13:45 〜 14:00
[S16-07] 函館平野の深部地盤構造モデルの作成
函館平野は南側を津軽海峡に面し,東西を上磯山地と亀田半島に囲まれた沖積平野であり,平野の西縁では,逆断層である函館平野西縁断層帯が丘陵・段丘と低地との地形境界をなしている[太田・他, 1994].函館平野の基盤は中生界の上磯層群であり,北斗市内の温泉ボーリングでは,完新世から中新世までの堆積層の下に深度1,325 mで上磯層群の石灰岩に達している[北海道立地質研究所, 2004].函館平野における地震被害としては,震度5を記録した1968年十勝沖地震によるものが知られている.また,函館平野西縁断層帯の想定地震はM7.0~7.5であり,最新活動時期が約14,000年前以後,2020年1月1日時点の地震後経過率が0.02~1.1,今後30年以内の発生確率がほぼ0~1%と評価され,長期評価ではAランクとされている[地震調査研究推進本部地震調査委員会, 2020].これまで函館平野では,石油・天然ガス関連の構造探査,活断層調査,温泉学的研究等が行われたものの,地震動の増幅に大きく関わる深部地盤構造に関する詳細な調査はほとんど行われていなかった.本研究では,函館平野における地震動予測の高度化と地盤情報に関する知見の拡充に資するため,新たに大半径の微動アレイ探査を行い浅部から深部までの地盤構造を調査した.微動アレイ探査の結果に加え,既往の反射法地震探査の情報も取り入れ,函館平野の深部地盤構造モデルを新たに作成した.
微動アレイ観測は,函館市2地点(HAK,MHR),北斗市2地点(KMI,OON),七飯町1地点(NNE)の計5地点で,2017年9月25~28日の日中に実施した.各地点で,最小半径10~12 mから最大半径630~1,380 mまでの5~6種類の異なる半径の正三角形アレイによる観測を行った.地震計はLE-3D/5s(大半径)とSMAR-6A3P(小半径)を用い,ともにLS-8800で収録した.上下動記録にSPAC法を適用し,約0.3~10 Hzの範囲(位相速度がとても小さいNNEでは5 Hzまで)で位相速度を推定した.位相速度分散曲線をRayleigh波基本モードでモデル化することにより,各地点の一次元S波速度構造を推定した.深部地盤モデルの層構造のパラメータはJ-SHIS V2のものに揃え,層厚のみを探索した.浅部地盤については1~2層を仮定し,S波速度と層厚の両方を探索した.また,平野西部のOONやKMIでは,0.5~1 Hzの位相速度を説明するため、VS 約0.8 km/sの層を追加する必要があった.推定されたVS 3.1 km/s上面深度は,海岸に近いHAKやKMIで約2.9~3.3 kmと深く,やや内陸のOONやNNEでは約1.6~2.0 km,MHRで約0.7 kmであった.全体的にVS > 1 km/sの層が堆積層に占める割合が大きい.VS 0.6~0.8 km/sの層厚は平野東部で薄く,西部で厚い.これは中部~下部更新統の富川層の層厚変化と対応し,函館平野西縁断層帯の活動で平野西部が沈降しているためである.
次に,微動アレイ探査及び既往の反射法地震探査[石油公団, 1981; 佐藤・他, 2019]の情報からコントロールポイントを設定し,スプライン関数による空間補間により函館平野の三次元深部地盤モデルを作成した.地質構造とS波速度構造の対応付けは,佐藤・他 (2019)による渡島半島横断深部反射法地震探査測線の地質構造解釈と微動アレイによるS波構造モデルを相互比較することにより,検討した.得られた三次元深部地盤モデルは,微動アレイや反射法地震探査の結果と同様,函館平野西縁断層に向かって西下がりに堆積層厚が深くなるモデルとなった.既存のJ-SHIS V2モデルのうち、函館平野の部分を本研究で作成したモデルで置き換えることで渡島半島周辺の広域の地盤構造モデルを準備し、重力異常及び中規模地震の地震動のシミュレーションを行った.それぞれシミュレーション結果を観測データと比較することで,既往のJ-SHIS V2に比べて,モデルが改善されたことを確認できた.
謝辞:本研究は文部科学省委託「日本海地震・津波調査プロジェクト」(代表機関:東京大学地震研究所)の一環で実施しました.微動アレイ観測では,有限会社ジオアナリシス研究所と一般財団法人地域地盤環境研究所の皆様のご協力を得ました.東京大学地震研究所佐藤比呂志教授には渡島半島横断深部反射法地震探査の資料をご提供頂きました.記して感謝いたします.
微動アレイ観測は,函館市2地点(HAK,MHR),北斗市2地点(KMI,OON),七飯町1地点(NNE)の計5地点で,2017年9月25~28日の日中に実施した.各地点で,最小半径10~12 mから最大半径630~1,380 mまでの5~6種類の異なる半径の正三角形アレイによる観測を行った.地震計はLE-3D/5s(大半径)とSMAR-6A3P(小半径)を用い,ともにLS-8800で収録した.上下動記録にSPAC法を適用し,約0.3~10 Hzの範囲(位相速度がとても小さいNNEでは5 Hzまで)で位相速度を推定した.位相速度分散曲線をRayleigh波基本モードでモデル化することにより,各地点の一次元S波速度構造を推定した.深部地盤モデルの層構造のパラメータはJ-SHIS V2のものに揃え,層厚のみを探索した.浅部地盤については1~2層を仮定し,S波速度と層厚の両方を探索した.また,平野西部のOONやKMIでは,0.5~1 Hzの位相速度を説明するため、VS 約0.8 km/sの層を追加する必要があった.推定されたVS 3.1 km/s上面深度は,海岸に近いHAKやKMIで約2.9~3.3 kmと深く,やや内陸のOONやNNEでは約1.6~2.0 km,MHRで約0.7 kmであった.全体的にVS > 1 km/sの層が堆積層に占める割合が大きい.VS 0.6~0.8 km/sの層厚は平野東部で薄く,西部で厚い.これは中部~下部更新統の富川層の層厚変化と対応し,函館平野西縁断層帯の活動で平野西部が沈降しているためである.
次に,微動アレイ探査及び既往の反射法地震探査[石油公団, 1981; 佐藤・他, 2019]の情報からコントロールポイントを設定し,スプライン関数による空間補間により函館平野の三次元深部地盤モデルを作成した.地質構造とS波速度構造の対応付けは,佐藤・他 (2019)による渡島半島横断深部反射法地震探査測線の地質構造解釈と微動アレイによるS波構造モデルを相互比較することにより,検討した.得られた三次元深部地盤モデルは,微動アレイや反射法地震探査の結果と同様,函館平野西縁断層に向かって西下がりに堆積層厚が深くなるモデルとなった.既存のJ-SHIS V2モデルのうち、函館平野の部分を本研究で作成したモデルで置き換えることで渡島半島周辺の広域の地盤構造モデルを準備し、重力異常及び中規模地震の地震動のシミュレーションを行った.それぞれシミュレーション結果を観測データと比較することで,既往のJ-SHIS V2に比べて,モデルが改善されたことを確認できた.
謝辞:本研究は文部科学省委託「日本海地震・津波調査プロジェクト」(代表機関:東京大学地震研究所)の一環で実施しました.微動アレイ観測では,有限会社ジオアナリシス研究所と一般財団法人地域地盤環境研究所の皆様のご協力を得ました.東京大学地震研究所佐藤比呂志教授には渡島半島横断深部反射法地震探査の資料をご提供頂きました.記して感謝いたします.