日本地震学会2020年度秋季大会

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B会場

一般セッション » S09. 地震活動とその物理

[S09]PM-2

2020年10月30日(金) 14:30 〜 15:30 B会場

座長:青地 秀雄(フランス国地質調査所)、座長:松原 誠(防災科学技術研究所)

14:30 〜 14:45

[S09-23] 日本列島における低地殻熱流量域での深い上盤プレート内の地震発生層下限(D90)の特徴

〇松原 誠1、ヤノ トモコ1、佐藤 比呂志2 (1.防災科学技術研究所、2.東京大学地震研究所)

日本列島は地殻の変形と太平洋プレートやフィリピン海プレートの沈み込みに伴う地震活動や地殻の変形に特徴づけられる。プレート境界の巨大地震に加えて、上盤プレート中の地震は被害と伴う地震の主な原因である。上盤プレート内で起こる地震の最大規模を推定する重要な要素である地震発生層の下限(D90)は、地表からD90までの間においてその領域下での地震の90%が発生していることを示す。本研究では三次元構造により再決定された震源カタログを用いてD90を推定した。



2000年10月から2017年12月までに東経129.2~146.3°、北緯30~46°、深さ0~100kmで発生した561,611個の地震を三次元地震波速度構造(Matsubara et al., 2019)を用いて再決定した。これらの地震のうち、活断層に起因する地震として、深さ25km以浅の地震を選び、ある点から±0.1°(約10km)の1辺が約20kmの矩形内における地震の数が11以上ある場合についてD90を算出した。領域の平均的なD90を推定する場合には、やや広い±0.25°(約25km)の1辺が約50kmの矩形内における地震の数から算出した。



我々の結果は既往の研究(Omuralieva et al., 2012)とほぼ一致した。浅いD90の地域は地殻熱流量が高い。D90のパターンは地殻熱流量(Matsumoto, 2007)や地温が300℃の深さであるD300degのパターン(Yano et al., 2020)と調和的である。



日本列島のD90はいくつかの特徴的な構造のところを除いて深さ約15kmである。活火山の下は共通して8km以浅という浅いD90で特徴づけられる。D90は前弧より背弧側が浅い。一方で冷たく厚い太平洋プレートの沈み込みにより、千島列島や東北日本、伊豆・小笠原弧等の前弧ではD90が深い。これらの領域での太平洋プレート上面境界の深さは25km以深であることからプレート境界の地震を含んでいないことから、上盤側プレート内の地震活動が深いところまで活発なこと示している。日高山脈や伊豆などの衝突帯ではD90が深く、モホ面の深さも深い(Matsubara et al., 2017)。関東地方南部や東海地方の太平洋岸ではD90が深いが、この領域においてはフィリピン海プレート上面境界が25km以浅のためプレート境界の地震を含んでいる。同時に、神縄・国府津-松田断層や富士川河口断層帯のようにプレート境界から連続的に地震活動が続いている領域でもある。



中新世における日本海拡大に伴い、本州北部の背弧側ではリフトが形成されたが、その後太平洋プレートの沈み込みに伴う圧縮場となり、リフトの形成は停止した(佐藤, 2014)。この中絶リフトの下ではD90は通常よりも深く20km以深まで達している。中絶リフトの中部・下部地殻の岩石は苦鉄質に富むため、この組成の違いによりD90が深くなっている。一方で、この領域のモホ面は浅い。中絶リフトの領域では伸長場時に地殻が薄くモホが浅くなり、さらに苦鉄質に富むマントル物質が大陸地殻に嵌入することにより下部地殻が高速度化したため硬い物質が存在することになり、圧縮場において深部の硬い領域における地震活動が観測されると考えられる(佐藤, 2014)。西南日本においては中央構造線の南側のD90が9-10kmである。瀬戸内海に沿った地域ではD90は非常に深く、地殻熱流量が小さい地域と一致する。



本研究により得られた上盤プレートのD90は地殻熱流量やD300degと調和的な結果が得られた。内陸でのD90は、主として最近20Ma(2000万年)に発生したテクトニックな事象により形成された熱レジームやレオロジーに支配されていることを示唆する。