日本地震学会2020年度秋季大会

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Poster session (Oct. 30th)

Regular session » S15. Strong ground motion and earthquake disaster

S15P

Fri. Oct 30, 2020 4:00 PM - 5:30 PM ROOM P

4:00 PM - 5:30 PM

[S15P-11] A study on source, path, and site effects around the source area of the 2013 Tochigi-Ken Hokubu Earthquake

〇Kazuhito Hikima1 (1.Tokyo Electric Power Company Holdings, Inc. )

【はじめに】
2013年2月25日に発生した栃木県北部の地震は,Mj 6.3の中規模地震にもかかわらず,震央から約4km離れたKiK-net栗山西観測点 (TCGH07)で大加速度の地震動が観測された.この要因分析として筆者は震源過程解析を実施する(引間,2014)とともに,震源~観測点の伝播特性の影響を検討するため,余震記録などを用いてスペクトルインバージョンを実施した(引間,2013;2015).その結果,TCGH07で卓越した5~8Hz程度の高周波数成分は,震源域であるTCGH07の西方向から到来する地震動に特徴的に見られ,伝播特性・サイト特性の影響を反映している可能性が高いことを示した.
一方,笠松・他(2019)は,中小地震の波形記録を使い5~8Hzの最大加速度の距離減衰式を作成し,TCGH07では周辺地点に比べてこの周波数帯域で揺れが大きくなり易いこと,さらに本震のすべりが大きな領域の北側で発生した地震では相対的に大きな増幅となることを示した.また,加藤・他(2019)では本震震源域の北側では震源特性として高周波数成分を強く励起する特徴が見られることを指摘している.前者は基本的には引間(2013; 2015)と同様に本震時のTCGH07での観測波形の特徴の要因を伝播・サイト特性として捉えるものであろう.対して,後者はそれに加えて震源特性も大きな影響があったもの考えている.しかし,ある特定サイトにおける狭い周波数での大振幅地震動の要因を震源特性の影響と捉えることは,他の観測点の記録でも特異な増幅が見られない限り考えにくいように思われる.
そこで,本検討では,筆者が行ったスペクトルインバージョン解析に新たなデータを追加して再解析を行い,求まった震源スペクトルをBruneのω-2モデルで評価し直し各地震の震源特性を定量化した.さらにそれらを基に,各地点のサイト特性を求めなおすことで,標準的な震源モデルに対するサイト特性を再評価した.そして,TCGH07において到来方向の違いによる増幅特性の違いについて再検討した.

【スペクトルインバージョン解析】
スペクトルインバージョンはこれまでの解析(引間,2013; 2015)とほぼ同様の条件で行った.震源域周辺のKiK-netの19観測点の加速度記録を使用し,各地点の地表・地中それぞれのサイト特性を求めた.使用した地震は2010年以降に発生したM3~5.1の95地震である.観測波形のS波初動から8 秒間のNS, EW成分のフーリエ振幅スペクトルのRMSに対して1 Hz幅のParzenウィンドウにより平滑化したものをデータとしてインバージョン解析を行った.なお,水平2成分とも100 galを超える観測記録は解析から除いた.解析対象周波数は0.5~20 Hzとした.
インバージョンの際の拘束条件として,地中地震計位置でVs≧2500 m/sとなるFKSH07,TCGH17,GNMH14の地中観測点を基盤相当と仮定し,これらの位置の増幅率を1とする拘束条件を課した.一回目の解析では上記の拘束条件のみを付してインバージョンを実施し,そこで求まったQ値を周波数fに対してQ=Q0*fn の関数形で近似した.二回目の解析ではそのQ値の関数を固定した上で震源スペクトルおよび増幅率を求めた.
次に,上記で求まった震源スペクトルに対して,残差が最小となるBruneのω-2モデルをグリッドサーチにより推定し,M0およびΔσを求めた.なお,F-netによりCMTが求まっている地震については,M0の値としてそれらを採用した.
最後に,各観測点のサイト特性は推定した震源スペクトルと波動伝播のQ値を使って計算されるスペクトルに対する残差の平均値として評価した.

【解析結果】
解析された地震の応力降下量について,震源位置による違いを確認したところ,2013年栃木県北部の地震の震源域で発生した地震は,他の領域で発生した地震に比べて相対的にやや小さな値を示すことがわかった(図1).一方で,本震の震源域の値の変化を確認すると,北部での値が若干大きくなる傾向が見られ,その点は加藤・他(2019)の指摘と整合している.
さらに,TCGH07への到来方向によるサイト増幅率の違いを確認するために引間(2013; 2015)と同様の震源領域に分けてそれぞれの平均増幅特性を評価した(図2).その結果TCGH07に西から到来する地震,すなわち本震の震源域で発生した地震では5~8Hz(周期0.1~0.2s程度)の増幅が顕著であるのに対して,他方向から到来する地震動ではそのような増幅は見られないことが確認された.

【まとめと考察】
今回のスペクトルインバージョン結果をもとにした検討では,本震の震源域の応力降下量は他地点で発生した地震に比べて特に大きなものではない.そのため,震源特性そのものがTCGH07の大振幅の主要因となった可能性は小さいものと考えられる.一方で,TCGH07への到来方向により増幅特性が異なる傾向はこれまで同様に認められる.震源域からの地震動が増幅する周波数が本震で見られた卓越周波数とほぼ一致することから,やはりサイトの比較的近傍での伝播・サイト特性が本震時にも大きく影響したと考えることが妥当と思われる.
なお,到来方向による増幅特性の違いの要因については,TCGH07が山間部に位置していることから地形の影響が一因の可能性がある.その効果を検討するために,地形を考慮した波動伝播シミュレーションなども行っていきたい.

<関連発表>
引間(2014):2013年2月25日栃木県北部の地震(MJ 6.3)の震源過程-3~経験的および理論グリーン関数を併用した解析~,日本地震学会2014年秋季大会,S15-P22.
引間(2013):スペクトルインバージョンを用いた2013年2月栃木県北部地震の震源域におけるサイト・伝播特性に関する検討,日本地震工学会・大会-2013梗概集.
引間(2015):2013年栃木県北部の地震の震源域におけるKiK-net観測点を用いたサイト・伝播特性に関する検討,日本建築学会大会(関東)学術講演梗概集,21026.
笠松・他(2019):中小地震が励起した大振幅地震動の発生要因~2013年栃木県北部の地震(Mj6.3)のKiK-net栗山西の検討~,日本地球惑星科学連合2019年大会,SSS13-13.
加藤・他(2019):2013年栃木県北部の地震(Mj6.3)の震源域における応力降下量の空間分布の検討,日本建築学会大会(北陸)学術講演梗概集,21226.

謝辞:本検討ではKiK-netおよびF-netメカニズム解,JMA一元化震源データを使用させて頂きました.