日本地震学会2020年度秋季大会

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Poster session (Oct. 30th)

Regular session » S10. Active faults and historical earthquakes

S10P

Fri. Oct 30, 2020 4:00 PM - 5:30 PM ROOM P

4:00 PM - 5:30 PM

[S10P-13] Seeking for better source models for near-fault strong ground motion prediction considering shallow structure: An example from the 2016 Kumamoto earthquake

〇Kimei Norimatsu1, Shinji Toda1 (1.IRIDeS, Tohoku University)

1.はじめに
 フリングステップのように、断層すべりに起因し、永久変位を生じさせるような強震動は断層近傍の建物を傾斜させるなど、大きな被害を引き起こすことが予想される。日本国内では都市部でも活断層が確認されており、それらの活断層が活動した場合には被害はきわめて甚大になり得る。そのため、起こり得る地震災害の影響をあらかじめ推定することは重要であり、従来から様々な研究者や行政機関等で検討されてきた。しかし、壊滅的な被害も考えられる断層近傍についての検討はまだ十分にはすすんでいない。本研究は断層近傍における大変形をともなう大規模地震について、その強震動予測手法を構築することを目的としている。強震動予測に必要なものとして、断層モデルと計算アルゴリズムが挙げられ、これらはともに高度化・詳細化の検討をしていく必要がある。ここでは、断層モデルの設定方法の検討について報告する。

2.断層モデル設定方法の検討
 断層近傍地域の強震動を検討するためには、断層形状の詳細なモデル化が必要である。本研究では2016年熊本地震を例に、先行研究で得られている断層モデル(田中ほか、2019)を用いてパラメタースタディをおこなうことによって、強震動予測に大きく寄与するパラメターを特定し、それらを適切に想定する方法について検討した。
・観測データのみでは推定することが困難なパラメターの設定
ⅰ)断層下端深度;断層下端深度は震源決定の精度や断層下端に対する見解のちがいから、推定が困難なパラメターの1つである。今回は、震源分布、複数の震源インバージョン結果、キュリー点深度等の異なる視点の先行研究を参照し設定することとした。
ⅱ)Q値;Q値は物理探査結果等を援用しても推定が難しいパラメターである。今回は標準的な値に対してQ値を増減させた速度構造モデルを用いて強震動計算を行い、その結果を比較することで、Q値が予測強震動にどのように影響するかを評価した。その結果、小さな差異は確認されたが、影響は小さいと判断し、Q値の不確定性を考慮する必要は無いと判断した。
・断層浅部の構造の検討
 ⅰ)出ノ口断層の形状に関する検討;遠田ほか(2016)は地表地震断層の現地調査から、出ノ口断層と布田川断層が地下3㎞前後で収斂していることを示した。この知見から出ノ口断層下端を浅く設定した断層モデルを設定し、田中ほか(2019)にもとづく断層モデルと、強震動計算結果および地殻変動計算結果を比較した。出ノ口断層の下端を浅く設定することで、布田川断層および出ノ口断層の並走区間で変位が集中することを確認した。また、断層浅部の構造が断層近傍の強震動および地殻変動に大きく影響することも確認した。
 ⅱ)断層上端形状の検討:いくつかの先行研究により断層浅部の構造は強震動予測に大きく影響する可能性が示された。しかし、従来の断層モデルは震源分布や震源インバージョン結果をもとに断層モデルを設定していることから、単純な形状として表現される傾向にある。ここでは、遠田ほか(2016)で示されている地表地震断層分布も採用し断層モデルを設定した。
・既往の断層モデル設定方法とのちがい
 既往の断層モデル設定方法として「強震動レシピ(地震本部,2017)」の方法を参照して設定した断層モデルと、本研究で設定した断層モデル、田中ほか(2019)にもとづく断層モデルの強震動計算結果および地殻変動計算結果を比較した。強震動レシピの方法にもとづいて設定した断層モデルでは、強震動および地殻変動は他の断層モデルを用いた場合よりも小さく推定された。

3.まとめと課題
 「強震動レシピ」では、地震発生層内のみを想定した手法となっている。今回の検討では、浅部の構造が断層近傍の強震動や地殻変動に大きく影響する可能性が示され、断層近傍地域の防災・減災策を進めるうえで重要であることを確認した。断層浅部の構造を十分考慮して詳細な断層モデルを設定するためには、地表地震断層や活断層などの地形・地質情報を使用することが有効と考えられる。地形・地質情報は発生した地震を説明する断層モデルを設定する場合のみならず、常時地震活動の低い地域での断層モデルの設定にも有用な情報である。
 今後の課題として、地震発生層上端以浅のモーメント量の扱い方について検討が必要である。地表近傍の応力降下量については今のところ詳細かつ明確な推定基準がない。大地震時に、無視できるくらい小さい地震モーメントしか発生させないのか、それとも地下深部と同様のモーメントを割り当てるべきなのか、予測にあたっての地震発生層上端以浅の扱い方を整理する必要がある。また、地表地震断層等の断層形状を示す地形・地質情報をモデル化する際の精度についても、それらがどの程度、計算結果に影響するかについて比較検討することも重要である。