日本地震学会2020年度秋季大会

講演情報

A会場

一般セッション » S15. 強震動・地震災害

[S15]PM-1

2020年10月29日(木) 13:00 〜 14:15 A会場

座長:福島 洋(東北大学災害科学国際研究所)、座長:久田 嘉章(工学院大学)

13:30 〜 13:45

[S15-03] 「理解・気づきツール」としての南海トラフ地震確率推移表の開発

〇福島 洋1、西川 友章2 (1.東北大学災害科学国際研究所、2.京都大学防災研究所)

短期的な時間スパンでの地震発生予測の情報は、余震予測(大地震発生後の地震活動の見通しの予測)を除いて、これまで社会で実利用されていなかった。「南海トラフ地震臨時情報」(以下、臨時情報)は、南海トラフ沿いにおいて大規模な地震(Mw8.0以上)の発生の確率が平時より高まったときなどに1週間〜2週間単位の地震発生の見通しに関する情報である。このような情報発表の仕組みの社会での運用は、世界的に見ても類を見ない新たな試みである。

南海トラフ地震想定震源域内のプレート境界でMw8.0以上(以下、M8+地震)の地震が発生した場合(「半割れケース」と呼ばれる)と、それ以外の場合のうち監視領域内でMw7.0以上の地震(以下、M7クラス地震)が発生した場合(「一部割れケース」と呼ばれる)には、それぞれ「巨大地震警戒」と「巨大地震注意」というキーワードが付記された臨時情報が発表されることになっている。

社会のステークホルダーが臨時情報発表時に実効的な対応を取るためには、起こりうる地震発生シナリオの幅と、各シナリオが発生する確率とその不確かさの目安について理解をしておく必要がある。内閣府(2019)には、半割れケースと一部割れケースの場合について、新たなM8+地震が7日以内に発生する見込みをISC-GEM地震カタログから算出しており、それぞれ、十数回に1回程度、数百回に1回程度の確率で起こりうるとしている。本研究では、起こりうる地震発生シナリオの幅を示すために、内閣府と同様の方法を使い、異なる時間スパンでの発生確率や、M7クラス地震が別のM7クラス地震を誘発する場合(この場合、臨時情報(巨大地震注意)が二度発表され、注意する期間が延長されることになる)などについても発生確率の算出を行うとともに、平時の発生レートを複数のモデルを用いて検討することにより、確率利得についても検討を行った。また、これらの確率と確率利得の信頼区間も評価した。

データとしては、整合性の確認のため、ISC-GEM(ver 6.0)カタログとアメリカ地質調査所のANSSカタログのふたつを用いた。M8+地震とM7クラス地震に続いてそれぞれ半径500km以内と160km以内に発生した地震を後発地震とカウントした。時間スパンとしては、1日、3日、7日、14日、3年を使用した。確率利得の計算には、ポアソン分布モデルとBPT分布モデルの両方を用いて計算を行い、比較した。

結果を表に示す。地震の発生確率が時間とともに急速に減少していく特徴や、M8+地震のほうがM7クラス地震に比べて別のM8+地震の「誘発能力」が一桁大きいといった特徴が見て取れる。このような計算結果を、より理解のしやすい表現に整理した「地震確率推移表」(仮称)としてまとめることを予定している。この推移表をステークホルダーと共有することにより、これまで必ずしも広く伝わっていなかった情報(たとえば、別の地震が誘発される可能性は地震直後が大きくその後急激に減少するといったこと)が提供されることになり、対応策を計画するうえで有用な理解や気づきを得ることができるようになると考えている。

(文献)内閣府 (2019), 南海トラフ地震の多様な発生形態に備えた防災対応検討ガイドライン【第1版】 、令和元年5月、http://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/pdf/honbun_guideline2.pdf