4:00 PM - 5:30 PM
[S15P-17] Numerical Experiments for Simplified Prediction of Short-Distance Variation of Long-Period Ground Motion Amplitudes
堆積盆地で観測される周期数秒から十数秒の長周期地震動の主成分を表面波であるとした場合,その波長は水平方向におおむね数kmから20ないし30kmと見積もられるが,この波長に比べて1波長にも満たないような短い距離で長周期地震動のスペクトル振幅が大きく異なる(例えば1.5倍とか)事例またはそれを示唆するような事例(一つの石油コンビナート地域に立地する複数のほぼ同諸元の石油タンクにおいて,地震時に発生したスロッシング高さにタンクの立地場所による系統的な違いが見られることなど)がしばしば観測される.
このような短い距離での長周期地震動のスペクトル振幅の違いを,差分法等による地震波動場の計算に頼らず,精度が犠牲になったとしても,より簡易な方法で予測する方法の可能性について検討することが本研究の目的である.
横方向に不規則な構造における表面波の伝播に関しては,グローバルな長周期(周期20秒以上)表面波を対象として,波線理論を用いた研究がなされてきた.Tromp and Dahlen(1992)は,エネルギー流速の保存則から,ある波線上の地表面上の2地点間における表面波のスペクトル振幅の比は,幾何減衰の影響を無視できる場合には,それぞれの地点の直下の1次元速度構造から計算される(i)地表における表面波固有関数の値,(ii)群速度,(iii)エネルギー積分,による簡単な代数演算で表現できることを導いた(以下,表面波伝達関数という).Bowden and Tsai(2016)は,この表面波伝達関数は,横方向の速度構造の変化が十分緩やかな場合には,周期数秒程度の表面波にも適用可能であると考えた.また,元々はある一つの波線上で成立する関係式ではあるものの,その条件を大胆に緩め,任意の2地点間(といっても堆積盆地内とその周辺における任意の2地点程度の意)の振幅比を与えうるものと仮定し,Los Angeles盆地で観測された表面波の周期2.5秒成分の増幅特性が,各地点直下の1次元速度構造に対するS波鉛直入射から計算される増幅特性(以下,「S波伝達関数」という)よりも,表面波伝達関数により,よく説明できることを定性的に示した.
著者は,昨年の本学会秋季大会において,Bowden and Tsai(2016)の結果を定量的に検証するため,2次元地下構造モデルに対して差分法により計算した2次元地震波動場の増幅特性が,表面波伝達関数によってどの程度説明できるか調べた.その結果として,
(1)短距離2地点間の長周期地震動の相対的スペクトル振幅は,表面波伝達関数を用いることにより,各地点直下の1次元地下構造から,2/3~2倍の精度で予測可能であること,
(2)各地点直下の1次元地下構造に対するS波鉛直入射伝達関数による予測精度は1/3~2倍で,表面波伝達関数に比べてばらつきが大きく,また過小評価するきらいがあること,
など,表面波伝達関数の有望性を示した.
今回の発表では,3次元地下構造モデルに対して差分法により計算した3次元地震波動場の増幅特性が,表面波伝達関数によってどの程度説明できるかという数値実験を行う.実験対象領域は,苫小牧西港を中心とする水平方向80×90km程度の領域(勇払平野,石狩平野南部が含まれる)とし,速度構造モデルは,防災科学技術研究所のJ-SHIS深部地盤データ V2に基づいて設定した.この速度構造モデルの南東側からRayleigh波及びLove波の基本モードを入射させ,地表面での3成分速度波形を計算し,水平2成分のフーリエ振幅スペクトルの二乗和平方根について,苫小牧西港地点に対する各地点の比を得た. 図(a)はこれにより得た周期7秒におけるスペクトル比である.図は,スペクトル比の基準点である苫小牧西港を中心とした水平方向20×20kmの領域(計算領域全体ではない)を示している.本研究の狙いは,短距離間での振幅較差の予測であり,平野・盆地全体の振幅較差の予測を“簡易な方法”で予測しようとするものではない.
この結果を観測された増幅率であるとみなし,表面波伝達関数から計算される増幅率と比較する.図(b)~(d)は,それぞれRayleigh波基本モードの表面波伝達関数,Love波基本モードの表面波伝達関数,S波鉛直入射の伝達関数から計算した苫小牧西港地点に対するスペクトル増幅率(同じく周期7秒)である.スペクトル振幅の空間較差の特徴,すなわち基準点の下側と左上側の領域で基準点よりも振幅が大きくなることなどは,S波伝達関数では予測できていない.一方,表面波伝達関数は,S波伝達関数に比べてよりよい予測を与えている.
