日本地震学会2020年度秋季大会

Presentation information

Room A

Regular session » S17. Tsunami

[S17]PM-1

Sat. Oct 31, 2020 1:00 PM - 2:15 PM ROOM A

chairperson:Yusuke Yamanaka(The University of Tokyo), chairperson:Osamu Sandanbata(NIED)

1:00 PM - 1:15 PM

[S17-06] Multiple-shock Characteristic of the 1933 Showa-Sanriku Earthquake

〇Nobuo HAMADA1 (1.non)

1. はじめに
 1933年昭和三陸地震の震源についてはglobalなISSのデータを用いた調査が幾つも行われて来た。しかし国内の観測データを基に決められた気象庁カタログの震源は、図に示すようにそれらの震源からは東の沖合、海溝から大きく離れた地域に位置し、かねてよりその違いに疑問を持っていた。その原因を調査し突き止めたので紹介する。なお震源の深さについては議論するだけの精度がないと判断されることから、すべて震源の深さを0kmと仮定し検討した。
2. 震央位置の違いを生じた主要因
 国内外の観測データ及び地震計の記録を参照した結果、地震はM6前後の大きさの前震とその4~5秒後に起きた本震からなることが明らかとなった。Matuzawa(1935)は、当時はmultiple shockの概念はまだ存在しなかったためか、約4秒間隔で2種類のP波が遠地の8観測点で観測されたことを報告しているのみである。図の下部はMatuzawa(1935)に掲載されているPasadena(PSA)、RiverSide(RVR)、Zurich(ZUR)の記録Fig3を部分拡大したものである。当時の地震観測網の中でPAS、RVRでは倍率10000倍を超える高感度の光学式Benioff地震計の稼働が始まったばかりの頃であり、またZURの記録も機械式地震計としては最高の倍率(1000倍以上)を有するQuervain- Piccard地震計の記録であることを考えると当時観測の主力であった普通の機械式地震計では、遠地観測点で前震のP波を検知することは困難であったことが想像される。国内の地震計の記録は、倍率が低く記録の紙送りが30mm/分と遅いこと、前震の立ち上がりは必ずしも顕著ではなかったことから、時間分解能は乏しいものの、初動の3~6秒後に大きな揺れが始まっていることが共通に認められ、やはり前震に引き続き本震が起きたと解釈できる。
 今回の結果はアナログ記録の保存の重要性を改めて認識させられるものであるが、ともかく、大部分の遠地観測点ではISSに本震のP波を報告し、中央気象台の観測網ではパラオ(Δ=約3600km)を除きほとんどの観測点では前震のP波を報告したことになる。つまりJMA震源は前震の震源であり、ISSのデータを用いて決めた震源は、近くは前震の観測値と、遠くは本震の観測値を混合して決められた仮想震源ということになる。定性的に考えるだけでも、前震と本震の検測値を混ぜると、origin timeを遅くすることになり、近くの観測点の前震のP波の読み取りは、その分だけ短くなる走時を合わせるため震源を観測網の方に、この場合西側に引き寄せるように作用することが分かる。本多・竹花(1933)、JMA以外の、ISSのデータを用いて決められた各震央は、仮想震源の沖合から陸側への引き寄せ効果を見事に表している。 
3. 本震の震源
 本震の初動は主としてΔが7000km以上の観測点で記録されているが、これだけを用いて震源を精度良く決めることは困難であるが、前震と本震の震源は同じと考え、その時間差4~5秒を補正して合わせて震源を決めると、誤差の範囲であるがJMA震源のやや北に決められた。従って前震、本震ともに東経145度付近に震源が位置することは確実である。このことは震央が羽鳥(1974)など従来推定されていた津波波源域の外側もしくは東側の縁に位置することになる。津波波源域の再検討もしくは津波発生メカニズムについての検討が今後期待される。
4. その他
 今回の調査では次のようなことも明らかになった。
1) 昭和三陸地震の余震は本震から離れた海溝側に偏って発生している。このように海溝よりに偏った余震の分布は、同じouter riseで発生した2005年11月の宮城県沖地震(Mj7.1)、2011年東北地方太平洋沖地震の最大余震(Mj7.5)などでも認められる共通の特徴である。これらのouter riseの地震の震源域の中心は余震がほとんど起こらない強いAsperityの性質を持つことを示す。
2) 機械式地震計が主に用いられていた地震検知能力が低かった時代の、遠地地震の検測値には後続相が初動として報告されている事例が多数あるものと推定される。そのような遅延した検測値を震源決定に取り込むと、見かけ上、陸よりにシフトした震源を決めることになり、注意が必要である。