日本地震学会2020年度秋季大会

講演情報

A会場

一般セッション » S17. 津波

[S17]AM-2

2020年10月31日(土) 10:30 〜 11:45 A会場

座長:齊藤 竜彦(防災科学技術研究所)、座長:水谷 歩(北海道大学)

11:00 〜 11:15

[S17-03] 台風接近時の海底津波計データの周波数特性について-近地津波との比較

〇松本 浩幸1、柄本 邦明1,2、今井 健太郎1、高橋 成実1,3 (1.国立研究開発法人海洋研究開発機構、2.和歌山県、3.国立研究開発法人防災科学技術研究所)

日本の周辺海域に設置されている海底観測ネットワークの津波計(海底津波計)のリアルタイムデータは津波警報の更新だけでなく、一部の観測データは自治体が提供する津波情報へも利用されている。しかしながら台風接近時に運用上の課題が顕在化してきた。本研究では、リアルタイム津波検知手法の高度化のために、台風接近時に観測された海底津波計データを精査して、地震による津波との相違点を明らかにする。

「地震・津波観測監視システム(DONET)」の観測にもとづき自治体が提供する津波情報では、50 秒の短時間平均(STA)と300 秒の長時間平均(LTA)による判定値としきい値の比較から津波検知を自動判定する(Takahashiほか、2015)。しかしながら、台風接近時にはこの判定値が大きくなることが運用上の課題として顕在化してきた。本研究では、DONETに接近した2018年台風第24号を対象として、海底津波計のデータ解析を行った。台風がDONETに最接近したのは9月30日12時頃(時刻はUTC、以下同じ。)である(図1)。台風の接近を含む4日間のKMB05観測点の観測データを図2に示す。上から順に潮汐を除去した観測データ、STAとLTA、津波検知の判定値の変化を示す。台風が四国沖に到達する9月30日06時頃から判定値が急激に大きくなり、16時頃に最大値に到達した後、10月1日00時頃に収束する。同じ期間のスペクトログラムを図3(a)に示す。台風接近時には、長周期波(高潮)(≃ 10-3 Hz)、うねり(≃ 10-2 Hz)、脈動(≃ 10-1 Hz)の周波数帯域が卓越し、広帯域にエネルギーをもつ。9月30日14時頃から分散性の高潮が厳然と観測されている。台風からの距離や水深による振幅の違いを除き、卓越周波数の特徴は観測点間で一致する。

次に台風接近時と津波をともなう地震発生時に海底津波計で観測されるデータの特異性を明らかにする。2016年4月1日にDONETの直下を震源とする地震(M 6.5)が発生した(図4)。地震を含むKMD15観測点の1 時間のスペクトログラムを図3(b)に示す。02時39分頃の高周波(≃ 10-1 Hz)のエネルギーが地震動によるもので、直後に津波に関連する低周波(≃ 10-3 Hz)のエネルギーが続く。台風接近時とは異なり、それらの中間周波数帯域(≃ 10-2 Hz)にはエネルギーが卓越しない。

本研究では、台風接近時に観測された海底津波計データを精査して、地震による津波との相違点を明らかにした。本研究で得られた知見は以下の通りである。(1) 台風接近時と津波発生時では、海底津波計の観測波形の卓越周波数の特徴に差異がある。台風接近時は広帯域にエネルギーが分布するのに対し、津波発生時は低周波(≃ 10-3 Hz)のエネルギーが卓越する。(2) 運用中の海底津波計による津波検出の判定値が台風接近時に大きくなる要因は、うねり成分が卓越するためである。津波検出の判定を高度化するには、台風接近時のうねり成分(≃ 10-2 Hz)を除去する必要があることを示唆する。