日本地震学会2020年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(2日目)

一般セッション » S12. 岩石実験・岩石力学・地殻応力

S12P

2020年10月30日(金) 16:00 〜 17:30 P会場

16:00 〜 17:30

[S12P-01] 断層摩擦発熱指標としての炭質物の熱熟成反応1:速度論的影響の実験的評価

〇山下 修平1、廣野 哲朗1 (1.大阪大学)

地震時に断層で生じる摩擦発熱の温度指標として,炭質物の熱熟成反応が古くより用いられている.しかし,炭質物は複雑な分子構造を持ち,いわゆる初期熟成度によって,亜炭から瀝青炭,無煙炭と区分される.また,地震時には,温度は急激に上昇し,さらに剪断によるダメージによって鉱物粒子だけでなく炭質物も剪断変形を受ける.しかし,炭質物による摩擦発熱指標として,これらの因子は包括的に精査されていない.そこで,本研究では,初期熟成度の異なる3種の炭質物(褐炭, 瀝青炭, 無煙炭)とグラファイトを対象とし,摩擦試験機で剪断ダメージを加え,さらに管状加熱炉を用いて加熱処理を施した状態での熟成度の変化を体系的に精査した.摩擦実験は,発熱を抑えるため,速度1 mm/sに設定した上で,軸荷重が1 MPaと3 MPaの2通り,加熱実験は数 10 °C/秒と0.1 °C/秒の2通りの昇温速度にて,100 °C 刻みにて300〜1300 °Cまで加熱した.その後,加熱後の試料において,赤外・ラマン分光にて,分子構造を分析した.その結果, 赤外分光において,褐炭では,遅い昇温速度では730 °Cで, 剪断後試料のC-H鎖の消失が見られ、剪断前試料と比較するとピーク消失温度は80 °C低かった.速い昇温速度では,970 °CでC-H鎖の消失が見られ, 摩擦前後試料でピーク消失温度の違いはなかった.瀝青炭では,遅い昇温速度では730 °Cで, 速い昇温速度で970 °CでC-H鎖の消失が見られ, 摩擦前後試料でピーク消失温度の違いはなかった.無煙炭では,遅い昇温速度では730 °Cで, 速い昇温速度で970 °CでC-H鎖の消失が見られ,摩擦前後試料でピーク消失温度の違いはなかった. グラファイトでは,ピークの変化が見られなかった.ラマン分光分析において,褐炭,瀝青炭,無煙炭,グラファイトにおいて,強度比の有意な差は見られなかった.
以上の一連の実験・分析の結果,摩擦発熱指標としての炭質物の熱熟成反応を適応する際には,炭質物の初期熟成度と昇温速度およびメカノケミカル効果を十分に考慮する必要があると結論づけることができる.