4:00 PM - 5:30 PM
[S10P-06] Damage and Source Fault of the 1909 Anegawa Earthquake
§1. はじめに
姉川(江濃)地震は,1909年8月14日に発生した局地的な中規模の地震である.滋賀県から岐阜県にかけて被害をもたらし,姉川流域の村落に全壊率60%を超えるような大被害を与えたほか,数多くの液状化現象(噴砂・噴水)や伊吹山の大規模な崩壊などが発生した.
この地震については,近江國姉川地震報告[滋賀県彦根測候所(1911)]や江濃地震報告[岐阜県岐阜測候所(1910)],震災予防調査会報告第69号・第70号[震災予防調査会(1910)]など,当時の地震被害を詳細に記した調査報告が多く残されており,被害状況がよくわかっている.
しかし,詳細な調査が実施されたにもかかわらず,断層破壊が地表面まで達していなかったため,震源断層については断定することができず,現在も不明である.当時の調査による結論では,鍛冶屋断層によるものと解釈される.
本研究では,これらの調査報告などから得られる地変・被害とその分布などの情報をもとに,詳細な地震像を明らかにし,被害を合理的に説明できるような震源断層を推定する.ここでいう地変とは,液状化現象・津波・地下水の変化をさす.
§2. 液状化現象による被害
姉川地震による液状化現象(噴砂・噴水)が発生した地点は,若松(2011)によると120箇所にものぼる. 滋賀県内における大規模な噴砂は姉川河口周辺の3箇所のみで,残りはほとんど岐阜県(大垣市や岐阜市など)に集中している.これらの地点の地盤は,地下水位が高く,砂(粒径0.075〜2mm)を多く含む地層が多く分布していることから,液状化現象が発生しやすい条件が揃っている地盤である.そのため,これらの条件に,強い地震動の揺れが加われば,液状化現象が発生してもおかしくない地点であるといえる.
§3. 津波による湖面の変化
震災予防調査会(1910)によると,「下流湖岸ニ蒞メル泥州ノ中東西二百間南北二町餘ハ大震ノ震動中湖水面下ニ陥没シ<中略>高サ數尺ノ波浪押シ寄セタリシ」と記されており,琵琶湖湖岸に数尺の津波が押し寄せたことがわかる.
津波が引き起こされる原因として,断層運動と湖底地すべりが考えられる.断層運動の場合,鍛冶屋断層に長さ20km, 幅20km, すべり1mの横ずれ断層を置き,地震発生から30分間の最大水位を計算した。その結果,湖の北部で最大津波波高が10cm程度みられた程度で,姉川河口周辺で顕著な水位の変化はなく,調査報告の記述と一致しなかった.
一方,湖底地すべりの場合,姉川河口の北側と南側の2箇所にそれぞれ地すべり域を設定して計算したところ,どちらの場合でも姉川河口周辺で波高が約1mと局所的に高くなった。このことから,一定規模の地すべりが起こった場合,被害報告にある数尺の津波が引き起こされうることが判明した.なお,地すべりのスケールは400mで,初期波高分布はWatts et al. (2005)を使用している.
参考文献
岐阜県岐阜測候所,1910, 江濃地震報告.
関西ライフライン研究会,1995,明治以降関西地域の地震と被害,47-65.
滋賀県彦根測候所, 1911, 近江國姉川地震報告.
震災予防調査会, 1910, 震災予防調査会報告第69号・第70号.
若松加寿江,2011,日本の液状化履歴マップ 745-2008, 東京大学出版会.
Watts et al., 2005, J. Water. Port, Coast, Ocean Engineer., 298-310.
姉川(江濃)地震は,1909年8月14日に発生した局地的な中規模の地震である.滋賀県から岐阜県にかけて被害をもたらし,姉川流域の村落に全壊率60%を超えるような大被害を与えたほか,数多くの液状化現象(噴砂・噴水)や伊吹山の大規模な崩壊などが発生した.
この地震については,近江國姉川地震報告[滋賀県彦根測候所(1911)]や江濃地震報告[岐阜県岐阜測候所(1910)],震災予防調査会報告第69号・第70号[震災予防調査会(1910)]など,当時の地震被害を詳細に記した調査報告が多く残されており,被害状況がよくわかっている.
しかし,詳細な調査が実施されたにもかかわらず,断層破壊が地表面まで達していなかったため,震源断層については断定することができず,現在も不明である.当時の調査による結論では,鍛冶屋断層によるものと解釈される.
本研究では,これらの調査報告などから得られる地変・被害とその分布などの情報をもとに,詳細な地震像を明らかにし,被害を合理的に説明できるような震源断層を推定する.ここでいう地変とは,液状化現象・津波・地下水の変化をさす.
§2. 液状化現象による被害
姉川地震による液状化現象(噴砂・噴水)が発生した地点は,若松(2011)によると120箇所にものぼる. 滋賀県内における大規模な噴砂は姉川河口周辺の3箇所のみで,残りはほとんど岐阜県(大垣市や岐阜市など)に集中している.これらの地点の地盤は,地下水位が高く,砂(粒径0.075〜2mm)を多く含む地層が多く分布していることから,液状化現象が発生しやすい条件が揃っている地盤である.そのため,これらの条件に,強い地震動の揺れが加われば,液状化現象が発生してもおかしくない地点であるといえる.
§3. 津波による湖面の変化
震災予防調査会(1910)によると,「下流湖岸ニ蒞メル泥州ノ中東西二百間南北二町餘ハ大震ノ震動中湖水面下ニ陥没シ<中略>高サ數尺ノ波浪押シ寄セタリシ」と記されており,琵琶湖湖岸に数尺の津波が押し寄せたことがわかる.
津波が引き起こされる原因として,断層運動と湖底地すべりが考えられる.断層運動の場合,鍛冶屋断層に長さ20km, 幅20km, すべり1mの横ずれ断層を置き,地震発生から30分間の最大水位を計算した。その結果,湖の北部で最大津波波高が10cm程度みられた程度で,姉川河口周辺で顕著な水位の変化はなく,調査報告の記述と一致しなかった.
一方,湖底地すべりの場合,姉川河口の北側と南側の2箇所にそれぞれ地すべり域を設定して計算したところ,どちらの場合でも姉川河口周辺で波高が約1mと局所的に高くなった。このことから,一定規模の地すべりが起こった場合,被害報告にある数尺の津波が引き起こされうることが判明した.なお,地すべりのスケールは400mで,初期波高分布はWatts et al. (2005)を使用している.
参考文献
岐阜県岐阜測候所,1910, 江濃地震報告.
関西ライフライン研究会,1995,明治以降関西地域の地震と被害,47-65.
滋賀県彦根測候所, 1911, 近江國姉川地震報告.
震災予防調査会, 1910, 震災予防調査会報告第69号・第70号.
若松加寿江,2011,日本の液状化履歴マップ 745-2008, 東京大学出版会.
Watts et al., 2005, J. Water. Port, Coast, Ocean Engineer., 298-310.