日本地震学会2020年度秋季大会

講演情報

B会場

一般セッション » S12. 岩石実験・岩石力学・地殻応力

[S12]PM-1

2020年10月29日(木) 13:00 〜 13:45 B会場

座長:小村 健太朗(防災科学技術研究所)

13:30 〜 13:45

[S12-03] メートル規模でのガウジ摩擦実験

〇山下 太1、福山 英一2,1、下田 晃嘉2、渡辺 俊2 (1.国立研究開発法人防災科学技術研究所、2.京都大学大学院工学研究科)

防災科学技術研究所では,岩石摩擦特性のスケール依存性を調べる目的で大型振動台を利用したメートル規模の摩擦実験をおこなっている.過去に実施したメートル規模の変はんれい岩試料同士を直接接触させておこなった摩擦実験では,摩擦係数が急減する仕事率の値がセンチメートル規模に比べ1桁小さくなるというスケール依存性を確認している.さらに様々な観察に基づき,その原因が摩耗に伴って自発的に発生・成長する断層面上の応力不均質にあると結論づけられた(Yamashita et al., 2015, Nature).しかしながら自然の断層には一般にガウジと呼ばれる微細な岩石粒子が含まれている.ガウジ層を含む断層でも摩擦特性にスケール依存性が存在するか否かは重要な問題であることから,我々はメートル規模でのガウジ摩擦実験をおこなった.本研究でも変はんれい岩のブロックを母岩として用い,長さ1.5 m,幅0.1 mの接触面上に模擬ガウジを散布して摩擦実験をおこなった.模擬ガウジとしてジェットミルによって平均粒径10 µm,最大粒径200 µmとなるよう粉砕した変はんれい岩の粉末粒子を用いた.模擬ガウジを散布する面は凹凸が一面に渡って10 µm以下となるよう成形した後,模擬ガウジをとらえられるようサンドブラストによって粗くした.模擬ガウジを接触面上にふるいを使って可能な限り均質に散布し,厚さが3 mmになるよう余分な模擬ガウジを取り除いた後,金属板を使って手で圧密した.大型振動台によるせん断載荷をおこなう前に油圧ジャッキにより最大6.7 MPaの垂直応力を与え,実験中は一定に保った.実験後,せん断を受けたガウジ層を観察するため,1実験あたり最低3箇所でガウジ層を採取した.残りの模擬ガウジも可能な限り収集し,接触面に残った粒子は掃除機により除去した.本研究では目的に応じて2種類のせん断載荷による実験をおこなった.1つ目は速度-状態依存摩擦(RSF)則のパラメタを調べるための速度ステップ変化の載荷である.載荷速度を0.01 mm/sから1 mm/sの間で繰り返し変化させ,速度増加時と減少時の応答を収録した.得られたデータは,変はんれい岩の模擬ガウジが速度弱化の特性を示すことを示唆している.RSF則のパラメタ推定に関しては別の講演で報告をおこなう予定である(下田他, 2020, 本大会).2つ目の載荷方法は定常すべり時の摩擦特性の調査を目的としたものであり,0.01 mm/sから30 mm/sの一定速度で載荷し最大で400 mmのすべり距離を与えた.定常状態での摩擦係数と仕事率とを比較したところ,岩石試料同士を直接接触させた状態の摩擦実験で見られていた高い仕事率での摩擦係数の急減が見られなかった.局所的な応力状態を調べるため模擬断層沿いに設置した歪ゲージアレイのデータを解析したところ,すべりに伴い模擬断層面上の垂直応力分布が不均質化ではなく均質化している過程が見られた.ガウジ層を含む状態では岩石同士が直接接触した状態で見られたような応力不均質が発達しづらく,それにより摩擦係数の急減が発生しなかったと考えられる.一方,載荷速度が高い条件での実験においては,実験の最終段階において巨視的な摩擦係数が低下し始める様子が観察されている.そのような実験では,実験後のガウジ層内に黒く固結した薄いガウジ片がしばしば見つかっており,せん断変形が集中し高い仕事率が発生して局所的に摩擦係数が低下したと考えられる.歪のデータでも,一旦均質化した垂直応力分布が巨視的な摩擦係数の低下と同期して再び不均質化していく様子を確認できる.したがって,ガウジ層を含む状態では応力不均質が発達するまでにより多くのすべり距離が必要となるものの,岩石同士が直接接触した状態と同様に応力不均質に起因する巨視的摩擦係数の大幅な低下が引き起こされ,小さな規模では観察されないような低い仕事率での巨視的摩擦係数の急減が発生する可能性がある.