の共同運用)。これらのデータに、気象庁の焼岳南峰南東および大正池南の観測点のデータを加えて、栃尾を基準点として解析したところ、4月下旬から一部の観測点で有意な地殻変動が検出され、5月中旬にはほぼ全ての観測点で変動が加速した。今回の地震活動は、M=5.0以上の地震を複数個含む活発なものであるが、GNSSで観測された地殻変動は、地震の断層運動による地殻変動の寄与だけでは観測された変動量を説明できないことがわかった。そこで、開口断層を仮定して変動源のパラメタを推定したところ、上高地の谷底から西穂高岳の稜線にかけての位置、および西穂高岳と奥穂高岳の中間付近の稜線を跨ぐ位置に、それぞれ北西~南東方向のほぼ鉛直な開口断層(総体積変化量2.4~2.5×106m3)を置くことにより、変動量を説明できることがわかった。なお、InSARによる解析によれば、焼岳北東斜面には長期的な膨張が認められているが(たとえば、気象庁、第143回噴火予知連絡会資料)、今回の地震活動の開始前後の比較では有意な変動は認められない。

§考察:上で求められた開口断層の位置と、防災科研のF-netにより求められた、活動期間中の主だった地震の発震機構解を比較すると、求められた開口断層の周辺に発生した地震の発震機構解にはNon Double Couple成分が大きな地震が多く見られており、今回の解析の妥当性を示すものと考えられる。今回の活動は、(1) 過去の活動の震源域と「棲み分け」をせず1998年の震源域に重なるように発生した、(2) 飛騨山脈の主稜線を跨ぐように震源域が拡大した、の2点で特異である。また、直近の2018年の群発地震活動では、すでに現在と同様のGNSS観測網が稼働していたが有意な地殻変動は検出されなかった。このようなことから類推すると、当地域で発生する群発地震のうち、主稜線を跨ぐような規模の大きな地震活動ではダイク貫入イベント等を伴う可能性があり、今回の活動だけではなく、1998年の活動もその一つであった可能性がある。2018年の活動のような地殻変動を伴わない群発地震の発生メカニズムの考察は今後の課題である。

§謝辞:気象庁からGNSS観測データを提供していただいた。記して感謝する。