日本地震学会2020年度秋季大会

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Room B

Regular session » S09. Statistical seismology and underlying physical processes

[S09]AM-1

Fri. Oct 30, 2020 9:00 AM - 10:15 AM ROOM B

chairperson:Kazuaki Ohta(NIED), chairperson:Akiko Takeo(ERI, University of Tokyo)

9:45 AM - 10:00 AM

[S09-10] Tectonic tremor activity along the Japan trench before the 2011 Tohoku-oki earthquake

〇Hidenobu Takahashi1, Hino Ryota1, Naoki Uchida1, Ryosuke Azuma1, Susumu Kawakubo1, Kazuaki Ohta2, Masanao Shinohara3 (1.Tohoku University, 2.National Research Institute for Earth Science and Disaster Resilience, 3.Earthquake Prediction Research Center, Earthquake Research Institute, University of Tokyo)

近年,世界各地の沈み込み帯を中心に,通常地震と比べゆっくりとした断層のすべり現象が観測されるようになった(たとえば,Obara & Kato, 2016).低周波微動(微動)はスロー地震の一形態と考えられており,南海トラフやカスケディアでは,想定される巨大地震震源域の深部もしくは浅部側で観測されている.微動は,卓越周波数や時定数の異なる超低周波地震(VLFE)やスロースリップイベントと,しばしば時空間的に近接して発生しており,広帯域のスロー地震現象の一側面を表していると考えられている (たとえば,Ide, 2008).微動は海溝型巨大地震同様,プレート境界面上の断層のすべり現象である可能性が高く,その活動の時空間的な分布の把握は巨大地震震源近傍でのプレート境界面のすべりの時空間変化を捉えるという観点から重要である.

さらに,日本海溝海底地震津波観測網(S-net)により,日本海溝沿いでも広く低周波微動が発生していることが明らかになったが(Tanaka et al., 2019; Nishikawa et al., 2019),南海トラフなどと異なり,その発生深さの範囲は必ずしも大地震震源域の深さ範囲と棲み分けているわけではなく,複雑な空間分布をしており興味深い.一方で,2011年東北地方太平洋沖地震以後の微動の活動は,この地震の余効変動の影響を何らかの形で受けている可能性もあり,東北沖地震発生以前の微動活動の理解は,微動と巨大地震との関連を考えるうえで極めて重要である.VLFEは東北沖地震前にも発生していたことが明らかになっている (Matsuzawa et al., 2015; Baba et al., 2020)ことから,東北沖地震前にも微動は発生していた可能性が高い.そこで,本研究では,東北沖地震前に日本海溝沿いで実施した海底地震観測のデータを用いて微動を検知し,その分布を明らかにする.

東北沖地震前の2007-2008年に設置されていた海底地震計記録に対して,エンベロープ相関法(e.g., Obara, 2002)を適用して微動検出を試みた.観測期間は2つに分けられ,前半(2007年10月16日-2008年6月22日)は38-40.5°Nの48観測点,後半(2008年5月20日–10月27日)は35-37°Nの45観測点が展開されていた.エンベロープ相関法は原理的に通常地震も同様に検出してしまうが,先行研究を参考に継続時間が20秒以上で検出されたイベントを微動と同定した.震源決定の際には,海底地震計直下の堆積層による走時遅延を観測点ごとに補正した.

その結果,岩手県沖(39.5–40.25°N),宮城県沖(39°N),そして福島・茨城県沖(35.5–37.0°N) で微動を検出した(図).それら震央分布はNishikawa et al. (2019) と概ね一致し,海溝軸から50 km程度陸側に分布している.また,岩手県沖と宮城県沖においては一週間以内で続発する微動クラスタを6つ観測し,それぞれの活動期の中で〜20 km/dayで震源が移動していることも確認できた.なお,福島・茨城県沖での微動活動に関しては,通常地震との弁別が不完全であり,詳細な特徴を明らかにするために,微動の判別条件を検討しているところで,図の震央分布も暫定的なものとなっている.

S-net (2016-18年)および本研究(2007-08年)による微動活動を比較するうえで,微動との同期が期待できるVLFEの2003–2018年の連続した活動の記録(Baba et al., 2020)が参考になる.東北沖地震の地震時すべり域内である宮城県沖では,VLFEは地震前は9ヶ月に一度程度の間隔で発生していたが,東北沖地震後は静穏化している.一方で,地震時すべり域の外側となる岩手沖や福島・茨城沖では,2011年の地震後にVLFEの活動度が上昇している.これらを念頭に微動活動に着目すると,宮城県沖での微動活動はVLFEと同様に,東北沖地震後に低くなっていると期待されるが,実際2016-2018年の期間では宮城県沖の微動発生数は岩手県沖の0.5 %であるのに対し,2007-08年では37.7%であった.これは巨大地震の地震地時すべり域が地震後に再固着している可能性を示唆する.東北沖地震前の福島・茨城県沖では,2008年7月19日に福島県沖で発生した M6.9のプレート境界型地震の直後から顕著なVLFEの活発化が観られるが,我々の海底地震観測の期間はこの時期に対応しており,これに伴う微動活動が捉えられていると考えられる.