以上のような比較をさまざまな周期について行う.また,実体波を含むなどしたより現実的な入射波を与えた場合の検討も行う.これらのことにより,横方向に不規則な構造における周期数秒程度の表面波の増幅率の評価に対する1次元速度構造に基づく表面波伝達関数の適用可能性を定量的に調べる.
このような短い距離での長周期地震動のスペクトル振幅の違いを,差分法等による地震波動場の計算に頼らず,精度が犠牲になったとしても,より簡易な方法で予測する方法の可能性について検討することが本研究の目的である.
横方向に不規則な構造における表面波の伝播に関しては,グローバルな長周期(周期20秒以上)表面波を対象として,波線理論を用いた研究がなされてきた.Tromp and Dahlen(1992)は,エネルギー流速の保存則から,ある波線上の地表面上の2地点間における表面波のスペクトル振幅の比は,幾何減衰の影響を無視できる場合には,それぞれの地点の直下の1次元速度構造から計算される(i)地表における表面波固有関数の値,(ii)群速度,(iii)エネルギー積分,による簡単な代数演算で表現できることを導いた(以下,表面波伝達関数という).Bowden and Tsai(2016)は,この表面波伝達関数は,横方向の速度構造の変化が十分緩やかな場合には,周期数秒程度の表面波にも適用可能であると考えた.また,元々はある一つの波線上で成立する関係式ではあるものの,その条件を大胆に緩め,任意の2地点間(といっても堆積盆地内とその周辺における任意の2地点程度の意)の振幅比を与えうるものと仮定し,Los Angeles盆地で観測された表面波の周期2.5秒成分の増幅特性が,各地点直下の1次元速度構造に対するS波鉛直入射から計算される増幅特性(以下,「S波伝達関数」という)よりも,表面波伝達関数により,よく説明できることを定性的に示した.
著者は,昨年の本学会秋季大会において,Bowden and Tsai(2016)の結果を定量的に検証するため,2次元地下構造モデルに対して差分法により計算した2次元地震波動場の増幅特性が,表面波伝達関数によってどの程度説明できるか調べた.その結果として,
(1)短距離2地点間の長周期地震動の相対的スペクトル振幅は,表面波伝達関数を用いることにより,各地点直下の1次元地下構造から,2/3~2倍の精度で予測可能であること,
(2)各地点直下の1次元地下構造に対するS波鉛直入射伝達関数による予測精度は1/3~2倍で,表面波伝達関数に比べてばらつきが大きく,また過小評価するきらいがあること,
など,表面波伝達関数の有望性を示した.
今回の発表では,3次元地下構造モデルに対して差分法により計算した3次元地震波動場の増幅特性が,表面波伝達関数によってどの程度説明できるかという数値実験を行う.実験対象領域は,苫小牧西港を中心とする水平方向80×90km程度の領域(勇払平野,石狩平野南部が含まれる)とし,速度構造モデルは,防災科学技術研究所のJ-SHIS深部地盤データ V2に基づいて設定した.この速度構造モデルの南東側からRayleigh波及びLove波の基本モードを入射させ,地表面での3成分速度波形を計算し,水平2成分のフーリエ振幅スペクトルの二乗和平方根について,苫小牧西港地点に対する各地点の比を得た. 図(a)はこれにより得た周期7秒におけるスペクトル比である.図は,スペクトル比の基準点である苫小牧西港を中心とした水平方向20×20kmの領域(計算領域全体ではない)を示している.本研究の狙いは,短距離間での振幅較差の予測であり,平野・盆地全体の振幅較差の予測を“簡易な方法”で予測しようとするものではない.
この結果を観測された増幅率であるとみなし,表面波伝達関数から計算される増幅率と比較する.図(b)~(d)は,それぞれRayleigh波基本モードの表面波伝達関数,Love波基本モードの表面波伝達関数,S波鉛直入射の伝達関数から計算した苫小牧西港地点に対するスペクトル増幅率(同じく周期7秒)である.スペクトル振幅の空間較差の特徴,すなわち基準点の下側と左上側の領域で基準点よりも振幅が大きくなることなどは,S波伝達関数では予測できていない.一方,表面波伝達関数は,S波伝達関数に比べてよりよい予測を与えている.
以上のような比較をさまざまな周期について行う.また,実体波を含むなどしたより現実的な入射波を与えた場合の検討も行う.これらのことにより,横方向に不規則な構造における周期数秒程度の表面波の増幅率の評価に対する1次元速度構造に基づく表面波伝達関数の適用可能性を定量的に調べる.