日本地震学会2020年度秋季大会

Presentation information

Room A

Regular session » S16. Subsurface structure and its effect on ground motion

[S16]PM-2

Fri. Oct 30, 2020 2:30 PM - 3:30 PM ROOM A

chairperson:Kimiyuki Asano(Disaster Prevention Research Institute, Kyoto University)

2:45 PM - 3:00 PM

[S16-10] Wave propagation analysis using deep borehole seismic observation data

〇Tomiichi Uetake1, Kazuhito Hikima1, Akihiro Shimmura1, Masatoshi Fujioka1 (1.Tokyo Electric Power Company Holdings, Inc.)

1.はじめに
 2007年新潟県中越沖地震(M6.8)により,柏崎刈羽原子力発電所で大加速度の地震動が観測されるとともに敷地南側と北側での加速度振幅の違いが注目された.その原因として敷地の厚い堆積層による増幅と地盤構造の不整形性の影響が指摘されている.敷地内の地震観測点拡充の一環として,大深度ボーリング孔を利用した観測が計画され,敷地南側では既設の地質調査ボーリング孔を利用した深さ1022 mでの観測が2014年に開始[Fujioka et al.(2016)],敷地北側では新規に掘削した1500 m孔での観測が2017年に開始された.

2.柏崎刈羽原子力発電所における大深度観測の状況
 大深度観測点は,敷地南側で新潟県中越沖地震後に掘削された地質調査孔を利用して地震計を設置したS孔(1022 m),敷地北側に新規に掘削したE孔(1500 m)の2点である.両地点は,南北に1.3 km離れている.S孔は敷地内を貫く向斜軸上に,E孔は背斜軸上に位置しており,対応する地層境界の深さが大きく異なっている(椎谷層上面で約600 m).大深度観測点の孔底には,サーボ型加速度計(±2000 cm/s2),過減衰動電型加速度計(±2000 cm/s2),周期1秒の高感度速度計が収納されており,地表にはサーボ型加速度計,過減衰動電型加速度計が設置されている.収録装置の時刻はGPSで校正され,24 bit,100 Hzサンプリングで観測が行われている.
 大深度観測開始以降,敷地近傍の地震活動は不活発で,マグニチュード(M)が4を超える地震は発生していない.そのためM5を超える地震の記録は,敷地から離れた地震の記録のみとなる.両地点で得られた地震で最大のMは,2019年6月18日の山形県沖の地震(M6.7)である.また,敷地周辺で発生する地震の震源深さは,10~20kmが多いが,2020年8月6日の新潟県中越地方の地震(M5.1,深さ186 km)のような深発地震も得られている.

3.大深度・地表間の地震波伝播
 S孔及びE孔の大深度における波形と地表における波形(EW成分)のS波部分を図に示す.孔底の記録から目視で読み取ったS波初動が29秒の位置になるように揃えてある.また,下から上に向かって震央位置が南から北になるように波形を並べた.なお,波形は加速度波形に低周波数側のSNに応じてハイパスフィルターをかけて積分し,速度波形に直してある.孔底記録の二本目の縦線は,PS検層モデルから計算される孔底から地表へのS波の鉛直伝播時間の2倍の時刻を示した.S波が地表で反射して戻れば,この線の位置に入射波と同位相の波群が認められる.地表波形の図に引かれた線は,PS検層モデルから計算される地表へのS波初動の到着時刻である.
 地震の規模によって有効な周波数が異なるため,近傍のMの小さな地震では短周期の継続時間の短い波形,遠方のMの大きな地震で周期の長い波形となっている.また,敷地近傍のMの小さな地震では継続時間が短いため,入射波のS波パルスが明瞭であれば,地表からの反射波も明瞭になると予想されるが,実際には入射波が明瞭であっても明瞭な地表反射波は見いだせない傾向がある.短周期の波動が,散乱や減衰により,表層で消費されてしまうためと考えられる.
 孔底から地表への伝播時間は,概ねPS検層モデルから計算される時間となるが,遠方の地震では計算よりも早い傾向がある.遠い地震で,孔底-地表間の見かけ走時が早まるという現象は,波面を意識して斜め入射を考えれば解釈できる.また,敷地に近くても地表への走時が早い地震も見受けられる.距離と深さからみて入射角度がそれほど大きいとは考えられず,また,S孔とE孔で傾向が異なることから,地下構造の不整形性の影響とも考えられる.
 深発地震の場合(2017年12月15日M4.1,2020年8月6日M5.1),地震波が鉛直に近い角度で入射すると考えられ,孔底から地表への伝播時間は,ほぼPS検層モデルと一致する.しかし,2つの地震で地表反射波の出方が異なっており,2020年の地震ではS孔,E孔とも地表反射波が明瞭であるのに対し,2017年の地震ではE孔では反射波が確認できるもののS孔の反射波は不明瞭である.両地震の波形では見かけの周期も大きく異なるため,地下構造の不整形の大きさを検討する材料になると考えている.

4.おわりに
 柏崎刈羽原子力発電所の大深度地震観測記録を用いて,孔底(GL-1022m及びGL-1500m)と地表間の地震波伝播性状を検討した.地中から地表への伝播時間は,概ねPS検層結果と整合的であるが,遠方の地震では地表到達時刻が早まる傾向がある.また,地盤の不整形性に起因するとみられる到達時刻のずれも確認できた.今後,さらに検討を進める予定である.

文献
Fujioka, M., Hikima, K., Uetake, T., and Isaida, T., 2016, Deep vertical array observation in Kashiwazaki-Kariwa nuclear power station, Proceedings of the 5th IASPEI/IAEE International Symposium: Effects of Surface Geology on Seismic Motion, P204E.