日本地震学会2020年度秋季大会

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Poster session (Oct. 31th)

Regular session » S17. Tsunami

S17P

Sat. Oct 31, 2020 4:00 PM - 5:30 PM ROOM P

4:00 PM - 5:30 PM

[S17P-06] Kinematic behavior of fault segments near the trench based on tsunami inversion source models of the 2011 Tohoku earthquake

〇Yoshinori Satou1, Masanobu Koba2, Masafumi Matsuyama3, Hayato Mori4 (1.Unic, 2.EGC, 3.CRIEPI, 4.CEPCO)

1. はじめに
 M9クラスの2011年東北地方太平洋沖地震の津波の再現では,断層のライズタイム(断層面のある場所のすべりの継続時間)の影響を無視できず,特に海溝軸付近の断層の破壊過程は沿岸に到達する津波挙動に大きく影響を及ぼすことが既往研究(例えばSatake et al.(2013)など)より明らかとなっている.既往研究の津波波源モデルのライズタイムは,マルチタイムウィンドウインバージョン解析によって推定されており,タイムウィンドウの設定条件等によって規定されている可能性がある.そこで本研究では,津波波源のライズタイムに着目したインバージョン解析を実施するとともに,本検討および既往研究の津波波源における海溝軸付近の断層の運動学的挙動を考察した.

2. 津波波源のライズタイムに着目したインバージョン解析
 2011年東北地方太平洋沖地震での津波波形の再現において,津波波源のライズタイムがどの程度必要となるのかを検討するため,タイムウィンドウの合計時間Tを60~300秒まで変化させたマルチタイムウィンドウインバージョン解析を実施した(タイムウィンドウ幅は10秒とし,ウィンドウ数を変化).波源モデルの断層形状はSatake et al.(2013)を使用し,再現対象はGPS波浪計の津波波形と陸域の最終地殻変動量とした.破壊伝播速度Vrは1.5~3.0km/sの範囲で4パターン設定し,各小断層は震源からの破壊フロント到達後に各々設定したタイムウィンドウの範囲内で破壊可能とした.図1に本検討結果を示す.図1(a)に示す波形残差平方和は,タイムウィンドウが増加するほど解の自由度が増加するため値が小さくなることは当然であるが,T210(タイムウィンドウの合計時間210秒)以降でほぼ収束している.一方,T60やT90では波形残差平方和は大きく,観測波形を十分に再現することができない.図1(b)に示すライズタイムは,各小断層のすべり量が0.1m以上となるタイムウィンドウを集計し,その最大値を示したものであるが,240秒程度で頭打ちとなる.これらの結果より,津波を再現するうえで必要となる津波波源のライズタイムは200秒程度と判断される.

3. 津波波源モデルにおける海溝軸付近の断層の運動学的挙動
 本検討結果と同様に,津波観測記録や最終地殻変動量を再現対象とした波源モデルに,内閣府(2012) ,杉野ほか(2013)およびSatake et al.(2013)がある.また,上記の観測記録に加え,陸域のGNSS連続観測データ(1秒間隔地殻変動データ)を用いた波源モデルに,金戸ほか(2019)と根本ほか(2019)がある.これらの波源モデルについて,小断層ごとのすべり量とライズタイムの関係を図2に示す.本検討結果(T210, Vr=2.0km/sのケース)では,ライズタイムがタイムウィンドウの合計時間に達しておらず,タイムウィンドウの制約を殆ど受けていないといえるが,既往研究結果ではタイムウィンドウの合計時間に達している断層が多数存在している.つまり,既往研究結果では,各モデルで設定されたライズタイムの上限値の影響が含まれていることとなるが,内閣府(2012)以外での海溝軸付近の断層のすべり速度(近似直線の傾き)は本検討結果と同程度といえる.なお,内閣府(2012)のみすべり速度の傾向が異なっているのは,断層の深さが実際よりも深めに設定されていることが一因と考えられる.金戸ほか(2019)や根本ほか(2019)では、GNSS連続観測データの再現のため、陸域に近い海溝軸付近以外の断層で大きなすべり速度を示したものと思われるが、海溝軸付近の断層のすべり速度は本検討結果と同程度である.以上より,いずれのモデルでも,すべり量が大きい小断層ほどライズタイムも大きく,津波波形への影響が大きいとされる海溝軸付近の断層に着目すると,海溝軸付近の断層における津波波源としてのすべり速度は,平均的に0.2~0.3m/s程度といえる.

謝辞 本研究は電力11社による原子力リスクセンター共研として実施した成果であることを付記するとともに,土木学会 原子力土木委員会 津波小委員会(委員長 高橋智幸関西大学教授)の委員各位に研究成果をご議論頂き,有益なご助言を賜りました.また,東京電力ホールディングス株式会社の金戸俊道氏および応用地質株式会社の根本信氏からは波源モデルに関するデータをご提供いただきました.記して関係各位に謝意を表します.
注記 本研究に示す金戸ほか(2019)は下記情報の修正前データを使用したものである.
https://www.tepco.co.jp/press/release/2019/1516534_8709.html
(福島第一原子力発電所波高計の設置箇所情報の誤りについて)