日本地震学会2020年度秋季大会

Presentation information

Room A

Regular session » S17. Tsunami

[S17]PM-2

Sat. Oct 31, 2020 2:30 PM - 3:15 PM ROOM A

chairperson:Yutaka Hayashi(Meteorological Research Institute, Japan Meteorological Agency)

2:30 PM - 2:45 PM

[S17-11] Reconstruction of the inundation height by spatial interpolation method in the Sendai plain after the 2011 Tohoku Tsunami

〇Yuuki Eguchi1, Yoshinori Shigihara1, Tsuyoshi Tada1 (1.National Defense Academy of Japan)

2011年に発生した東北地方太平洋沖地震では,北海道から関東に至るまで広大な範囲で津波の浸水被害を発生させた.東北地方太平洋沖地震津波合同調査グループ(以下,TTJS)は,多くの研究者の現地調査によって収集された津波の痕跡の情報を集約し,実際の浸水状況を把握するためのデータベースを構築した.
一方で,津波の浸水範囲が広く人手が不足したことや,田畑が広がっているなどそもそも痕跡になりえるものがない等,様々な理由により痕跡が密なエリアと疎なエリアが存在したり,信頼度を確保できなかったりする.そのため,津波の遡上計算における再現性の確認では,可能な限り万遍なく分布した痕跡高を使用することが望ましいが,実際には分布の密度や信頼度を考慮せずに使用せざるを得ない状況になっている.
本研究においては,津波による痕跡をもとに様々な内挿補間方法で作成された浸水高分布を作成し,数値シミュレーションによる遡上計算の結果と比較することで,津波の浸水高分布の再現に最適な内挿補間方法と痕跡の選択について提案を行う.仙台の沿岸部を対象とした本研究では,津波の浸水高分布の特徴を内挿補間によって再現できることが確認された.


内挿補間は,離散的に分布するデータから連続的な分布を作成し,空間全体の状態を把握するために使用され,扱う現象やその性質により,いくつかの方法が提案されている.本研究の痕跡を用いた浸水高分布の内挿補間による再現においては,ArcGISにおいて3D Analystツールで実装されている「Inverse Distance Weighted(以下,IDW)」,「Natural Neighbor(以下,NN)」,「クリギング」,「スプライン」,「トレンド」の5種類を使用した.このうち,IDWとクリギング,スプラインについては,内挿補間の際に用いる周囲の情報の点の数を設定できるが,用いる点の数を変化させることにより,空間分布に与える影響も確認した.
また,内挿補間に使用する痕跡については,TTJSによって収集された七北田川以南の仙台平野の痕跡を全て使用した場合,このうち多田ら(2018)によって信頼度が高いと分類された痕跡のみを道いる場合の2ケースと,これらのケースに浸水域のデータから遡上限界に点を追加した2ケースの,計4ケースで内挿補間を行い,浸水高分布を比較した.
内挿補間によって作成された空間分布は,非線形長波モデルで計算された津波遡上計算と比較して特徴の分析を行った.本研究では離散的な浸水高との比較において幾何平均K と幾何平均偏差κが良好であった,藤井・佐竹モデルVer.8.0(2013)を断層モデルとして使用し,遡上計算を行った.マニングの粗度係数は,津波浸水前の土地利用に基づき,小谷(1998)の粗度係数を使用した.


各内挿補間の方法により作成された浸水高分布の概要は,以下のようになった.

・IDW:痕跡が少ないエリアは沿岸部であっても浸水高が減少するが,内陸部に行くにつれ浸水高が確実に減少した.なお,補間に用いた点の数による変化はほとんど見られなかった(下図).
・NN:浸水高が沿岸部から内陸部にかけ減少していく傾向を再現した.ただし,痕跡の高さに比べて過大計算する傾向が見られた.
・クリギング:IDWの結果とほぼ同じであるが,使用する近傍の点を増やすほど沿岸部の浸水高が減少し,再現性が悪化した.
・スプライン:痕跡が少ない点をマイナスとするなど,局所的に高い浸水高の痕跡を含む今回の内挿補間には不適であった.
・トレンド:浸水域全体で関数に近似できるような傾向がなく,浸水高分布の再現はできなかった.

また,使用する痕跡については,多田らが行った分類を用い,遡上限界点を追加しない組み合わせが,浸水域を最もよく再現した.これは,特に遡上限界点付近の痕跡における遡上高が,その痕跡よりも海側の痕跡の浸水高よりも高い場合があり,内陸部の浸水高分布を押し上げるように寄与するためである.
浸水高の分布はIDW,NN,クリギングが,内陸部に行くにつれて減少しており,遡上計算に類似した結果となった(下図).一方で,遡上計算では仙台東部道路の盛土が津波をとどめることになり,その東西において急激に浸水高が変化している.このように,浸水高が急激に変化するような状況を,今回の痕跡の分布では内挿補間によって再現することはできなかった.ただし,急激な浸水高の変化も,その周辺において痕跡が多数収集されていれば,再現できる可能性がある.
各内挿補間方法と遡上計算の結果における,浸水域全体の浸水高の頻度分布を比較すると,ピークの値やその周辺の分布から,IDWが最も遡上計算に近い結果となった.本研究において,クリギングでは痕跡が少ないエリアが遡上計算結果と外れやすく,NNでは全体的に浸水高を過大計算していた.