4:00 PM - 5:30 PM
[S09P-02] Construction of Crustal Stress Map in Chugoku Region, western Japan, and evaluation for fault activity
1.はじめに
産業技術総合研究所地質調査総合センターは、微小地震解析による応力場推定を中心に高い空間分解能を持つ地殻内応力マップの整備を進めており、最初のケーススタディとして関東地域の10kmメッシュの応力マップを公表した(今西ほか,2019)。我々は次の対象として中国地域に場所を移し、応力マップを整備することとした。この地域では、日本海側で880年出雲の地震(M7.0)、1872年浜田地震(M7.1)、1943年鳥取地震(Mj7.2)、2000年鳥取県西部地震(M j7.3)などのM7級の地震が発生しており、最近でも2016年鳥取県中部地震(M j6.6)などの被害地震が起きている。また、 GNSSの解析から、これら規模の大きい地震が発生している領域と重なるように歪み集中帯が存在することが報告されており(Nishimura and Takada, 2017)、現在注目されている地域でもある。本研究では、基盤的地震観測網のデータを用いてマグニチュード1.5以上の地震を解析し、独自に発震機構解のカタログを作り、中国地域の10 kmメッシュの応力マップを作成した。そして、このマップを用いて、活断層の活動性評価を行ったので報告する。
2.データ
本研究では震源決定及び発震機構解の推定精度を上げるため、気象庁が読み取り対象としていない観測点も含め、震央距離80 km以内で読み取りが可能な観測点全てのP波及びS波の到達時刻とP波初動極性を手動検測した。震源決定は、観測点補正値を考慮して Hirata and Matsu'ura (1987) の方法により決定した。発震機構解はP波初動の押し引きデータに加えてP波とS波の振幅値も同時に使って決定し、最終的に高品質な2988個の解を決定した。これに気象庁一元化カタログに含まれる227イベントの解も含めて応力マップの一次データとする。
3.応力マップ
発震機構解から応力場を推定する際には、応力テンソルインバージョン法がしばしば使用される。ここでは今西ほか(2019)に従い、簡便な方法で応力マップを作成する。作成手順は以下の通りである。
①個々の発震機構解について、SHmax方位をZoback (1992)に従いP軸、B軸、T軸から決定する。また、断層タイプ(fptype)をShearer et al. (2006) に従い、すべり角から計算する。fptypeは-1から1の間の値を取り、正断層場の時に-1、横ずれ場の時に0、逆断層場の時に1になる。
②空間方向に10 kmのメッシュを設定し、半径15 km以内の位置にある地震のSHmax方位とfptypeの平均値を求める。
このようにして推定したマップを図1aに示す。この地域は東西圧縮の横ずれ場が卓越しているが、島根県・鳥取県の日本海側になると応力方位が時計回りに約20°回転して北北西-南南東方向を示す。この特徴は先行研究からも指摘されていたが、本研究により応力方位が変化する境界を特定することができ、中国地域は主に2つの応力区からなることが明らかになった。また、応力方位が時計回りに約20°回転している領域は高ブーゲー異常域と良く一致することがわかった。応力方位が変化する原因については、下部地殻における非地震性変形が提案されているが、密度差により引き起こされる浮力による応力擾乱にも一因がありそうである。
4.活断層の活動性評価
断層の走向とSHmaxの間の角度(α)から、その断層が現在の応力場のもとで再活動できるかどうかを調べた。ある摩擦係数のもとで断層が再活動できるαの値には上限値があり、lock-up角と呼ばれている(Scholz, 2002).一般的な摩擦係数0.6の場合、lock-up角は60°である.地震調査研究推進本部 地震調査委員会(2016)が評価対象とした中国地域の30の活断層のうち、αが60°未満に収まっている活断層は28あり(図1b)、ほとんどの断層が再活動する条件を満たしていることがわかった。残りの2つの活断層は現在の応力場では動きにくく、再活動するためには、隣接する活断層の破壊に伴う応力変化でトリガーされるなどの外的要因が必要になると考えられる。
