2:30 PM - 2:45 PM
[S15-06] Improvement of IPF method with utilization of Hi-net
1. はじめに
緊急地震速報の震源推定手法の1つであるIPF法 [溜渕・他(2014)] は、同時多発地震による観測データを適切に分離して処理できるという利点がある。一方で、IPF法は気象庁観測点、海底地震計、KiK-netの一部を使用しており、観測点密度の高いHi-netを使用した着未着法 [Horiuchi et al.(2005)] と比べると、内陸地震において迅速性と震源精度に課題があった。そこで本発表では、IPF法の迅速性と震源精度の改善のために、気象庁へリアルタイム伝送されているHi-netのデータをIPF法で活用することについて検討を行った結果を報告する。
2. 検討内容
Hi-netをIPF法で活用するため、以下の検討を行った。
a. Hi-net速度波形をIPF法の入力データにするための処理
Hi-net速度波形に加速度変換フィルタ [小寺(2019)] を適用して加速度波形に変換し、トリガ処理とその品質管理、震央方位解析 [横田(1985)] 、及び震央距離解析 [Okada et al.(2003)、束田・他(2004)] など、気象庁加速度計と同様の波形解析処理を行った。
b. IPF法で多観測点処理を行うための高度化
観測点増加に伴って課題となる計算負荷を軽減するため、尤度計算に使用する観測点を最尤地点近傍に限定する観測点選別処理を追加した。加えて、非選別観測点の同一判定についても、「全パーティクルとの同一判定」の代わりに「尤度の重心との同一判定」を行うことで計算負荷の軽減を図った。また、品質管理異常となった観測点や、ノイズレベルが高くトリガしない観測点の未トリガ情報により、震源推定精度が低下することを避けるため、それらの観測点を”非選別”とすることで、未トリガ情報が疑わしい観測点を尤度計算から除外するロジックを追加した。
3. 結果
2018年に緊急地震速報を発表した898事例について検証を行った。Hi-net速度波形の加速度変換及び波形解析を行った結果、気象庁加速度計の波形解析結果(トリガ、震央方位、震央距離、振幅)と比較して大きな差異は認めらなかった。これらの波形解析結果と気象庁観測点の波形解析結果を用いて、IPF法による震源推定を行った結果、既存のIPF法と比較すると、陸域の地震で第1報発表時刻の迅速化及び震源精度の向上が見られた。同様に、Hi-netを使用した着未着法と比較しても、ほとんどの事例で同等の精度で震源を推定できることがわかった。また、品質管理異常となった観測点や、ノイズレベルが高くトリガしない観測点を”非選別”とし、震源近傍での未着観測点の影響を軽減することで、尤度分布が収束し震源推定精度が向上することがわかった。
以上のように、Hi-netを活用したIPF法の高度化により、震源推定の迅速化と精度向上が可能となった。ただし、一部の深発地震、及び観測網の端で発生した地震については、特に震源推定初期段階においてIPF法の震源推定精度がやや低くなる場合があった。また、速度Mを使用している着未着法と比較すると、第1報発表時刻が遅い事例も多いことがわかった。今後はこれらに対応するため、IPF法の推定震源を用いた緊急地震速報の発表に速度Mを使用することなどについても検討を行う。
[謝辞]
本発表では気象庁観測点のデータのほかに、MOWLAS(Hi-net、S-net、DONET、KiK-net)のデータを利用しました。記して感謝いたします。
緊急地震速報の震源推定手法の1つであるIPF法 [溜渕・他(2014)] は、同時多発地震による観測データを適切に分離して処理できるという利点がある。一方で、IPF法は気象庁観測点、海底地震計、KiK-netの一部を使用しており、観測点密度の高いHi-netを使用した着未着法 [Horiuchi et al.(2005)] と比べると、内陸地震において迅速性と震源精度に課題があった。そこで本発表では、IPF法の迅速性と震源精度の改善のために、気象庁へリアルタイム伝送されているHi-netのデータをIPF法で活用することについて検討を行った結果を報告する。
2. 検討内容
Hi-netをIPF法で活用するため、以下の検討を行った。
a. Hi-net速度波形をIPF法の入力データにするための処理
Hi-net速度波形に加速度変換フィルタ [小寺(2019)] を適用して加速度波形に変換し、トリガ処理とその品質管理、震央方位解析 [横田(1985)] 、及び震央距離解析 [Okada et al.(2003)、束田・他(2004)] など、気象庁加速度計と同様の波形解析処理を行った。
b. IPF法で多観測点処理を行うための高度化
観測点増加に伴って課題となる計算負荷を軽減するため、尤度計算に使用する観測点を最尤地点近傍に限定する観測点選別処理を追加した。加えて、非選別観測点の同一判定についても、「全パーティクルとの同一判定」の代わりに「尤度の重心との同一判定」を行うことで計算負荷の軽減を図った。また、品質管理異常となった観測点や、ノイズレベルが高くトリガしない観測点の未トリガ情報により、震源推定精度が低下することを避けるため、それらの観測点を”非選別”とすることで、未トリガ情報が疑わしい観測点を尤度計算から除外するロジックを追加した。
3. 結果
2018年に緊急地震速報を発表した898事例について検証を行った。Hi-net速度波形の加速度変換及び波形解析を行った結果、気象庁加速度計の波形解析結果(トリガ、震央方位、震央距離、振幅)と比較して大きな差異は認めらなかった。これらの波形解析結果と気象庁観測点の波形解析結果を用いて、IPF法による震源推定を行った結果、既存のIPF法と比較すると、陸域の地震で第1報発表時刻の迅速化及び震源精度の向上が見られた。同様に、Hi-netを使用した着未着法と比較しても、ほとんどの事例で同等の精度で震源を推定できることがわかった。また、品質管理異常となった観測点や、ノイズレベルが高くトリガしない観測点を”非選別”とし、震源近傍での未着観測点の影響を軽減することで、尤度分布が収束し震源推定精度が向上することがわかった。
以上のように、Hi-netを活用したIPF法の高度化により、震源推定の迅速化と精度向上が可能となった。ただし、一部の深発地震、及び観測網の端で発生した地震については、特に震源推定初期段階においてIPF法の震源推定精度がやや低くなる場合があった。また、速度Mを使用している着未着法と比較すると、第1報発表時刻が遅い事例も多いことがわかった。今後はこれらに対応するため、IPF法の推定震源を用いた緊急地震速報の発表に速度Mを使用することなどについても検討を行う。
[謝辞]
本発表では気象庁観測点のデータのほかに、MOWLAS(Hi-net、S-net、DONET、KiK-net)のデータを利用しました。記して感謝いたします。