日本地震学会2020年度秋季大会

Presentation information

Room A

Regular session » S17. Tsunami

[S17]PM-2

Sat. Oct 31, 2020 2:30 PM - 3:15 PM ROOM A

chairperson:Yutaka Hayashi(Meteorological Research Institute, Japan Meteorological Agency)

2:45 PM - 3:00 PM

[S17-12] Numerical study on tsunamis propagating into river channel

〇Kento Koseki1, Yusuke Yamanaka1 (1.Department of Civil Engineering, The University of Tokyo)

河口域に来襲した津波は,海域と河道の接続領域における複雑な流体運動を経ての河道に侵入し,その上流域で津波の氾濫被害を引き起こすことがある.しかしながら,定量的な観測データの不足から,その接続領域における津波の挙動については未だ限られた知見しか得られていない.本研究では,複数の数値モデルを用いて,海域と河道の接続領域における津波の流体特性の基礎的な分析を行うことを目的とする.
本研究では図に示す中心軸を基準とした軸対称の計算領域を設定し,沖側境界から最大水位と波長でパラメタライズしたガウス分布の津波を入射させることで,河道を模した狭窄水路に侵入する津波の挙動を分析する.数値モデルとして線形長波モデル,非線形長波モデル,非線形分散波モデルを用い,側方境界の線流量に対する境界条件としていずれの数値モデルに対してもSommerfeld放射条件を与えた.なお計算領域内における水深は一様であり,入射波は沖側境界において長波条件を満たしている.また水陸境界では鉛直壁を仮定しているため津波の水路外への氾濫は考慮していない.このような条件の下で,入射津波の波高や波長,水深や狭窄水路幅などの地形条件,格子解像度などの数値計算条件を変化させながら,狭窄水路に侵入する津波の挙動を分析した.
本研究で得られた津波の伝播過程及びその特性を以下に示す.なお,本研究ではガウス分布の標準偏差(σ)を用いて,6σを入射津波の波長L’と定義する.また,図においてhは初期水深,ηは初期水位からの水位変動,ηin,maxは入射波高,wは狭窄水路幅,vは流速を示す.本研究においては、初期水深(h),初期水深に対する入射波高(ηin,max /h)、初期水深に対する波長(L'/h)、狭窄水路幅(w)をパラメータとして設定した.まず狭窄水路に向かって伝播する津波は,狭窄地点の鉛直壁前面において水位を増大させた.ここで,鉛直壁前面位置(中心軸上)で観測される最大水位と入射波高の比を波高比と定義すると,波高比は最大で2程度となった.また,狭窄水路幅や入射津波の波長と狭窄水路幅の比(相対水路幅),波の非線形強度などが波高比を決定する要因となることがわかった.次に,鉛直壁全面で増大した水位は,狭窄水路周辺の水位よりも大きくなるために圧力勾配が生じ,それによって狭窄水路に津波が侵入した.狭窄地点と沖側境界地点において,狭窄水路に流入する流量の累積値(侵入方向線流量の時間積分)と入射地点におけるそれとの比を侵入率と定義すると,その値は最大で33%程度となった.狭窄水路幅は計算領域幅の1/6であるため,狭窄水路に侵入する以前に比べて単位幅あたりの流量の累積値は2倍程度に増加したことに相当する.さらに,波高比を決定するパラメータの中で,相対水路幅の侵入率に与える影響は小さく,また入射波が狭窄水路に侵入する過程で波面が先鋭化することでその分散性が大きくなったが,本研究で適用した条件ではその影響は無視できることがわかった.
最後に,上述の数値計算格子を4倍に高解像度化して同様の分析を行い,上述の結果と比較した.高解像度化することにより,狭窄水路幅と格子解像度の比が4~20から16~80に増加することで,狭窄地点周辺で生じる縮流の流速場の推定精度が全ケースにおいて大きく向上した.その結果として波高比は最大で14%程度,侵入率は最大で7%程度上述の実験よりも増大した.本実験及び上述の実験ともに,入射波の波長と格子解像度の比は数百以上を維持している.これらのことから,狭窄水路に侵入する以前の入射津波の伝播の推定においてはいずれの場合においても十分な精度で推定できていることが推察される.また,非線形強度が小さい入射波条件においてもその他の入射波条件と同様に縮流の推定精度が向上したことから,狭窄水路幅の解像度が縮流の推定に影響する主要因の一つであることがわかった.
以上の結果から,河口域に来襲した津波が河道内に侵入する過程及び侵入後の挙動を高精度に推定するためには,河道に侵入する過程で発生する縮流を高精度に推定する必要があることがわかった.その推定精度が不十分である場合には上述の波高比及び侵入率を過小に推定し,河道内の津波による水位上昇量及び流量を過小評価する可能性がある.