謝辞:本研究では気象庁カタログを使用し、波形解析においては産業技術総合研究所のデータに加え、防災科学技術研究所 Hi-net、気象庁、東京大学地震研究所、京都大学防災研究所、高知大学、九州大学のデータを利用しました。
産業技術総合研究所地質調査総合センターは、微小地震解析による応力場推定を中心に高い空間分解能を持つ地殻内応力マップの整備を進めており、最初のケーススタディとして関東地域の10kmメッシュの応力マップを公表した(今西ほか,2019)。我々は次の対象として中国地域に場所を移し、応力マップを整備することとした。この地域では、日本海側で880年出雲の地震(M7.0)、1872年浜田地震(M7.1)、1943年鳥取地震(Mj7.2)、2000年鳥取県西部地震(M j7.3)などのM7級の地震が発生しており、最近でも2016年鳥取県中部地震(M j6.6)などの被害地震が起きている。また、 GNSSの解析から、これら規模の大きい地震が発生している領域と重なるように歪み集中帯が存在することが報告されており(Nishimura and Takada, 2017)、現在注目されている地域でもある。本研究では、基盤的地震観測網のデータを用いてマグニチュード1.5以上の地震を解析し、独自に発震機構解のカタログを作り、中国地域の10 kmメッシュの応力マップを作成した。そして、このマップを用いて、活断層の活動性評価を行ったので報告する。
2.データ
本研究では震源決定及び発震機構解の推定精度を上げるため、気象庁が読み取り対象としていない観測点も含め、震央距離80 km以内で読み取りが可能な観測点全てのP波及びS波の到達時刻とP波初動極性を手動検測した。震源決定は、観測点補正値を考慮して Hirata and Matsu'ura (1987) の方法により決定した。発震機構解はP波初動の押し引きデータに加えてP波とS波の振幅値も同時に使って決定し、最終的に高品質な2988個の解を決定した。これに気象庁一元化カタログに含まれる227イベントの解も含めて応力マップの一次データとする。
3.応力マップ
発震機構解から応力場を推定する際には、応力テンソルインバージョン法がしばしば使用される。ここでは今西ほか(2019)に従い、簡便な方法で応力マップを作成する。作成手順は以下の通りである。
①個々の発震機構解について、SHmax方位をZoback (1992)に従いP軸、B軸、T軸から決定する。また、断層タイプ(fptype)をShearer et al. (2006) に従い、すべり角から計算する。fptypeは-1から1の間の値を取り、正断層場の時に-1、横ずれ場の時に0、逆断層場の時に1になる。
②空間方向に10 kmのメッシュを設定し、半径15 km以内の位置にある地震のSHmax方位とfptypeの平均値を求める。
このようにして推定したマップを図1aに示す。この地域は東西圧縮の横ずれ場が卓越しているが、島根県・鳥取県の日本海側になると応力方位が時計回りに約20°回転して北北西-南南東方向を示す。この特徴は先行研究からも指摘されていたが、本研究により応力方位が変化する境界を特定することができ、中国地域は主に2つの応力区からなることが明らかになった。また、応力方位が時計回りに約20°回転している領域は高ブーゲー異常域と良く一致することがわかった。応力方位が変化する原因については、下部地殻における非地震性変形が提案されているが、密度差により引き起こされる浮力による応力擾乱にも一因がありそうである。
4.活断層の活動性評価
断層の走向とSHmaxの間の角度(α)から、その断層が現在の応力場のもとで再活動できるかどうかを調べた。ある摩擦係数のもとで断層が再活動できるαの値には上限値があり、lock-up角と呼ばれている(Scholz, 2002).一般的な摩擦係数0.6の場合、lock-up角は60°である.地震調査研究推進本部 地震調査委員会(2016)が評価対象とした中国地域の30の活断層のうち、αが60°未満に収まっている活断層は28あり(図1b)、ほとんどの断層が再活動する条件を満たしていることがわかった。残りの2つの活断層は現在の応力場では動きにくく、再活動するためには、隣接する活断層の破壊に伴う応力変化でトリガーされるなどの外的要因が必要になると考えられる。
謝辞:本研究では気象庁カタログを使用し、波形解析においては産業技術総合研究所のデータに加え、防災科学技術研究所 Hi-net、気象庁、東京大学地震研究所、京都大学防災研究所、高知大学、九州大学のデータを利用しました。