15:00 〜 15:15
[S09-25] 小イベントの情報を用いた地震の発生確率評価手法
長期的な地震発生リスクを確率的に評価する上で, 地震の発生時刻の間隔についての統計性質は重要である. 地震の時間間隔分布は, M-T図にマグニチュード閾値(Mとする)を一つ設定して得られる点過程において, 隣接する点どうしの間隔(確率変数τMで表す)の従う統計として得られる. この時間間隔分布の性質がカタログ解析により調べられてきた. なかでもマグニチュードの閾値を変えた際の時間間隔分布の性質を調べた研究は, スケールの異なるイベントの時間間隔の従う統計性質の間に普遍的な関係があることを示唆している[1,2]. それらの研究は, 地震の時間間隔の統計性質をその階層構造に注目して調べたものであるが, それらの階層間を繋ぐ方法・性質についてはあまり議論されてこなかった.
そうした階層間を橋渡しするには, 異なるマグニチュード閾値における時間間隔の間の条件付き確率を用いる方法が有効である[3]. この条件付き確率は, 異なる二つのマグニチュード閾値(mおよびM(>m)とする)における時間間隔の関係を, 大きい閾値(M)における時間間隔(τM)の中に含まれるという条件のもとで, 小さい閾値(m)での時間間隔(τm)の従う分布関数という仕方で与える. この条件付き確率には特徴的なスケール則がカタログ解析から見出されており, その性質より時間間隔分布の分布形を導くことができる.
一方で, 異なるマグニチュード閾値の時間間隔を結びつける方法としては, 小さい閾値(m)においてある長さの間隔が見出されたという条件のもとで, それを含む大きい閾値(M)での間隔の長さがいくらになるか, という確率を用いることも考えられる. この確率は, 上で述べた条件付き確率とベイズの定理により結びつけられるもので, 閾値Mおよびmでの時間間隔における一対一の関係を与えるものである. さらにこのベイズの定理に基づいて, 閾値mにおいて次々に現れる時間間隔(τm(1), τm(2), ...)に対してベイズ更新を行うことができる. こうして更新を行って得られる尤度は, 閾値Mにおける時間間隔分布に, それより小さい閾値(m)において出現する時間間隔の情報を取り込んだものである.
発表では, マグニチュードの時系列におけるベイズの定理, およびベイズ更新の適用方法を示した上で, ETASモデル[4]で生成した時系列に対してこのベイズ更新を行った結果について述べる. 図はそのような更新の例である. 図の横軸は前回のM以上の規模のイベントからの経過時間, 縦軸はn回更新したときの尤度(pMm(τM|τm(1), ..., τm(n)))の対数, カラーバーは更新回数(n)を表している. 黒線は更新回数n=0回で, 時間間隔分布を表す. 尤度は更新回数10回ごとに示されている. 太線の左端はその更新回数までの経過時間, 右端は実際に次のM以上のイベントが発生した時の経過時間(図中に縦線で表示されている)を表している. この例では, 短い経過時間でM以上のイベントが発生した場合(図中左側の群)と長時間経過後イベントが発生した場合(図中右側の群)について, 更新が進むにつれて尤度の形が変化していき, 実際にMを超えるイベントが発生した時刻の付近でピークを示す様子が見て取れる. ただし, ベイズ更新の回数はあらかじめ決まっているわけではなく, 図に示したような良い予測がいつでも行えるわけではない. 発表では, M以上のイベントの発生時刻が尤度のピーク付近に現れる条件について議論する.
[1] A. Corral, Phys. Rev. Lett. 92, 108501 (2004).
[2] Y. Aizawa, T. Hasumi, and S. Tsugawa, Nonlinear Phenom. Complex Syst. 16, 116 (2013).
[3] H. Tanaka and Y. Aizawa, J. Phys. Soc. Jpn. 86, 024004 (2017).
[4] Y. Ogata, J. Am. Stat. Assoc. 83, 9 (1988).
そうした階層間を橋渡しするには, 異なるマグニチュード閾値における時間間隔の間の条件付き確率を用いる方法が有効である[3]. この条件付き確率は, 異なる二つのマグニチュード閾値(mおよびM(>m)とする)における時間間隔の関係を, 大きい閾値(M)における時間間隔(τM)の中に含まれるという条件のもとで, 小さい閾値(m)での時間間隔(τm)の従う分布関数という仕方で与える. この条件付き確率には特徴的なスケール則がカタログ解析から見出されており, その性質より時間間隔分布の分布形を導くことができる.
一方で, 異なるマグニチュード閾値の時間間隔を結びつける方法としては, 小さい閾値(m)においてある長さの間隔が見出されたという条件のもとで, それを含む大きい閾値(M)での間隔の長さがいくらになるか, という確率を用いることも考えられる. この確率は, 上で述べた条件付き確率とベイズの定理により結びつけられるもので, 閾値Mおよびmでの時間間隔における一対一の関係を与えるものである. さらにこのベイズの定理に基づいて, 閾値mにおいて次々に現れる時間間隔(τm(1), τm(2), ...)に対してベイズ更新を行うことができる. こうして更新を行って得られる尤度は, 閾値Mにおける時間間隔分布に, それより小さい閾値(m)において出現する時間間隔の情報を取り込んだものである.
発表では, マグニチュードの時系列におけるベイズの定理, およびベイズ更新の適用方法を示した上で, ETASモデル[4]で生成した時系列に対してこのベイズ更新を行った結果について述べる. 図はそのような更新の例である. 図の横軸は前回のM以上の規模のイベントからの経過時間, 縦軸はn回更新したときの尤度(pMm(τM|τm(1), ..., τm(n)))の対数, カラーバーは更新回数(n)を表している. 黒線は更新回数n=0回で, 時間間隔分布を表す. 尤度は更新回数10回ごとに示されている. 太線の左端はその更新回数までの経過時間, 右端は実際に次のM以上のイベントが発生した時の経過時間(図中に縦線で表示されている)を表している. この例では, 短い経過時間でM以上のイベントが発生した場合(図中左側の群)と長時間経過後イベントが発生した場合(図中右側の群)について, 更新が進むにつれて尤度の形が変化していき, 実際にMを超えるイベントが発生した時刻の付近でピークを示す様子が見て取れる. ただし, ベイズ更新の回数はあらかじめ決まっているわけではなく, 図に示したような良い予測がいつでも行えるわけではない. 発表では, M以上のイベントの発生時刻が尤度のピーク付近に現れる条件について議論する.
[1] A. Corral, Phys. Rev. Lett. 92, 108501 (2004).
[2] Y. Aizawa, T. Hasumi, and S. Tsugawa, Nonlinear Phenom. Complex Syst. 16, 116 (2013).
[3] H. Tanaka and Y. Aizawa, J. Phys. Soc. Jpn. 86, 024004 (2017).
[4] Y. Ogata, J. Am. Stat. Assoc. 83, 9 (1988).